23-家族となった
3年前の事だ。
シルビアらはまだ非公式だが、私の婚約者となった。
私はそのタイミングである提案をしていた。
「あのね、お母様。私は今までシルビアと一緒にご飯を食べてたでしょ?将来的に私の配偶者になるならこれからも一緒に…。だめかな?」
「ふむ…、そうだな…。いいぞ、アイシャ。私は構わない。シルビアは赤ちゃんの頃から知っていて「私の子」と言ってもいいくらいだからな。それが妾とはいえ事実となるのだ。非公式の席でならば許そうじゃないか。シルビアもいいな?」
その当時まだ数ヶ月程だが私が家族と食事を囲むようになった頃。
シルビアはそれに混ざる事を良しとはされなかった。
立場がそれを差し許さなかったのだ。
どうして?今まではシルビアが私の隣にいたのに…。
私は物寂しい気持ちでいっぱいだった。
シルビアも同様のようで合間合間に私に構う頻度が普段より多かった。
家族での食事はもちろん嬉しい。
毎日私の顔を覗きに来てくれはするけれどもその時間は限られていたからだ。
皆と一緒に席に座り、召し上がる。
前世の静けさしかなかったものとは比べようがない程の幸せだった。
だけど私にとってはシルビアも家族なのだ。
シルビアもここにいてほしいと願ってしまうのは贅沢なのだろうか…。
そこに降って湧いた婚約者という立場だ。
「それならばまたシルビアとの食事が出来るのではないか?」と私は考えた訳だ。
そしてルリシャナに聞けばあっさりとこれに了承してくれた。
私は再びのシルビアとの時間を勝ち取ったのだ。
呆気ないくらいルリシャナの許可が貰えあの時私は非常に喜んだのを覚えている。
けれどもシルビアはこれを固辞したのだった。
「申し訳ございません、お館様。私はまだアイシャ様の側近、キッドマン家の一使用人でしかありません。そんな私が同席するなど秩序の乱れを招きます。それに公式な立場となりましても妾であり他家に知れればキッドマン家が舐められます。どうかお許しください」
「え!?…で、でもさ、他に見てる人もいないでしょ?大丈夫だよ、シルビア。また一緒に食べようよ、ね?」
シルビアは私の言葉に嬉しさを隠しきれない表情をしてくれた。
だが。
「それでも立場というのは明確にしなければなりませんよ、ご主人様。なあなあでは後で必ず問題が起こり得ます。私はご主人様に迷惑をかけるなんて死んでも嫌です。…お気持ちだけで私はとっても幸せです」
シルビアは最後に笑顔でそう締めくくった。
シルビアは決して首を縦に振ってはくれなかった。
…この時はね。
――――――――――
ある日の事だ。
リリーがこの難題に疑問を挟んだ。
「あら?どうしてシルビアは一緒に食べませんの?もう先に済ませてしまったのかしら?もう!一緒に食べればよかったですのに!わたくし、寂しいですわ」
「そ、そうだよ!シルビア!!リリーの言うとおりこれからは一緒に食べようよ!!」
「それがいいな。別に問題ないさ。リリーもこう言っているだろう?」
「うん、僕もいいと思うよ。シルビアの席もこれから用意しようか」
まさに千載一遇のチャンスだった。
「これを逃すまい!!」と私とルリシャナ、ルーズベルトはそれに便乗する形で援護射撃をした。
私達からの「身内に甘い」と思われる意見ではない。
外側からのものならシルビアも受け入れやすいのではないかと考えたためだ。
ここでどうして私だけではなくルリシャナとルーズベルトでさえも率先して助け舟を出してくれるのか?
貴族としての倫理観があるならシルビアと同意見ではないか?
初め私はそう不思議に思った。
しかしながら今までの背景を考えると「なるほどな」と納得したのだった。
これは私の推測になるが、二人はシルビアを「本当の自らの娘」としたかったのではないだろうか。
「私達の娘として何不自由なく健やかに」と二人は思ったのではなかろうか。
実際ルリシャナは「私の子と言ってもいい」と先に発言している。
その物言いに含まれた情は親子のそれに近いと私は感じていた。
さらにルリシャナとルーズベルトがシルビアを見つめる瞳からはそれを深く思わせる色があるのだ。
私を見つめる光とベクトルは若干違うが、ある種同様のものを覚えたのだ。
赤ん坊の頃から知っている娘、シルビアが天涯孤独となった。
シルビアの両親は生前自らによく尽くしてくれていた。
そんな今ある存在であるシルビア、過去にあった存在であるその両親を無下に扱えるような非情な人達ではないと私は知っている。
しかし、シルビアと二人の立場がややこしかったのだろうな。
厚遇する事は厄介事を招く危険性がある。
一般に「慈悲深い」と言われる行為であっても外野はあれこれと評判を付けたがる。
偽善だなんだと言いたがる。
表では何でもない顔をしている癖に裏では不満や見当外れの妬み嫉みを溜めている可能性は高い。
それが人間らしさだ。
もしそれが爆発すればどうなるか。
まず向かうのは立場の弱いところとなる。
今回の件なら「シルビア」となるだろう事は明白。
過去のシルビアの肩書「ただの孤児シルビア」では保護する建前すらなかった。
だが、キッドマン家第3子の婚約者という立場を付け足せば解決出来る問題だ。
