27-密会

 大通りの喧騒がなくなる。

 通りに聞こえるのは警邏する兵士の軍靴が踏み鳴らす甲高い音。

 そして酔客が織り成す聞くに堪えない旋律だけだ。


 そんな頃にその2人組は堅牢な建物より外へ進み出た。

 2人は視線を合わせると飲み屋街の方へと足を向ける。

 到着すれば店へと入って行く。

 ぐるりと視線を一周させると出ていくを繰り返す。

 店に入り席にも着かずに出ていく様子を店員は不審げに思うのだが、客の呼び声が響けばたちまち忘れてしまった。

 何軒かの酒場を後にした2人はやっとお目当ての場所を見つけたのか席に近づいていく。

 しかし、座りはしない。

 既にそこには先客がおり二言三言告げると2人は外に出てしまった。

 そして再び歩き出し外観からある程度の値段が張るだろう店へと入る。

 店内は個室で区切られており誰かに聞かれたくない話をするのに向いている構造だ。


 2人が席に着けば先程の人物もやや遅れてから合流し同じ空間へと収まった。

 店員に3人分の酒と料理を注文する。

 料理が到着するまでの微妙な時間ここでは一切の音が発せられない。

 扉をスライドさせて開けた店員はその異様さに戸惑う。

 が、彼女は「盆に載せられた注文を渡せば終わりだ」とそれを考えないようにしてさっさとこの場を後にした。

 店員が部屋より去り外からの気配が薄くなったところでやっと口が開かれる。



「アビーもチェチェンも遅かったじゃねぇかよ。こっちは待ちくたびれたぜ」



「…お前はただ飲んでただけだろうが!ナルフ!!」



「そうよ〜。こっちは大変な目に〜、あったんだからね〜。もうクタクタ〜」



 アビーと呼ばれた女がその一言に噛みつく。

 噛みつかれた側の女、ナルフは「おいおい、冗談だろ」とおどけた調子で両手を振った。

 語尾を伸ばして発音する女がチェチェンだ。


 アビーは旅人がよく着る外筒を纏いその下に魔物の皮を要所要所に当てた斥候向きの軽鎧を覗かせる。

 体格は大きく非常に鍛え上げられた肉体だと外見からもわかる程だ。

 全体的に歴戦の戦士といった風体で姿勢がよい。

 その横顔も引き締まっていてある種の美しさを匂わせる。

 濃い茶髪、同色の瞳は現在ナルフを鋭く睨みつけ普通の女ならばそれだけで粗相をしてしまいそうな程剣呑だ。

 女性としては短く髪を切りそろえいる。

 それがまた彼女の精悍さを増す素材となっていた。


「なぁ、落ち着いてくれよ、アビー。ウチが待ってたのは本当だぜ?理由も言わねぇのにそんなガン付けられても困るだろうがよ」

「チッ!クソが!!」


 ナルフは普通の町人の格好をしている。

 造りは若干荒いが、丈夫そうな厚い布の上着にパンツでそれを緩く被り全体をぼかしている。

 防寒用の物は椅子の背に乗せられている。

 全体として印象に残りづらいぱっとしない顔立ちだが、よく見ればそれは化粧によるものとわかる。

 各種パーツ自体は平均的な形。

 けれどもそれらが配置よく収まっている。

 いうなれば皆が皆美人と答えるだろう。

 色合いは黒髪黒目で目立ちにくい。

 おでこを出しているのはわざと顔立ちを相手に印象付けるためか。


「も〜。苛立つのは〜、わかるけど〜、ナルフに当たっても〜、仕方ないじゃ〜ん。それよりも飲も〜よ〜、アビ〜。キッドマンの〜、お酒おいし〜よ〜」

「…お前のその語尾を聞くとアホらしくなるな…。はぁ…。とりあえず飲んで食うぞ」

「ふい〜、助かったぜ、チェチェン。アビーもそうしたほうが賢明だろ?ほら、乾杯しようや。ここには不味い、ワインなんて酒は存在しないぜ。かんぱーい!」


「ほら〜、アビ〜も〜、かんぱ〜い」と返したチェチェンは酒を一気に飲み干すとドアを開けて「ウイスキ〜、おかわり〜」と店員を呼んだ。


 チェチェンはアビーと同系統の着衣であるが、全体として線が細い。

 しかし、腰から臀部へと向かう緩やかなカーブが目を引く。

