37-狂う心を律して

 アイ。

 アイシャ。

 私の愛しい子。

 本当に人の子なのか?

 そう思える程にその容姿が整い過ぎている子。

 その傍らが心地よすぎる子。

 まさに…。


 天使の子。


 その呼び名と同じく「愛」を強烈に欲している子。

 けれども途轍もなく「愛」に怯えている子。

 それでもどうしても「愛」を追い求めている子。


 だからかそれを「満たして」あげたくなってしまう。


 アイが「女の子であったならばいいのに」と何度思った事か。

 見た目は限りなくというより全くといっていい程に女の子なのに?

 それなのに何故その部分には男の子としての象徴が付いているのか?

 故に親が子に抱いてはいけない感情をさらけ出してしまいそうになる。


 違う「愛」をアイにぶつけてしまいそうになる。


 いや、別にそれを表してもいい環境ではある。

 子が魔法使いとしての才を得たならば種の栄達としてあり得るものだ。

 まだ3回の妊娠を経験しておらず生殖可能な母親が子と励むのは不思議ではない。

 夫を早くになくした貴族で義務として子を残さなければならなくなれば「まず子が相手で」となる。

 

「初めては母親で練習する」などの風習がある領も現実にある。

 私は「どうして…」と嘆いた。

「どうして私の領ではそうではなかったのか…」とお苦悩した事もあった。

 そして「今からでも施行してしまおうか…」と悪魔が囁いたのは一度ではない。

 私はアイの肢体を見、舌なめずりをしたのだ。


 アイを「性欲の対象」として捉えてしまった。


 あの子に私の乳をやっていた時は非常に辛かった。

「そんな飲むだけでいいのか?」と。

「その部分にはもっと他の楽しみ方があるんだぞ?」と言ってしまいたかった。

「最初にやってしまえば」と。

「それが一般的な母と子の形だ」としようとも。

 私は薄汚れた愛しさから「洗脳」を可能性にあげた。

 特にその未成熟ともいえない程に小さなそれを見たならばもう…。

 それを手に取り「こうやってやるのだぞ?」と教えてあげたくなった。

 アイのそれを「私の中で優しく扱いたい」と。

 そのまま最後の一回を「アイの子で」と。


 私は本気でそんな愚かな事を考えていた。


 …今も時々その妄想が駆け巡る。

 だからベルトと最後の子を作っていない。

 ベルトに「今はアイの事に集中したい」と嘘を告げてまで避妊している。

 アイの事を大切にする気持ちは共通なのか「僕も同じだよ」と返してくれるのが申し訳なかった…。

 申し訳無いはずなのに…。


 私はあの時「やったぞ」と。

 これで「心置きなく」と。

 そう、仄暗いものが湧いてしまった。


 私は当時アイの子を本当に生もうとした。


 母親が「女の性」に毒されていた。



 ――――――――――


 どうして母親だったのだろうか…。

 どうして私の子として生まれたのだろうか…。

 どうして私がベルトと出会う前にアイは私の元に来てくれなかったのだろうか…。

 そんな意味のないそれを垂れ流してしまう。


 だが、転機がきた。

 転機が「きてしまった」が私の内には正しいのかもしれない。

 もう少しで我慢が出来なくなる頃だったか。

 私は愛しさを超えた子に言われてしまった。


 本当に無邪気な顔でアイに「お母様」と。


 …知っていた。

 知っていて見ないふりをしていた。

 アイが私に求めている「愛」は女と男のものではなかった。

 そんなものなど砂の一粒さえも願っていなかった。

 私はただ、自分の欲求を満足させたいがために「愛しいから」と予防線を張っていた。

 私がそれをするのは「アイのためだ」と…。


 だが、これだけでは私の肉欲はまだ引っ込まなかった。


 もう一点が私を変えてくれた。


 アイの瞳の奥には秘密にしている何かがある。

 恐らくそれは良い感情ではない。

 何ゆえにそれを宿しているのかは私にはわからない。

 私にはその瞳の奥がわからない。


 シルビアはひと目見た瞬間に気付いたみたいだが。


 あれだけ塞ぎ込んでいたシルビアがアイを視界にいれれば瞬く間に回復した。

 まるで傷を舐め合うかの如くに。


 私はシルビアに途轍もない嫉妬をした。


「何故だ」と。

「赤の他人であるお前が何故私のアイを理解出来る!?」と。


 私のアイだぞ!!


