第3話 前途多難すぎる
生唾ごくり。
これは、下手なこと言ったら首が飛ぶ。
比喩ではなく、リアルに。
この目、
「もう一度問う。貴様は何者だ?」
「は、狭間鏡一でしゅっ」
「名前ではない、正体だ」
ギクリッ。
しょ、正体……? え、俺が人間以外の生物に見えるってか?
確かに昔から、眼鏡をとったら悪人面と言われるような見た目だけどさ。
でも、さすがに人間以外に間違えられたことはない。
どう答えようか迷っていると、リアンナが先を口にした。
「私は聞いたな。身ぐるみでも剥がされたのか、と。しかしそれにしては、身なりが綺麗すぎる。抵抗した跡も、怪我をした痕もない。ということは、賊に襲われたのは嘘だ」
「そ、それは……怖くて、持っているものを渡したからで……」
「賊はそれほど甘くない。貴様を捕えて臓器を売るか、人身売買で奴隷商に流すか……何が言いたいかというと、身綺麗なままで歩いているのは不自然、ということだ」
HAHAHA! 面白い推理だ。君は小説家になった方がいいんじゃないか?
……冗談です、ごめんなさい。
それにしても、推理がどんぴしゃすぎる。
どうしよう。なんて言い訳すれば……。
「それと、決定的なことがある」
「決定的なこと?」
「めがねがないと何も見えないほど日常生活に支障が出るのに、それすら賊に渡す馬鹿がどこにいる」
「ごもっとも」
うん、それはそうだ。間違いない。
これは、観念して正直に話すか。
「説明するから、剣を下ろしてくれ」
「逃げないか?」
「壁に激突する未来が見える」
「……違いない」
ふう。やっと下ろしてくれた。
けど警戒はしてるみたいで、ピリピリした圧のようなものは感じる。
これが、いくつもの死線を越えた人間の存在感……こっわ。
とりあえず俺は、ここまでのことを掻い摘んで説明した。
俺は異世界人であること。
神とやらの手違いで死に、転生したこと。
チート能力と呼ばれるものをいくつか貰ったこと。
でも視力が悪すぎて何も見えず、現在詰んでること。
ある程度話し終える。
はたして、信じてくれるのか……。
「貴様。私をからかっているのか?」
でっすよねー、知ってた。
俺は手を上げて無抵抗を示す。
「本当だって。現に頭だけでっかくなる犬みたいな奴に食われかけても、無傷だったし」
「信用ならんな」
「と言われても」
事実なんだから、これ以上説明しようがない。
……あ、そうだ。
「リアンナ、剣を貸してくれ」
「できるわけないだろう。馬鹿か?」
「じゃあ構えてくれるだけでいい」
「……こうか?」
リアンナが剣を抜いて、俺に向かって構える。
逆に俺は、学ランとワイシャツ、肌着を脱いで上半身裸になった。
「んなっ!? ななななな何をしている! き、きさっ、貴様ッ、私に不埒をするつもりか……!?」
「魅力的な提案だけど、違う」
リアンナに近付くと、近付いた分だけリアンナが下がる。
「どうして逃げる」
「どうして逃げないと思う!?」
「お前が信じられないとか言うから、俺も証明するしかないだろ」
「だ、だからって……ぁっ……!?」
ゴミに足を取られて転ぶリアンナ。
よし、今だ!
俺もリアンナに覆い被さるように体を倒すと──次の瞬間、剣が俺の腹部に触れた。
「ッ!? ……あれ?」
「ほら、な?」
剣が突き抜けない。
もちろん俺は、筋肉に力を入れていない。
筋トレすら満足にしていない、ナチュラル陰キャボディである。
「体重を乗っけても貫通しないんだ。すごくね?」
「す、すごい、が……痛くないのか?」
「まったくのノーダメージ」
頑張って起き上がって腹を見る。
穴どころか、傷跡すらない。
「信じてくれたか?」
「ま、まだ信じ難いが……貴様がすごい力を持っていることは、わかった」
はぁ……よかった。少しだけ信用はしてくれたみたいだ。
「ふむ……しかし、神によって転生、か。それなら、それだけの力も頷けるし、めがねというこの世界にはないものを欲しているのも、わかる。他に力はないのか?」
「あるっぽいけど、ステータスボードを確認しようにも、見えないんだよな……」
「……よければ、私が見てやろうか?」
「え、いいの?」
「もちろん、勝手に他人のステータスを確認するのはマナー違反だ。しかし同意を得ているなら、問題はない」
なんてこった! ここに神がいた!