 それは装備を纏った格好でも女の色気を放っている事が窺えた。

 表情は柔和で垂れ目と緩く弧を描く唇が人懐っこさを感じさせる。

 鈍い金髪は波打つように腰まであり前髪は目の上で切りそろえている。

 その語尾からも親しみやすさを醸し出し隣いれば懐に入れたくなる雰囲気だ。

 だが、濃い青の瞳の奥は決して笑っておらず常に周りの状況を把握するためかつぶさに動いている。


 ナルフは機嫌の悪いアビーではなく主にチェチェンからここまでの事を聞く。

 問いかけられたチェチェンはユーモアたっぷりにナルフに答えた。

 そしてその内容を聞いたナルフは頬を引きつらせアビーの方を向けないでいた。


 お供のBランク冒険者が予想以上に頭のネジがどっかにいった奴だった事。

 そのせいで留置所に連行され今まで楽しい話し合いをしていた事。

 罰金刑ですっからかんになった事。


 ナルフは額に手を当て呻く。


「…あちゃー…。あー、なんだ…。悪かったよ、アビー。それはウチのミスだわな」

「当然だろう!バカはバカでもあれ程のバカを寄越されたんだ!!終わったかと思ったぞ!!どうして目の前の商隊に行かない!!何で貴族なんだ!!」

「まさかね〜、領軍の馬車にケンカを売るなんて〜。びっくりして〜、思考停止してた〜」


 思い出した事で再び怒りが噴き出したアビーをナルフが何とか抑える。

 それをチェチェンはケラケラと笑って観察していた。


「笑い事か!チェチェン!!おかげで貴重な魔法袋を失ったんだぞ!!あれにいくら掛けたかお前も知っているだろ!!クソ!中身を出してれば!!」

「そこは〜、ほら〜。ナルフ〜、買ってよ〜」

「いや、なぁ…。ウチが悪いのもあるけどよ、中に入れてたのはそっちの責任だろ?いくらか補填するがよ、…魔法袋は無理だぜ?」

「そんな事はわかっている!だから腹が立つんだ!!チッ!宝珠など!!」


 アビーが酒を飲み干しテーブルに叩きつける。

 その勢いからさぞやおっきい音色を鳴らすと思いきや直前に速度を落とす。

 杯はまるで何もなかったかに置かれた。

 その杯が空になったのを見たナルフは「アクアビット3杯。割ったやつ」と店員を呼んだ。


「ありがと〜。でもね〜、いい事もあったよ〜」

「へぇ、それは聞きたいねぇ。話してくれよ、チェチェン」

「もう1杯が来てから〜」


 ガックリと頭を落とすナルフを尻目にアビーとチェチェンは料理をかき込む。


 かなりお腹が空いていたと見える。



 ――――――――――


 結局1杯では収まらずにそれぞれ5杯を胃に流し込んだところでアビーとチェチェンは満足したようだ。

「先程金は無いと聞いたのだが、この支払いは誰がするんだ」とナルフは顔を青くしている。

 この店の単価は外見の立派さと個室で客の数が限られる事から想像できるだろう。

 つまりかなりのもの。


「ふぅ。やっと満腹になったな」

「だね〜」

「おい、そのな…。いや…、いいさ。…ウチが払うよ…」


「当たり前だな」と言い放つアビーに「ごちそうさま〜」と満足げにお腹を撫でるチェチェン。

 気持ちを内に隠してか静かに眺めているナルフ。

 ナルフはバカを渡した負い目からか強く出れなかったみたいだ。

 コホンと1つ咳払いをしてナルフが促す。


「チェチェン、もういいだろう?話してくれよ」

「え〜、もう1杯〜」

「そうだな。締めにもらおうか。甘いのがいいな」


 ナルフは拳を震わせる。

 震わせるが…。

 そしてミードが2つ届いたところでそれを前に押し出した。


「おっ、悪いな」

「う〜ん。おいし〜」


 飲み干したところでチラッとナルフを見たチェチェンはようやく語りだした


「見たよ〜。美姫様〜」


 ニヤリとするチェチェン。

 それを拾ったナルフは途端に色めき立つ。


「へ!?おい!本当かよ!!ウチだって何度も探ったんだぜ!それでも外には全く話が出てこない!潜る時は護衛に囲まれてるしよ!!」

