35-私のご主人様
目の前の空間に両手を拳にして振り下ろします。
けれども変化は一切起きません。
確かに何かを叩いているはずなのに私はその向こうには少しも進めません。
さりとて私の体には痛みは全くないのです。
ご主人様の結界魔法。
私はそれに囚われていました。
「ご主人様!!止めてください!!もういいのです!!」
私の声は向こうには届いていないのでしょうね。
しかし、透明な壁の先は私にその状況をつぶさに教えてくれました。
「ぅああぁぁーー!!ぐぅぅ!!止め!?だぁあーー!!」
「がぅうぅぅ!!だはぁ!?ああぁーー!!」
「ここがいいのかな?もう少し奥かな?…欲張りだね、アビー、チェチェン」
アビーとチェチェンはご主人様によって力任せに衣服を剥ぎ取られて現在裸体です。
両腕を頭上に伸ばしたまま何かにより固定され膝を付いて上体を起こしています。
てすが、そこには色気も何もありません。
彼女達のお腹にご主人様の手がめり込んでいますから。
アビーとチェチェンの中に入り込みかき回しているのです。
彼女達が反応を示さなくなると回復魔法によって肉体を再生させてまた続きを始めました。
腸を引きずり出し床にぶちまけます。
時にはそれを彼女ら自身の口に突っ込み「味わいは?」と問いかけています。
ご主人様はそれをとても愉快そうに行います。
嬌声と叫声は病みません。
阿鼻叫喚の図は終わりません。
…彼女達は戦士として肉体面だけでなく精神面もかなり鍛えているのでしょうね。
それが仇となっていました。
壊れてしまい何も感じなくなる事が出来ないのです。
ご主人様の気が済むまでこの責め苦は終わらないのです。
「駄目です!ご主人様!!それ以上やってはいけません!!」
私の声はご主人様には聞こえません。
ご主人様はその残酷な行為を止めてくれません。
私には彼女らの悲鳴を聞く以外に出来る事がありません。
「駄目…、ご主人様。お願いだから、もう止めて…」
私は見えない壁に手のひらを当てながらずりずりと崩れ落ちました。
涙を流しながら懇願してもご主人様はその無慈悲を続行してしまいます。
「…ご主人様、いや…」
私のご主人様が壊れてしまう。
そんなのは絶対に駄目です。
――――――――――
母と父が死んだらしい。
「…嘘…、ですよね…?冗談か何か…」
私の問いかけにはその表情が「現実」を物語っていた。
連絡をくれた兵士は私の肩に手を置き「本当だ」と言うと去って行った。
後に残されたのは私1人だけだった。
母は元々冒険者をしていたらしい。
「大森林ジュマの魔物素材を求めてここキッドマン領にやってきた」と昔聞いた。
そこで領軍の兵士として働いていた父に出会ったそうだ。
「二人は一目会ったそばから恋に落ちた」とお酒に酔うたびいつも惚気られた。
両親の恋話をされても鬱陶しいだけであり「私が「恋に焦がれるをとこ」ではないのを忘れているのでは?」と常々思っていた
だけど死んでしまった。
当時の背景を知れば「どうしてそんな事を…」とは思わずにはいられなかった。
「自分にだって魔物の一体や二体は簡単に倒せる!!それを証明する!!」と愚かな自尊心を満たすために無茶をした子供の盾になったそうな。
子供は森に潜る兵士の家の子であり「将来の仕事を先に教えておこう」と言われて英才教育を受けていたらしい。
それにより運がいいのか悪いのか森の中層まで魔物に出会わずにそこで初めてエンカウント。
歯が立つはずもなくただ怒らせるだけ怒らせて敗走。
そこにたまたま待機として詰めていた両親がいた。
両親の元に来る頃にはかなりの数の魔物を引き連れていたそうだ。
万全の準備も出来ずに急な接敵。
出会い頭に子供が背後から襲われそうになりその際母が子供と魔物との間に割り込んだ。
こらえきれずに圧殺された。
それに動揺した父が後に続いた。
はい、おしまい。
――――――――――
「シルビア、よく来てくれた。今日からここがお前の住まいになる。といっても仕事場兼用だがな」
「はい。よろしくお願いします、お館様。その御慈悲に感謝いたします。ありがとうございます」
「はは…、固いな。別に人前でなければ「シャナおばさん」でも構わないぞ。…シルビアは赤ん坊の頃から知っている」
「お心遣い、ありがとうございます。ですが、そういう訳にもいきませんので」
「…そうか」
私はキッドマン家の屋敷にて働く事になった。
前は領軍兵の借家に住んでおり両親が死去した事で出ていかなければならなくなったからだ。
残してくれたお金は沢山あったが、子供1人ではどうする事も出来なかった。
何よりもどうやってこれ以上生きていけばいいのか考えられなかった。
そんな私に与えられたのが両親が仕えていた主であるルリシャナ様の「新たなお子の側仕え」という大任だった。
両親がルリシャナ様に近しい立場だったというのをこの時知った。
ルリシャナ様が時々話しかけてくれるのを不思議に思っていたが、ただの子供好きでの行動ではなかったようだ。
私はそんな両親が誇らしかった。
けど死んだ。
もういない。
私は何故1人で生きているのか。
何のためにこの先生きていくのか。
頭の中でその考えだけが回っている。
両親がいなくなってからずっとそうだ。
もう、そこから抜け出せないのだろうか。
私はこの人のために生まれたのです!!
