ハロー後悔、サヨナラ幻想

 たぶん僕は、何かを勘違いしていた。

 愛されている間は愛していられる。誰かを笑わせられるならこの命だって惜しくない。割と本気で、そう考えていた。

 善性の塊みたいな生き方をしようとして、限界にぶち当たり、それでも無理に笑い、鍍金は剥がれた。その鍍金を貼り直していくうちに、壁が削れていった。削れた壁も修理しようと思ったときに、ふと気が付いた。

 僕は今、それで幸せだろうか。答えはノーだ。所詮、正義の味方みたいなイカれた思考を、凡人風情が持てるわけがなかった。自己犠牲至上主義なんてそもそも、僕自身が最も厭う生き方だったはずなのに、どうして勘違いをしていたのだろう。いや、勘違いのふりをして素知らぬ顔で生きてきたのかもしれないが、まあそのあたりはもう後の祭りだ。今目の前にあるボロボロの船は、明日スクラップにして昏い海の底に沈めるつもりでいる。

 厭わしさに気が付いて、決心をつけて、手をつけるまでに少しばかりの躊躇いと憂いを持つ自分がいて、そこを今少し腹立たしく思っている。けれどまあ、だから心に決めたのだ。決めた思いがもう揺るがぬように。五秒で収まる怒りを反復し燃やし続けるように、意地を張っている。誰かを不幸せにしたいのではなく、僕を不幸にしたくないのだと、そんなふうにまだ誰かに言い訳をしながら、掌に爪の跡をつけながらその時を待っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る