6 災厄のドラゴン
災厄のドラゴン
早朝、食事を終えるとすぐに隊商は出発した。
森の中へと続く一本道を入ると、すぐに薄暗くなる。まるで夕暮れのようだ。
「ジェイロウの旦那は甘いんだ」
ガストーは出発してから、ずっと文句を言っていた。
「ドラゴンって物の怖さをわかってない。そりゃあ、あんたやあの魔女は強いさ。だが、それでドラゴンにも勝てると思ったら大間違いだ。一度だけ近くで見たことがあるが、あれは悪魔だ。百人もいた仲間が、たったの5分でみんなミンチ肉になっちまった。生き残ったのは三人だけだぜ。信じられるか?」
「でも、必ず遭遇するってわけじゃないんだろう?」
「ああそうさ。そうでもなけりゃ、とっくに逃げ出してる。でも仮に一割としても、その確率で確実に死ぬんだぜ。報酬を二倍にしたくらいじゃ、とても割に合うもんじゃない。なんで魔女の姉ちゃんたちは、やるって言ったのか……あんたもだぞ。そのせいで死んだら化けて出るからな」
それでも午前中は順調に進んだ。
昼間になっても休憩を取ったりはしない。朝のうちに作っておいた弁当を食べながら、ずっと進み続ける。
何もなければいい。
いや、このまま何もないんじゃないか。そう思いかけていた時だった。
ズズズウゥウウン。
地響きのような音と振動が、突如、隊商を襲った。
「な、なんだ。何が起きた!」
「馬車を止めろ。状況を確認するんだ」
パニックになっている連中を無視して、俺は馬車から飛び降りた。
なんだ、こりゃ……。
いつもに増して薄暗い。いや、そうじゃない。何かの陰の中にいる。
上を向くと、そこには巨大な肉食恐竜のような生物がいた。二本の足と尻尾を使って直立している。
グウォオオオオ!
ドラゴンは赤い目で俺たちを睨みながら
背丈は軽く十メートル。背中には大きな翼があり、全身がウロコで覆われている。
「ミリア、奴はどうして襲ってきたんだ」
「ハイ、おそらくナワバリを守るための行動だと思われます。この場合、大型のモンスターは敵を完全に殲滅するまで攻撃を続けることが知られています」
「倒すための最善の行動は?」
「ハイ、【
「よし、それで行こう」
スマホをポケットから取り出し、画面を操作しようとした瞬間、ドラゴンはいきなり腕を大きく振った。
ブゥウォオン。俺は風圧に耐えられずに地面を転がった。
くそっ。当たってもいないのに、なんて威力だ。チラリと後ろを見ると馬車が横転している。被害は……わからない。
「ジャック殿、無事か!」
シルフィが俺の方に駆け寄ってきた。
「今のはラジョアの防壁魔法だ。目標をそらしてくたが、次はない」
なんだよ、圧倒的じゃないか。
背筋がゾクっとした。早く勇者にならないと、みんな死ぬ。
だが、俺の手に頼みのスマホはなかった。さっき転んだ時、落としたんだ。
どこだ、どこだ……。
「ジャック殿、何をしてるんだ。このままだと全滅する。あの化け物に少しでも剣が届くとしたら私たちだけだ。少しでも足止めができれば、誰かが生き残れるかもしれない」
いや、待ってくれ。だから勇者になれば勝てるんだよ。
スマホを探して拾って、【職種】を変更して、ステータスを入力すれば……。
俺は
ドラゴンの目玉がぐるりと回って俺たちに向いた。
「足を狙うぞ。一緒に攻撃してくれ」
くそっ、やるしかない。
俺はシルフィを追いかけるようにして、走った。その途中で剣を抜く。
狙うのは足だ。というか、この体格差だと足にしか届かない。
俺は【剣聖】の神速の剣でドラゴンの右足を斬った。同時にシルフィが左足をなぎ払う……はずだった。
キン! 絶望的な音と共に、俺の剣が折れて飛んだ。シルフィの魔法剣は少しウロコに食いこんだ……らしいが逆に抜けなくなっている。
「剣を捨てて、逃げろ!」
だが、その声が届く前にシルフィが蹴り飛ばされた。
グシッ。嫌な音だ。シルフィは軽く五メートル以上は飛ばされて、地面に転がる。
「大丈夫か!」
声の限り叫んだが、返事はない。
死ぬ、シルフィが死ぬ。
全部俺のせいだ。俺がゴブリン相手に調子に乗ったから、ジェイロウが危険な道を通ることを思いついた。【勇者】になれば楽勝で勝てると思ったから、その考えを後押しした。それもこれも、俺が自分のユニークスキルを過信したせいだ。
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