第10話 決闘──②

「考えている暇を与えると思うか?」

「ッ!?」



 いつの間にか目の前にいるルーガ。

 いや、目の前だけじゃない。

 左右にも。そして多分後ろにも、いる。

 合計4人のルーガだ。

 ちょっ、待っ……!



「スキル──《ギガスラッシュ・連》」

「アガッ!?」



 振り下ろされたのは一振り。

 が、体に感じたのは10回の連撃だ。

 それが、4倍。

 合計40回の連撃……今までの人生で受けてきた衝撃の中で、1番の衝撃だ。

 前後左右、行き場のなくなった衝撃は逃げ場を探すように、上空へ向かう。


 衝撃と共に、体が宙を舞う。

 あぁ……空が高い。

 やばいなぁ。戦う気力が折られる。

 竜騎隊最強……伊達じゃない。

 数メートル……いや、十数メートル上空から、下を見る。

 あれ、構えてる?

 うそ、あそこから届くの?


 ルーガの体から青白いオーラが迸る。

 わぁ、ファンタジーみたい。

 ……あ、この世界ファンタジーじゃん。



「お前のスキルが何かは知らんが、俺は決して油断しない。スキル──《昇竜剣》!!」



 下から突き上げるように振るわれる剣。

 そこから、ドラゴンの頭のような形の斬撃が放たれた。

 俺を丸呑みにするほど、巨大なドラゴンの頭だ。

 それが意思を持っているかのように蠢き、俺に迫ってくる。

 マジかよッ、スキルとか何でもありか!?

 いくらなんでも、これ以上攻撃を受けると精神的におかしくなる……!

 どうしようっ、どうしようっ、どうしよう……!?






「ま、ま──《魔手》!」






 ……え?

 少しでも体への衝撃を和らげるように突き出した両手。

 けど……両手がなんか黒い。

 直後──俺の両手から、漆黒の巨大な手が放たれた。

 放たれた漆黒の手はドラゴンの頭をがっつり掴み、上顎と下顎から真っ二つに引き裂いた。

 それだけに留まらず、地上にいるルーガへ迫る。



「ッ!?」



 間一髪、ルーガが漆黒の手を切り裂くと、何事もなかったかのように霧散した。



「……は……?」



 な……なんだ、今の……?

 今、俺の手から……何かが……?

 両手を握って開く。

 特に何も違和感はない。

 今のは、隠されたスキル、とか?

 いや、それはないだろう。スキルならリアンナが教えてくれた。

 俺のスキルは、《鉄壁・S》と《誤字》。

 それ以外には……。



「あ。ほべっ!」



 そ、空にいたの、忘れてた。

 がくがくする脚に力を入れて立ち上がり、ルーガから距離を取る。

 そうか、わかったぞ、今の攻撃が。

 多分だけど……《誤字》スキルによるものだ。

『待て』と『魔手』を間違えたことにより、俺の手からあれが放たれた。

 そう考えるのが自然だろう。

 これは、使いようによってはかなり強力なスキルだ。


 警戒しているのか、ルーガは近づいてこようとしない。

 剣を構え、じっとしている。



「今のはスキルか? 見たことないが」

「言うかよ」

「違いない」



 いいぞ。今のルーガは、黒い手あれが俺のスキルだと思い込んでいる。

 その隙を突けば、なんとかなるか?

 けど、多分さっきの手はもう通用しないだろう。

 2回も同じ攻撃が通じる相手じゃないくらい、今の攻防でわかる。


 ルーガは息を大きく吐き、剣を肩に担いで近付いてくる。

 な、なんだ? なんでそんな無防備に……?



「不思議な奴だ。動きは無駄が多すぎるし、力も弱い。まるで初めて戦った子供みたいな動きだ」

「ご名答。戦うのは初めてだ」

「馬鹿を言うなと言いたいが、今の一連の流れでは信じてしまいそうになるな。──だが」



 ……ぇぁ?

 なんかいきなり、足の裏に地面を感じられなくなった。

 重力がなくなったかのような、ふわふわした感覚に、意識が混乱する。

 目の前に広がる、一面の青。

 次の瞬間。



「フッ──!!」

「げばっ!?」



 は、腹を踏みつけられた……!?

 まさか、今の一瞬で俺の脚を払って、宙に浮かばせた……!?

 いくらなんでも速すぎだろ……!

 地面に叩き付けられた状態で放心する。

 と、ルーガが脚の側面に括りつけていた4本のナイフを使い、俺の服を貫き地面に縫いつけた。

 同時に右腕のナイフを蹴り飛ばされる。

 そして、俺の口の中に剣を入れ、さっきと同じ青白いオーラをまとわせた。



「表面はどうか知らんが……中から《昇竜剣》を放たれたら、貴様の体はどうなるかな?」



 サラッと恐ろしいことを!?



「ハザマがスキルを使用する前に、俺が貴様の口にスキルを叩き込む。降参するなら右手を上げろ。素人の貴様を殺すつもりはない」



 ルーガが本気ガチの目で睨みつけてくる。

 これ、俺が降参しなかったら、《昇竜剣》を使ってくる……よなぁ。

 はは。竜騎隊最強に勝つなんてさすがに無理があったか……。

 ゆっくりと右手を上げる。

 ……ふはっ。



馬鹿めはかへ油断したなっふはふひははっ!」

「は? 何を──」



 ルーガが反応するより早く、スナップを効かせて右腕を振るう。

 直後、右腕に仕込んでいた、、、、、、、、、スリーブガン、、、、、、から、プッシュダガーが射出。

 右手に収まり、そのままの勢いでルーガの首元に突き付けた。



「なっ……!?」

動くなふほふな



 いくら最強の騎士とはいえ、喉を斬られたら死ぬだろう、多分。

 俺の口にスキルを放つよりも速く俺が動ければ、勝機は高い。

 本当は拳銃を仕込むためのものだけど、上手く応用できてよかった。

 デジタルネイティブの知識量、舐めんなよ。



「貴、様ッ……!」



 どうやら、ルーガは動きたくても動けないらしい。

 ということは、このダガーはルーガにも有効だということか。

 ここからは度胸試しと根性勝負、てことになるのか?

 さすがに度胸と根性で勝負されたら、俺に勝ち目はないなぁ……。



「──それまで!!」



 そんなことを考えていると、突如第三者の人影が乱入してきた。

 リアンナだ。

 俺のダガーとルーガの剣を掴んで、静止した。



「双方、刃を引け」

「ハッ!」

「……おう」



 俊敏な動きで、ルーガが俺の上からどく。

 あぁ……普通に喋ることの素晴らしいこと。

 俺たちが十分離れたことを確認したリアンナは、両手を大きく広げた。



「ハザマ対ルーガ。この決闘、勝者なし! 引き分けとする!」

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