第4話 突然の居候生活
「……はぁ〜……」
ばたん、きゅ〜。
なんか一気に力が抜けた。
せっかくスキルがわかっても、意味がわからないと使えないとか、ゴミすぎる。
唯一使えるのは《鉄壁・S》スキルのみ。
戦闘スキル、皆無である。
倒れたまま天井を見上げる。
そんな俺の顔を、リアンナが覗き込んできた。
「だ、大丈夫か……?」
「大丈夫に見えるか?」
「八つ当たりをするな。《鉄壁・S》スキルさえあれは、どんなことをしてもお前にダメージは与えられない。いいじゃないか」
確かに、字面だけ見るとすごい。
でも俺は戦闘のど素人で、この世界の人間は戦闘のプロばかり。
人間じゃなくても、魔物だって強力だ。
そいつらと敵対して戦っても、負けはしないが勝つこともできない。
つまり、使えたとしても満足に戦えるわけではない。
あれ? 俺、詰んだのでは?
……とにもかくにも、まずは眼鏡だよなぁ。
「眼鏡……うぅ、眼鏡ちゃん、どこぉ……」
「まるで恋人だな」
「体の一部と言ってもいい」
「えぇ……」
「引くな」
眼鏡が体の一部だなんて、俺たち眼鏡ユーザーの間では常識でしょう。
「はぁ……これから先、どうしよう……」
「行く場所、ないのか?」
「異世界人だからな。身よりもなければ人脈もゼロ」
「そうか」
互いに無言になる。
訓練中なのか、外からは活気のいい声が聞こえてきた。
魔物という脅威がある世界では、強くなることが生きるための手段になるのか……大変だな。
これからここで生きていく俺も、他人事ではないけど。
しばらく、無言の時間が続く。
すると、リアンナは俺の隣に寝転び、同じく天井を見上げた。
「……私の家、来るか?」
「……え?」
今、なんて?
「強制ではない。ただ、行く場所がないなら、しばらく私が面倒を見てやる」
「いや、ダメだろ」
「遠慮するな、女の一人暮らしだ」
それが一番遠慮する理由なんだが。
いくら俺が彼女いない歴=年齢の童貞だからって、美女の家に居候とかダメに決まってる。
「なんだ? ハザマ、私の提案が不満か?」
「不満というか……お前は心配じゃないのかよ。男が転がり込んでくるんだぞ」
「はっはっは。お前、私に力で勝てるつもりか?」
「……杞憂でした」
片や十歳児並みの力。片や竜騎隊の隊長。
俺が情欲に負けて襲おうとしても、パワーで捩じ伏せられる。
「それに、お前の身体的なことや、身の上を知っているのは私だけだ。下手に一人で宿に住まわせたら、明日にでも死んでいそうだし」
「……信じてくれるのか? 俺が異世界人だってこと」
「完全ではないがな。ただ、Sクラスのスキルを二つ持っているのを見てしまった。信じるしかあるまい」
Sクラスのスキルって、そんなに超希少なのか。
ありがたいけど、使えないと意味がない。
やっぱりあのクソ神は許さん。
「幸い、明日は休日だ。街でお前に必要なものを買おう」
「……ありがとう。お世話になります」
「うむ。この私にドンと任せておけ」
◆◆◆
夕方になり、俺とリアンナはリオに乗って、王都の外れの小高い丘の上に来ていた。
そこには結構な広さの平屋があり、リオ用の竜舎までついている。
丘からは王都を一望でき、街の灯りが煌びやかに輝いていた。
「おお、綺麗だ……」
「見えるのか?」
「見えないけど、滲むような光りなら。まるで光の海だ」
「詩的な表現だな。嫌いじゃない」
意外と乙女なところもあるのね。
あ、いや、意外でもないか。迫られると乙女顔をするところなんか、可愛かったし。
「おい、今失礼なこと考えたか?」
「可愛いって言葉が失礼に当たるなら、考えた」
「そうか。なら一発殴って……へぅっ……!?」
え、何今の。鳴き声?
兜の隙間から湯気のようなものが立ち上る。
恥ずかしがってるのか? ますます可愛い。
「そ、外は寒い。入ろう」
「だな。お邪魔します」
リアンナに続き、家に上がる。
玄関とリビングは一体になってるみたいだ。
それにしては広い。リビングだけで二十畳以上ありそうだ。
綺麗に整備されているキッチンと、厳かで大きな暖炉。
壁には剣以外にも槍、ハルバート、棍棒が掛けられている。
扉は奥と左右に一つずつ。別の部屋もあるみたいだ。
そして何より、女性特有の甘く、男心をくすぐる匂い。
少し……いや、だいぶ緊張する。
「ソファーで寛いでいてくれ。部屋は後で案内する」
「わ、わかった」
言われた通りにソファーに座る。
うお、ふかふか。異世界でも、こういうものはあるんだ。
強制的に力が抜ける。恐るべし、ふかふかの魔力。
火の付いていない暖炉をぼーっと見ていると、リアンナが奥の扉の向こう側に行ってしまった。
どこ行ったんだろう。
でも勝手に人の家を探索する訳にはいかないし……待ってるか。
ぼーーーーーーーーーーーー……ガチャッ。
「待たせた。今飯の準備をする」
「ん? ……リアンナ?」
「む? なんだ。何をそんなに呆けている」
いや……えと……え?
出てきたのはリアンナだと思う。
声もリアンナのもの。兜も取ってるし、この綺麗なブロンドヘアーは間違いない。
けど……その、服装が……。
「う、薄すぎだろっ! そのっ、服……!」
シルエットでしかわからないけど、多分水色のタンクトップに、ぴっちりした白のショートパンツだ。
髪はゴムか紐で結ばれているのか、ポニーテールになっている。
そんな服装のせいで、艶かしいプロポーションが露になっている。
はっきり言おう。
でっっっっっっっっか。説明不要。
「家で何を着ようと、私の勝手だろう。それにハザマは目が悪いからな。気にならん」
「シルエットは見えてんだからな!?」
「……〜〜〜〜ッッッ!!」
バタンッ!! あ、逃げた。
まったく……心臓に悪すぎる。
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