 あんなにも「お前はもう私の子だ」と宣っていたシルビアを私は憎むようになった。

 それが抑えきれなくなる時か。

 私はとうとうシルビアを排除しようとした。

 それを行動に移そうと腰を浮かしかけた。

 その時に見てしまった。

 変化は感じ取っていた。

 アイの中の何かが鳴りを潜めて光に変わって行くのを。

 私には向けてくれないそれをアイがシルビアに期待しているのを。


 怖がりながらも懸命にアイが進もうとしていたのを。


 アイは本当に賢い。

 たった3歳で大人と変らない程の思考回路を持っている。

 …もしや前世の記憶というのがあるのかもしれない。

 そう、連想してしまう事態はそれなりにあった。

 あの奥に潜んでいる光にもそれなら理屈が付く。

 前世で残酷な経験を積み壊れてしまったのかもしれない。


 それが足掻いているのだ。


 その思いの差にも理解が及んでいるのだろう。

 それを母親が邪魔する訳にはいかない。

 するとシルビアに向けていた敵意があっさりとなくなった。

 敵意の代わりにストンとただの自身の子に対する親愛に置き換わった。

 ルルやナナへのものとは異なるが、似たものを抱けるようになった。

 私は真にシルビアを愛せるようになった。


「これをなくしてはいけない」とすぐに動いた。


 まず、アイに婚約者を用意した。

 リーナに連絡を取り、クララ、リリーに打診をする。

 クララは都合が悪く当初時間が取れなかったが、アイを認識してしまえば簡単に落ちた。


 まあ、そうだろう。

 アイは合法のドラッグだからな。

 私も今だにそれに酔って…。


 既に溺れているルルとナナ、シルビアもセットだ。

 完璧だった。


 そして母親という立場を利用して楽し…、健やかに育む事も忘れない。

 アイの成長を絶対に見逃さない。

 何よりの喜びだったのが私が「初めて」をした事だろうか。

 アイのそれの「一皮を剥いた」事だろうか。

 恥ずかしがりつつ少し痛がったアイに疼いてしまった。

 さらに丁寧に洗ってやれば「自分で出来るよ…」とポツリと零すアイ。

 大層可愛らしくて堪らない。

 これを持ち回りで行う事になるのは必然だった。


 身体的に興奮を示してしまう器官がなくてよかった。

 風呂場であり濡れているのが当然でよかった。

 他全員が同様の状態で開き直る事が出来てよかった。


 流石にリーナも当たってしまったのには焦ったが。

 まあ、リーナは自身で処理出来るらしいので心配はない。

 そんな夜に私はベルトを強くベットに押し付ける。

 十中八九リーナもこの方法だ。

 まだ、踏ん切りが付かないのか避妊はしたまま。

 アイに対するものをベルトで発散してしまう事に罪悪感はあるが、でないと収まりがつかない。

 後何十年かしてアイが巣立ってしまい私もアイに女を忘れる事が出来ればそれでいい。

 その時にもう一人を宿そう。


 だが、予想外の問題が起きた。

 いや、ある意味想定内か。


 アイの色気により毒蛾が招き寄せられてしまった。



 ――――――――――


 通常のそれならば対処出来る。

 アイ自身もナタリアより無手での戦闘法を習っているしシルビアが常に侍っている。


 頭を抱えたのが「美姫」などと噂になってしまった事だ。


 それに食い付いた愚か者共がいた。

 あいつらだ。

 散々迷惑をかけてきたゴミ共だ。


 今はまだ私達で対処出来る。

 だが、将来はそうとはいえない。

 貴族であるルル、ナナ、クララ、リリーは席を外さなければならない時がある。

 そして残るシルビアでは明らかに力が足らない。


 そのためにナタリアを用意した。

 私の持ち駒の中で最強のナタリアをアイに与えた。

 別にナタリアも「犠牲になった」とは思っていまい。

 あんなにも普段アイを熱く見つめていたのだから。

 ねっとりとしたものなら遠ざけたが、ただの情熱的なそれならば利用価値がある。

 アイもそれを感じ取っているらしくナタリアには体への接触を許しているくらいだ。


 ついで都合のいいバカを釣る機会も出来た。

 目の前に人参を垂らせば簡単だった。

 小躍りした程だ。


 …少しの試練ならば涙を呑んでしまわないといけない。

 純粋培養では容易に割れてしまう。

 だから震える手でアイの背中を押さなければならない。

 たとえそこに望まない結果が含まれていたとしても。


 私はアイの母親だから。

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