平衡世海への挫礁

 コンパスが言う事を聞かないこの空間を、肉体感覚で何時間、いや何年過ごしただろう。終わりは突如訪れる。


「 

 世界は何れ終章へ至るNothing she can, into the end

 終知せず生喪うNothing she know, until the end

 神は再び世界を造るAnd, we re-construct,

 後の世にこそ依り善き幸Nothing make her cry: in this world

 」


 リビルド・アンド・スクラップ。

 祝福の祝詞と共に新世界へと辿り着いた私は然し、旧世界の記憶を有している。

 私は誤謬である。

 認識の滲みが肥大化する。

 あの詩の意味は?

 意味は、……無いのだろうか。

 所詮人の認識範囲では捉えられぬ程の差異なのか。

 であれば確かに。

 今も海の彼方では人が死んでいる。

 下等生物は殺し合いにより数を減らさねばならぬ。

 それな事より、もっと大いなるモノを知らぬ事こそ幸らしい。



 ある日、人に会った。人だと思ったが然し、人ならざる者であった。

「この世界のことを教えてほしい」とそんなふうなことを彼は述べた。私は彼に私の知る世界の全てを語った。一般常識から哲学的思考に対する私見に至るまで、事細かに思いついた順に全て語った。彼は全て聞いていた。


 ある日、彼は私に夢を語った。そしてその正しさについて尋ねてきた。

 私は首を縦に振った。

 私はその計画にその人ならざる者の強き救済の意志を感じたのである。粗こそ有れど、それは確かに私の夢見た世界だった。


 月日は経ち、私は寿命に至った。

 それは最後まで私の隣にいた。

 彼女は私に頼み事をした。

 私はそれを聞き入れ、銘を譲った。

 誤謬である私は死と共に名も存在した跡も失う予定であったと言う。

 しかし私は、私の▒▒▒▒という銘は、彼の者の粋な心意気の為にこの世に残り続けるのである。

 謝意を述べ、私は悠久の眠りにつくことにした。

 彼の者が世界を変えることを願わずにいられなかった。

 そうして一人死んだ。

 世界は変わらず回り続けている。

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