4 王都の外へ

魔力検査

「ジャックさん、ようやく列が動き始めたみたいですぜ」

 頬に傷のある傭兵が話しかけてきた。

 城門を出る列は30分くらい前から止まっていた。理由はだいたい想像がつく。


 外へ出ていたゴルドーが馬車に戻ってきた。

「おう、みんな。今、旦那に聞いてきたばかりの情報だ。耳をかっぽじって聞けよ。

 どうやら王宮で事件があったらしい。王宮に侵入した盗賊が逃げているんだそうだ。年は17才くらい。黒い髪の男だ。おそろしいくらいの腕利きで、完全武装の兵士を二人も倒したって話だ」


「まるでジャックさんみたいですね」


 俺はゾクっとした。

 実はまだ、学生服は俺の荷物の底にある。軽口のつもりだろうが心臓に悪い。


「……もちろん別人だ。そいつには常人離れした魔力があるらしいからな。

 なんと、剣を素手で受け止めてから、兵士を二人とも殴り倒したそうだ。だから今日は、いつもより念入りに魔力検査をしている」


「念入りって、そんな化け物みたいな魔力があるなら、普通の検査で十分でしょう」


「それが、そうもいかないんだな。そいつは魔力探知機を誤作動させるスキルを持っているんだそうだ。そんな能力があるなんて初耳だが、旦那が聞いた話だから間違いない。旦那はお偉い貴族様にも顔が効くからな」


「すると、アレをやるんですか……」

 頬に傷のある男は、ウンザリとした顔をした。


「あれって何だ?」


「ジャックさんは初めてですか? 探知機を持っていない都市では、よくやるんですよ。

 検査する人間の腕に針を刺すんです。……それで血が出れば魔力がない凡人。出なかったら魔法使いってことです」


 なんだそりゃ。

 まるで本で読んだ魔女裁判だ。

 実際に中世ヨーロッパでは、針が引っこむオモチャみたいな器具で検査をしたらしい。

 血が出れば無罪、血が出なければ魔女にされる。もちろん、犯人をデッチ上げるためのインチキだ。


「そんなのでわかるのか」


「原始的な方法ですが、意外と正確らしいですぜ。

 ある程度の魔力がある人間なら、無意識に身を守っちまうもんなんだそうです。強い魔力を持っていたら、針が折れちまうこともあるらしいですぜ」


「そういうことだ。……だが、別に問題はない。旦那が雇った魔法使いはギルドに登録してるし、二人とも女だ。俺たちが少しばかり痛い思いをすれば、すんなりと通れるさ」



 それから少しして、俺たちは城門の前に並べたイスに座るように命令された。

 腕をまくられて、順番に針を刺される。まるで予防注射だ。


「コラッ、目をそらすな。針を刺すところをよく見ているんだ。目をつぶったら、やり直しだぞ」

 検査官がムチャクチャなことを言う。


 イタッ。

 魔力を0に設定していたから、当然、血が出た。


「もういい。次っ!」

 雑だ。消毒もしない。たぶん医者ですらない。

 くそっ、病気になったらどうするんだ。


 検査が終わってから、俺はまたコッソリと聞いた。

「ミリア、針の使い回しなんかして大丈夫なのか?」


「ハイ、この世界では普通のことです。肝炎ウィルスなどに感染する可能性は1パーセント以下です」


「1パーセント以下って……それが嫌なんだよ」


「感染しても問題はありません。ショウヘイ様なら回復魔法の使用が可能です。

 極大魔法『ギガヒーリング』を使用すれば、全ての病気だけでなく失われた手足や内臓などの器官の再生も可能です」


 なんかムチャクチャなこと言ってる。

 そこまでいくと、治療というより神の奇跡だ。


「でも、どうすればそんな魔法が使えるんだ」


「ハイ、もちろん複雑な魔法を使うためには、長い鍛錬が必要です。この世界にはそのために魔法学校が存在しています。

 でも、ショウヘイ様の場合はチートな裏技が使用できます。ユニークスキル【職種偽装】で魔法が使える職種を設定すればいいのです。【大賢者】なら、わざわざ学校で教えてもらわなくても究極魔法が使えます。【勇者】に設定すれば、魔法と剣技との複合技を使用することも可能です」


 すげえ。

 ちょっとワクワクしてきた。


 検査を終えると、俺たち傭兵部隊はまた幌馬車に乗りこんだ。

 あっさりと城門を越え、街道を走る。

 追手の連中も、俺が都市を出たとは思ってもいないだろう。


 もうこれで自由だ。

 この世界に来て、俺は初めての解放感を味わっていた。




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