いや、あのクソ神なんかとは雲泥の差!
捨てる神あれば拾う神ありとは、まさにこのこと!
「た、頼むっ。俺の代わりに見てくれ……!」
「わ、わかったっ。わかったから服を着ろ……!」
「あ」
やべ。これじゃあ半裸で美女に迫る変態じゃん。
急いで肌着とワイシャツだけ着ると、リアンナは咳払いをした。
「で、では、見せてくれ」
「ああ。えっと……ステータス」
呪文を唱えると、目の前にステータスボードが浮かび上がった。
相変わらずなんもわからん。
さて、どうなってるんだろうか。
リアンナが俺のステータスボードを覗き込む。
と、目をギョッと見開いた。
「な……なんだこのステータスは……!?」
「え? もしかして高い?」
参ったなぁ。そりゃあチート能力で転生だもんね。強くて当たり前だもんねぇ〜。
なんて思っていた時期が、俺にもありました。
「低すぎるのだ! 十七歳でレベル17とか、紙っぺらにも程がある!」
「ディスが酷い!」
はっ!? 弱いの俺!? 紙っぺらなの!?
「いいか、ハザマ。本来レベルは、鍛錬や実戦を経て上げていくものだ。しかし赤子はそうもいかない。赤子は鍛錬を積まなくても、一年で1レベル上がるようになっているんだ」
「……つまり?」
「貴様は十七年間、一回も鍛錬をしたことがないということになる」
あー、合ってる。
だって俺、親の影響でインドアタイプのオタクだもの。
「普通は魔物からの自衛のため、幼い頃から親や先生から手ほどきを受ける。17レベルなんて、十歳児並みだぞ」
悲報。この世界の俺、十歳児並み。
てことは俺、十歳児と喧嘩してとんとんってこと?
もしかして俺、雑魚すぎ?
ちきしょう、あのクソ神。転生させるなら能力値とかいじってくれよ……!
「だ、だが、Sクラスのスキルが二つもあるぞ。これはすごいことだ!」
「Sクラス?」
「うむ。スキルというのは上からS、A、B、Cの順にクラス分けされている。当然Sクラスは強力だが数が少ない。しかしハザマは、それを二つも覚えておるのだ」
お……おお! それだ、それだよっ、チート能力!
しかも二つもくれるなんて、やるじゃん神!
「一つ目だが、これはもう察していると思う。《鉄壁・S》スキルだ」
「鉄壁?」
「《鉄壁》自体はポピュラーなスキルだが、Sクラスまで成長した《鉄壁》は聞いたことがない。これはすごいことだぞ」
……何がすごいんだろうか。
スキルに無知だから、まったくわからない。
「どうやら、常時オートで発動しているものらしい。体を傷つけようとするものを全て無効化するスキルだ。使用者の意思でオンオフが可能だが、オフにしていても一定時間経てばオートでオンになる」
お……おおっ!? つっっっっっっえええええ!!
えっ、めちゃめちゃ強いじゃん! これだけでも勝ち確よ、勝ち確!
「因みにデメリットとして、一日一万歩歩かないと自動的にオフになる」
「は? デメリット?」
「当たり前だろう。これだけ強いスキルなんだ。デメリットがないわけがない」
え〜、でも一万歩かぁ〜。インドアオタクには苦行すぎるんだけど。
「今日はもう達成しているぞ。ほら、ここ。今日はもう三万歩近く歩いてる」
「見えない」
「…………」
そんな気まずそうにしないでくれ。
……ん? 待てよ。ステータスボードが見えないと、歩数のカウントもわからないんじゃ……?
「だ、だがもう一つあるぞ。これもは私も聞いたことがないが……《誤字》スキルというものだ」
「誤字? 何それ?」
「知らん。私も竜騎隊の隊長として様々なスキルは知っているが、こんなの聞いたこともない」
この世界の住人であるリアンナでも知らない……?
あのクソ神、なんつースキルを渡してきたんだ。
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