一目見た時に強くそう思わされました。
アイシャ様、私のただお一人のご主人様。
私と同じ目をしている素敵な方。
ご主人様は大切な人を失った瞳の色をしていました。
私にはわかるのです。
その痛みを私も味わいましたから。
どうして生まれたばかりのご主人様がそんな光を放っているのかはわかりません。
でも、そんな事はどうでもいいのです。
ご主人様の隣にいられれば私は幸せなのですから。
そこから私の人生は再び動き出しました。
――――――――――
ご主人様にはおっぱいが必要です。
おっぱいがご主人様を成長させます。
そして私にはおっぱいは出せません。
ですが!諦めなどしません!!
将来!ご主人様に出せるようにして頂きご主人様に吸ってもらうのです!!
そのために含むのが当然の事だと今から刷り込みをしなければなりません!!
これは決定事項です!!
はい、ご主人様〜。
おっぱいを飲みましょう〜。
…咥えてくれませんね。
どうしてでしょう?
あんなにも一生懸命にお吸いになられているのに…。
どうやらタイミングの問題だったようです。
ルリシャナ様がお帰りになられた際にご主人様はよくその可愛らしい小さな親指をしゃぶっていました。
私の灰色の脳細胞は「これならイケる」と確信しました。
やりました!!
私のおっぱいを飲んでくれてます!!
はぁ〜、すごく幸せです〜。
愛している人に体を委ねるのはこんなにも気持ちがいいのですね。
ご主人様は何だか嫌がってますが、慣れというのは恐ろしいですからね。
絶対に離しませんよ。
絶対に逃しませんよ。
私にはご主人様しかもういませんからね。
私の決意は固いです。
ルリシャナ様からも「両親に似て頑固者だ」とお墨付きを頂いてます。
ご主人様を必ず私に夢中にさせます。
そのためには努力を惜しんではなりません。
私はご主人様の力となるように全ての余暇を訓練に当てました。
ナタリア教官に協力してもらい死ぬ一歩手前まで扱いてもらいました。
そうしなければ貴族としての血統を持つご主人様には付いて行けないからです。
ナタリア教官からは「下手をすれば本当に死ぬぞ」と言われましたが、そんな事は起こりえません。
私にとっての死は「ご主人様に捨てられる事」です。
なら、それ以外に死ぬ事などありえません。
私はこんなにもご主人様を愛しているのですから。
ですから少しくらいのご褒美を貰ってもいいはずです。
小さなご主人様の体に擦付ける事は許されるはずです。
最初はこの意味がわかりませんでしたが、クララから「夜中にご両親がしていた」と教えてもらいました。
「とても気持ちよさそうにしていてその後にリリーがカタリナ様なお腹に宿った」と聞きました。
本当は互いに裸になってやるのが正式みたいです。
ですが、まだ子供は早いので下着の上からでいいでしょう。
将来が楽しみですね、ご主人様。
楽しみでしたのに…。
――――――――――
「ご、ご主人様…。うぅ、ぐす…。ご主人様!!」
「…ごめんね、シルビア」
…良かった。
まだ、ご主人様のままです。
ご主人様は元に戻ろうとしてくれています。
でしたらそれでいいんです。
それだけで私はいいんです。
あれからどれくらい経ったのでしょうか。
やっとご主人様が私の元に来てくれました。
ですが、声を掛けてはくれても目を合わせてはくれません。
どうし…。
まさか!どこかお怪我でも!?