「それに普段は顔をフードで隠しているらしいしな。かなり運がよかった。…悪運の間違いか」

「ほんと〜。そこだけは〜、あのおバカに感謝〜」


 チェチェンが放った「美姫」という単語に激しく反応するナルフ。

 それを見たアビー、チェチェンはしてやったりと顔を歪ませた。

 その2人の様子からますますナルフは興奮したようで体を前に出すと問い掛ける。


「で!?どうだったよ!?噂どおりだったかよ!?」


 刹那、ピタリとナルフの目前の景色が止まる。

 まるでそこだけがこの世界から切り取られたように。


「…え?お、おい…。どうしたよ?まずい事聞いたか?どうって事なかっただろ?」


 この時ナルフは「質問がどうって事ない」という意味で聞いたようだが、そうは捉えられなかったらしい。

 バンッ!とテーブルを叩いてチェチェンが立ち上がった。

 アビーはゆらりとまるで幽鬼のようだ。

 今まで状況から音が外に漏れないように行動していたらしいのだが、2人はそんな事に気が回らない様子。

 その唐突な愚行にナルフは驚きややあって周囲の気配を探るためかキョロキョロと見渡した。

 興味を惹かれてない事が判明したのか2人に目を向けるとナルフは「ヒッ」と情けない声を出した。


 アビーもチェチェンも血走った瞳でナルフを見ていたからだ。


「どうって事ない?何を言ってるんだ、ナルフ」

「そうよ〜。だったら〜、チェチェ達なんて〜、ゴミ屑以下ね〜」

「わ、悪かったよ!だから席に座ってくれよ!そんで静かにだぜ!」


 アビーとチェチェンはナルフの言に顔を見合わす。

 2人は驚いた様子で少しして腰を降ろした。

 どうやらあまりの感情の変化に無意識に立ち上がっていたようだ。

 深呼吸をして冷静さを取り戻すとチェチェンが話を再開する。


「ごめん〜、勘違いしちゃった〜」

「俺もだ。悪かった、ナルフ」

「…あー、別にいいぜ。でも、気ぃ付けてくれや」


 謝罪を挟んでお互いに空気を入れ替える。

 これでやっと場が整ったようだ。


「噂は噂だったって事さ。あれは美姫なんてチンケなもんで表せない」

「美姫様〜。ううん〜、天女様ね〜。天女様は〜、チェチェ達なんかとは存在が違う〜。隔絶?してる〜」

「…えっとよ?つまりどうなんだ?」


 要領を得ないアビーとチェチェンの語り口にナルフは聞き返す。


「あれは…。美姫は妖精か天使だ」

「そうとしか〜、言えない〜。思考停止したのも〜、天女様を〜、見つめてたから〜」

「正直もっと見ていたかった。バカによって生まれた機会だったが、バカによって奪われた」

「ね〜。あいつ出てきたら〜、殺す〜」


 チェチェンはおちゃらけたようにそう言い放ったが、その目は怪しい光を放っており本当に行動を起こすと物語っていた。

 しかし、ここにはそれを気にする人間はどうやらいないらしく反応は示されない。

 その美辞麗句に「ほへ〜」と間抜けな呟きを発するナルフ。

 普通ならば「妖精?天使?天女?何をトチ狂った事を」と鼻で笑うところだ。

 が、ナルフには二人が嘘を言っていない事が確信出来るみたいだ。


「そいつぁすげーなー。ウチも見てみたいぜ。あーあ、それなら付いて行くんだったなぁ…」

「付いて着てたら今頃腹を空かして野宿だったぞ」

「だね〜。来なくて〜、正解〜」

「そりゃあねぇーよー。ズルいぜ、アビーにチェチェン」


 罰金刑は別に優しい額ではない。

 事の重大さも手伝ってそれはそれは恐ろしかった。

 平均的なCランク冒険者の1月の収入が吹っ飛んだのだ。

 最悪、魔法袋の破棄を考えて金を別けておいたので払えたが、そうでなければ監視付きの生活だった。

 そう懇切丁寧にアビーが語ってやればナルフは「ウチ、行かなくてよかったぜ」と安堵してテーブルに顔を付けた。

 だが、一気に顔を上げると真剣な表情をアビーに向ける。


