悪魔

 ことはかなり順調に進んだ。


 唯一事前の予想と異なったのは移住者の人数だろうか。正直、故郷に愛着を持っている人が一定数はおり移住もさほど増えないと思っていた。


 しかし実際は愛着よりも娯楽に溢れた大都市への憧れが強かったようである。予想を遥かに上回る人数が移住することとなった。まぁ人が増える分には基本的には問題がないがそろそろ都市を拡大しても土地が足りない、都市が大きすぎて都市内の移動方法が必要になってくるなど問題が起きているが心配する必要はあまりないだろう。


 また、味方の派閥に引き込む貴族だがこれはなかなか多くはならなかった。民衆を虐げるような統治をしていない事を条件としていたのだがそれが思ったよりも少なかったのだ。侯爵家や公爵家、伯爵家などは許さないとしてそれ以外の爵位の低い貴族は上からの圧力もあっただろうし許してもいいとは思っている。


 こうして一年程度で国内の軍事を新兵器銃の供給元ということで完全に支配し、経済的にも食料の供給元という形で完全に支配し、残るは政治の主権のみを王家がかろうじて保っていられる状況になった。


 この一年間王家も黙っていたわけではない。


 最初は銃の作り方をよこせと圧力をかけていたが、当然のように無視。すると今度は銃の作り方をよこさなければ軍隊を送ると脅してきたがこれも華麗に無視。


 大規模な飢饉が起こるのに戦争が出来るわけないのだ。わざわざ言葉だけの脅しに屈してやる必要はないだろう。


 そうこうしている内に王都で食料の高騰が原因で暴動が発生。従来であれば衛兵によって簡単に鎮圧することが出来たが銃の普及でそう簡単にもいかない。


 困り果てた王家はここでようやく我が家に格安での食料供給を求めてきたが格安だったので当然これも無視。


 焦った王家はようやく交渉のために王子であるルークを使者として送ってきた。


 

 「それでそっちの要求は何ですか?」

 

 ルーク王子に要求を聞く。


 ちなみにここには俺がミリア、王子も外交官を伴っている。王家はルーク王子だけでは不安があったようである。


 「そんなの簡単だお前らが持ってる食料をよこせ。」

 「嫌ですが」

 「いいからよこせよ!だいたいお前がこんな大飢饉を引き起こしたんだろ!」

 「さぁなんのことだか。」

 「ふざけんじゃねぇ!この悪魔が!」

 

 悪魔か。確かに今回の追い詰め方は確かに少々過激だったかもしれない。だが日常的に民衆を虐げてきた王家に家われる筋合いはないだろう。


 「さすがに悪魔は言いすぎですよ。」

 「そもそもお前辺境伯風情のくせに調子に乗りすぎなんだよ!」 

 

 そういい放ちながらルークは懐から短剣を抜いて迫ってきた。


 正直に言うと狙いどうりだ。荷物検査みたいなことをして短剣を没収することも考えたが交渉に優位に立つことを考えてやめたのだ。


 そもそも王子の粗末な剣術なら俺が動くまでもなく。


 「そこまでです。」


 ミリアだけで充分である。


 「とりあえず、こいつは置いといて話を進めようか。」


 俺はルーク王子がミリアによって気絶されていつのを無視して会議を進める。


 「まず食料供給をするのはいいだろう。ただしその代わりとしてわが家とその派閥領土の自治を認めてほしい。いいかな?」

 「は...はい。」


 補佐官は何とかといった様子で返事をする。


 ちなみにこの自治という単語、この国では明確な定義が決まっていない。


 つまり後からこっちが都合のいいように変え放題というわけだ。


 こうして王家の力が大幅に衰るという結果を残し、今回の一軒は終わった。

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