そう思いご主人様に近づこうとしたところ避けられてしまいます。
私がご主人様を抱きしめようと広げた両腕が空を切りました。
「…え。ご主人様…?」
「…」
私の疑問にご主人様は応えてくれません。
…ですが、ここで立ち尽くすような女ではありません。
私は「頑固者」なのですから!!
「ご主人様、どうかなさったのですか?」
「…」
「何か言いたい事があるのでしょう?」
「…」
「なら、どうして私の前に立っているのですか?」
「…」
「もう!知りません!!」
私はご主人様の隙を付いてその小さな体を抱き寄せます。
避けようと思えば出来るはずなのにご主人様はされるがままです。
よかった…、ご主人様は私を嫌いになってはいません。
では、どうしたのでしょうか?
これで何もかもが元通りのはずですが…。
「ご主人様、言っていただけないと私はわかりませんよ?」
「…シルビア…」
「はい、ご主人様。何ですか?」
ご主人様が私を抱きしめ返してくれます。
ですが、まだいつものご主人様ではありません。
でしたらもっと強く包み込むだけです。
私はさらにギューと力を込めます。
ご主人様もそれに応じて強めてくれます。
暫くの後ご主人様はやっとその口を開いてくれました。
しかし、その意味が私には理解出来ません。
「シルビア…、私を、私を!嫌いにならないで!!」
「…はぁ…?」
「お願い!シルビア!!ずっと側にいて!!シルビアがいないと!!私!!…私…」
…何を言っているのかわかりません。
私がご主人様を「お嫌い」になる?
え?どうして?
たとえご主人様でもそんな戯言は許しませんよ?
私はこの不思議な事態を解析するためこの場を見渡します。
そしてアビーとチェチェンに視線を向けます。
ご主人様もまだ情報収集のために利用価値がある事がわかっているのでしょう。
二人には回復魔法を生命活動に問題のない最低限にかけています。
十分に考えられた行動だと思いますが…。
…もしや先程の光景を私が見た事?
ご主人様の蛮行を私が嫌がると?
それで私がご主人様を見放すと?
ご主人様はそうお思いに?
だとしたら…。
だとしたら、あぁ、なんていじらしいのでしょうか。
ふふ、そうなのですね?ご主人様。
それ程までに私はご主人様の「心の奥深く」までに根付いているのですね?
それは、なんと甘美なぁ…。
その人の側にいるのに最も簡単な事。
心の傷にそっと寄り添う事。
だって私がそうなのですから。
私の心にご主人様は寄り添ってくれているのですから。
こんなにも狂しい程に愛しているのですから。
でしたらそっと垂らさないといけませんね。
そして「がんじがらめ」にするのです。
「ご主人様」
「…うん…」
私はこの胸にご主人様を押し付けます。
息が出来なくなる程強く。
そしてそれを開放してご主人様の顔と同じ位置まで頭を下げます。
「聞いてください、ご主人様」
「…うん…」
ご主人様は黒く濁った瞳をしていますね。
うふふ、あの時ご主人様と初めて会った時といっしょです。
「誰かに愛してほしくて堪らないそれ」ですね。
とても素敵ですよ、ご主人様。
簡単に堕ちてしまいますよ、ご主人様。
大切な人になってしまいますよ、ご主人様。
ほんの少しの飴で壊れますよ、ご主人様。
ですから私が愛しますね、ご主人様。
「私のご主人様」にしますね、ご主人様。
そして私は「ご主人様のもの」にしてもらうのです。
「私は、ご主人様の闇を知ってますよ」
「ッ!?」
ご主人様が私から離れようとします。
ですが、そんな事はさせません。
絶好の「チャンス」なのですから。
ここでご主人様を再び抱きしめます。
肩に顔を乗せ耳に息を。
そして「トドメ」を。
「そんなご主人様を、私は「愛」してます。心の底から「愛」しています。絶対にどこにも行かせません。死ぬまで私と一緒にいてください」
「…シルビア…。私も…、私もシルビアを愛してる。ずっと一緒にいて…」
わかりますよ、ご主人様。
絶対の「愛」がほしいのですよね。
無償なんて形のないものではなく確かな交換による愛が。
永遠に切れないと証明された「愛」が。
手 に 入 れ ま し た。
私は「ご主人様の愛」を手に入れました!!
「ずっと一緒ですよ、ご主人様」
「うん。シルビア、大好き」
私は最高の笑みを浮かべているのでしょう。
ですからご主人様にそれを見せる訳にはいけません。
今だと「魔法」が解けてしまいますから。
うふふ、本当に幸せです。
感謝しますよ、アビー、チェチェン。
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