「監視付きって言ってたがよ。ここまで付けられてねぇだろーなぁ?」

「ふん。お前のところまで何軒も酒場に入った。「入口に突っ立って暫くしたら出る」をな。あれで捕まえない兵はここにはいない」

「安心してよ〜。すご〜く、不審だったから〜」

「…それはそれでよぉ…」


 ナルフは「はぁ…」と息を吐き出すと天を仰ぎ見た。


 ナルフが見上げているそこにはただ天井があるだけだ。




 ――――――――――


 その後もアビーとチェチェンは「美姫」と最初呼ばれていた存在を称えるのを止めない。

 最初は2人の話を興味深げに聞いていたナルフだが、見つめていただけの事を事細かにされてもつまらないらしい。

 一旦流れを切るためかナルフは手をパチンと鳴らして視線を集めた。


「対象を特定したのはわかったぜ。前情報以上だってのもよ。だからもう次の事をしようぜ」

「…ああ。夢中になってたな」

「まだまだ〜、話せるわ〜」


 ナルフはチェチェンに付き合わないのかそれを無視して会話を回す。


「じゃあよ。仕事の話だぜ」


 ナルフは低い声を出した。

 場の空気を変え話題が重大事項に移った事を暗示する。

 …だが、アビーは椅子の背もたれに体重を掛けてギシッと音を出す。

 チェチェンもテーブルに片肘を突き顎を乗せた。

 アビーとチェチェン、ナルフの温度差からはまるで風邪を引きそうな程の違いがある。


「ん?おい、集中しろよ。大事なお仕事の話だぜ?金だってねぇだろい?」


 そうナルフが続けるが、どうやらアビーとチェチェンは乗り気ではないらしい。

 2人は視線を交わして意見を交換し合ったのか今度はナルフへと向ける。


「今回の仕事は止めよう」

「チェチェも〜、アビーにさんせ〜」

「うぇ!?な、何言ってんだよ!あそこからここまで来てんだぜ!」


 狼狽えるナルフだが、アビーもチェチェンも取合わない。

 その様子を見たナルフは肩を震わせると勢いよく前に迫り出した。


「どれだけ金を掛けたってんだよ!何もせずに帰るってのか!魔法袋も消してんだろ!!」

「いや、攫いはする」

「ふざ、…はぁ?」


 アビーに掴みかかろうとしたナルフはその言葉に伸ばした腕を止めた。

 ナルフの手をチェチェンが優しく両手で包み席に座るよう求める。

 そのチェチェンの態度を不審げに見やるナルフだが、抵抗せずに催促されるがままにするようだ。

 ナルフが座り直しチェチェンは切り出した。


「お金なんか〜、もういいかな〜て。アビーとチェチェは〜、もっと〜、も〜っと大切なものを〜、手に入れるの〜」

「俺達の実力があれば裏でなくても食っていける。接触もナルフを介していたからな。お前お得意の変装なら割れる心配もない。…国を出れば追いつけやしないさ。そこか―」

「おいおい!勝手に進んでるけどよ、ちゃんと説明してくれや!」

「お?あぁ…、チェチェンとしか共有してなかったか。簡単な事だ」


 ナルフがアビーに割って入り何故その結論に至ったかの道程を尋ねる。

 疑問を理解したアビーは「単純明快な事」と言わんばかりに述べた。


「妖精は攫う。そこは最初の計画と変わらない。止めるのはその次だ」

「チェチェの天女様は〜、渡さない〜。チェチェ達のもの〜。わかった〜?ナルフ〜」

「…チェチェンはわかるけどアビーまでイカれたのか?尋問でもされてしこたま頭を叩かれたのかよ…」


 ナルフはますますついて行けないようでちいさな声でぼやいた。

「ひどい〜」と口を尖らせるチェチェンを一行だにせずアビーはナルフを相手にする。

 真剣な顔をナルフに面し「そうじゃない」とアビーはさらに切り出した。


「ナルフもあの妖精を一目見ればわかるさ。柄にもなく俺なんかが「妖精」なんて吐いてるんだぞ」

「…確かにな。さっきから「気味が悪ー」と思ってたぜ。そこまでゾッコンになる程かよ「妖精」「天女様」ってのわよ?」

