ブラッディ・マリーは能天気

 ブラッディ・マリーは能天気。

 今日も今日とて出たとこ勝負、切って撃っての大博打。クランクアップはまだ遠く、壊れた心のパッチワーク。乱れた髪もそのままに、荒野抜ければまた地獄。だけど挫けぬ乙女がここに。少女は既に、人には非ず。


 ブラッディ・マリーはいつも独り。

 目が合う全てがわたしを狙う。十五の少女は恋をせず、愛や恋よりはらを知る。お友達から始めましょ、なんて嘘でも言えやしない。きっと窮屈、すこぶる退屈。だけど彼女はまだ知らない。生きる歓び、普通の暮らし。だからちっとも悲しくない。知らないものには憧れない、それが普遍でこの世の真理。


 ブラッディ・マリーはご機嫌斜め。

 最近ちっとも楽しくない。仕事は来ないし標的オモチャもいない。ジャムる銃身そのままに、錆びたナイフは床にて眠る。そのうちなんだか哀しくなって、初めて泣いたわ十六の夜。


 ブラッディ・マリーは利口な子。

 本当は全て知っている、明るいおうちにふかふかベッド。見て見ぬふりして、目を閉じて。乾いた笑いと僅かな悲愴。知らないものには憧れない、私は私でよそはよそ。そうして今日も振るうのです。錆びた短刀、古びた銃。少女は心で知っている。最早戻れぬ修羅の道。憧れるだけ無駄でしょう? されど死ぬ気は更々無くて、今日も地獄の独り舞台。紅い華散る血の河渡り、命絶つまでただ踊る。


 生きるうちには幸せは無く。君死にたまえと、ただ願うのさ。

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