「言っただろうが。人の範疇の美しさじゃない。あの存在を手に入れて「はい、どうぞ」なんて馬鹿げてるのさ。…俺達で独占するんだよ」

「だから〜、仕事は止めやめ〜。ぽい〜、するの〜」


 新たな提案をされたナルフは黙り込む。

 そしてアビーとチェチェンの真剣な顔を覗き見てはテーブル上の何処ともいえない場所を眺めた。

 空間には店に訪れた時と同様に静けさが支配する。

 だが、5分程黙考したところでナルフは決断したようだ。

 パチンと膝を鳴らすと前方の2人に向き合う。


「いいぜ。ウチものったぜ。バックレてやろうぜ。そろそろ裏も潮時だと思ってたところよ。今回の依頼も「キッドマンにー」なんてヤベーってな。ちょちょっと前金分の報告だけして辞めようとしてたのよ。それをアビーとチェチェンに言う前に逆に言われるとはよ」

「同じく〜。ナルフに合流したら〜、少し活動して一緒に〜、逃げるつもりだった〜」

「ナルフの言うとおりだ。あそこはもう落ち目だ。沈む前にずらかる」


 意思のすり合わせは終わった。



 ――――――――――


「では決したな」


 アビーの言辞にナルフそしてチェチェンが頷く。


「ナルフ出してくれ」

「おいよ」


 振られたナルフは魔法袋を懐から取り出し中からそれをテーブルに出した。

 軽い音を立てて置かれたそれは美しく光を反射する球体だった。

 傍からはガラス玉にしか見えない。

 それが合計5つ広げられる。


「ここの兵は工作が効かねぇからよ、大変だったぜ。新兵の顔を覚えて、そいつが散漫する夕刻に。そんで大事をとって魔力測定器がしまい込まれるタイミングを狙ってよ。一度外に出てアビーにも教えた。…なのにアビーに渡した分は袋ごとおじゃんだしな。あ!いや!悪かったってよ!!ウチの責任だって!!」


 拳を振り上げたアビーに平謝りする事、何とか許しを得たナルフ。

 結果としてナルフはチェチェンが「今度は〜、別のウイスキ〜三杯〜」と扉の向こうに届けるのを横目にするだけだ。

 兵士にヒューマンエラーが出たのと同様にナルフも内心を口に出すミスを犯してしまうらしい。

 アビーは出されたそれをしまい込む。


「こいつだけは外におけなかった。仕方ないさ。当初の計画では8つだったが、足りない分は俺が奥から釣ってくる。ナルフは気配を消して撹乱しろ。チェチェンは貼り付け。俺も後で合流する」

「金で連れたのが何人かいるからそいつらも出すぜ。まあ、実力がなくて稼げない奴らだけどな。頭も腕も乏しいがよ、これなら使えるしょ。変にプライドだけは高くて操りやすいぜ」

「うん〜、了解〜。天女様にくっついてる〜。アレ二体は〜、チェチェが持つね〜」


 予め謀りは済んでいたのかそれだけで話は終わったらしい。

 届いたウイスキーを各々が飲み干すと解散のムードとなる。


「この後はどうするよ?ウチは昨日見てきたけどよ、女でいいのがいなくてさ。アビーは?連れてった股の緩いのは興奮してたぜ」

「ここには殴れる男がいないのだろ。なら興味はない。妖精を思って1人で慰めるさ。…というよりもう妖精一筋だな」

「チェチェの〜、初めては天女様〜。やっと女になれる〜。ん?女のまま〜?」

「…あのチェチェンがなー。色事なんて欠片も興味なかったのに変わるもんだぜ。…それだけ美姫はすげぇんだな。ウチも早く会ってみてぇ」

「そう〜。天女様は〜、完璧〜。大人になれば〜、もっとやばい〜。だから〜、今の内から洗脳〜。チェチェの事しか〜、考えられなくする〜。性奴隷〜」


 全員真っ直ぐに宿屋へと向かう事がわかると3人は立ち上がる。


「そうかい。じゃあ、報告はウチに任せな」

「おう。あと監視もな」

「ナルフ〜、ごちそうさま〜」


 アビー、ナルフ、チェチェンはその内容を感じさせない程気楽に店を出た。

 会計をした店員もまさか悪事が交わされていたなど浮かびもしない。


 嵐は近い。

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