だからシルビアに3年間ほぼ1人で私の世話をさせたのではないか。
一緒に缶詰の生活という殆どの者が音を上げるそれを強いた。
そしてそれをシルビアはやり通した。
「それ程の貢献をしたならば褒美として妾となるのはあり得る」と無理矢理な気もしないではないが、言える状況を作った。
これにより外側の意見に憂う事なく、振る舞う事が出来るようになる。
二人は意気揚々とシルビアを家族として迎え入れられる。
「ルリシャナとルーズベルトはそう考えたのでは?」と今までの環境の随所から読み取れるのだ。
しかし「家族として扱いたい」は私達の言い分。
シルビアとしては目上の人、天上人といっても過言ではない方達と同席するなどとんでもなかった。
シルビアは「どうかお許しください」と土下座をして懇願する程であった。
…アホな話なのだがこの時「へ〜、この世界でも土下座ってあるんだ〜」と斜め上の感想を抱いた私だった。
だけど、いい意味でも悪い意味でも空気を読まないのがリリーだ。
…まるで褒めてるように聞こえないね。
「そうだったのですわね。では、シルビアはこれからもアイシャ様とは一緒に食事を摂られないのですわ。だってわたくし達が毎食連れ立っていたしますもの。…ずっと1人ですわね。とっても可哀想ですわ」
そうリリーは先の発言に続けて言った。
リリーは「そうなのね?」という顔をしていたので意地悪ではなく天然で発言したらしい。
「天然でも悪魔みたいな発想をするリリーは流石だ」と私は思う。
ある意味怖かったよ、リリー。
だが、その言葉を聞いたシルビアの動揺は凄まじいものだった。
具体的に言うと「私が」凄まじくされた。
夜に力強く抱きしめられながら話を聞くとシルビアにはその瞬間稲妻が走ったらしい。
「このまま1人で食事を摂るのは嫌です。ご主人様とのものでなければおいしくありません。楽しくありません。一緒に食べたいです」とそのお苦悩さゆえか私は若干体を極められながら言われたのだ。
タンマタンマ、シルビア?一旦落ち着こうか。
でないと色々と出そうだよ…、う…。
うんうん、一緒に食べようね。
…ぐぅ!食べたいなぁ!!
当時我慢した私はすごいと思いますわ。
あとナイスパスですわ、リリー。
キラーパスともいえたけどさ…。
――――――――――
そういう訳で現在シルビアも食事に同席している。
お風呂にだって皆と共に入るようになった。
紆余曲折あったが、やっと収まるところに収まったのだ。
「私の隣にシルビアがいてくれる」その結果を得た。
リーナにクリス、クララもこれが気に障る性格はしていない。
「賑やかになった」と喜んでいたくらいだ。
それもシルビアが私の事を第一に考えそれでいて周囲に対しても誠心誠意の行動を取っていたのが大きいのだろう。
やはりあなたは素敵な人だよ、シルビア。
この世界で初めて好きになった…。
私が…。
ここ城塞都市グルダでの食事は「代官となるリーナ一家と」とである。
それは私にとって和気あいあいとしたものだが、外から見れば緊張感漂うものらしい。
というのもシルビアは最初可哀想なくらいぷるぷると震えていたからだ。
さもありなんか。
まさか自分が領主一家と。
そしてその係累と食事の輪を囲むなどシルビアは思いもしなかったのだろう。
だけども最初は恐縮し小動物のように縮こまっていたシルビアだが、時間が経てば次第に慣れていった。
皆シルビアの事を将来の家族の一員として迎え入れ同列の存在して扱ってくれたからだ。
その団らんに参加して同じ存在として対応されるのに壁を造り続けられる者はいないのだろうな。
シルビアは最初の緊張が完全に抜け私にしか見せなかった笑顔を見せてくれるようになった。
これにちょっとモヤッとしたのは私だけの秘密だよ。
…秘密としたかったのだが、その夜「安心してください。私のご主人様は1人だけです。私の全部を見せられるのは1人だけですよ」とシルビアに言われた。
どうやらバレバレだったらしい。
私がシルビアの事を見ているようにシルビアも私の事を見ていたようだ。
恥ずかしいのにその事実をどうしようもなく嬉しく感じてしまう。
本当に素敵な人だ。
…なのに私は信じられ…。
最近は特にその考えが強くなっている。
――――――――――
個人的に刺激の強かったお風呂から上がり夕食の席へと移動する。
「今日の夕飯はアイシャが考案した串カツだ。この前食べたのだがな、あれは斬新な発想だった。あんなに単純な工程なのに誰も思いつかないとはな、驚きだよ。とてもおいしいものだったぞ、アイシャ」
「そうね、お母様。それにしてもアイシャはすごいわ。串カツだけじゃなくてそれに付けるソースまで考えつくなんてね」
「ふふ、そうなのです。ご主人様は天才でとっても可愛いのです」
私はぬか漬けの後も料理を再現し続けた。
この世界の食物はそれ単体でおいしい。
ある程度の調理であっても前世の料理を知っている私の舌をも十分満足させた。
なら下ごしらえ、隠し包丁、調味料、レパートリーの追加をすればさらなる美味が生まれるのではないか?
それをどうしても愛する人達に食べさせたい。
その考えの元、私は邁進し続けた。
ぬかの活用法で他にヨーグルトやふわふわのパンの開発をし私には確かな実績があった。
それにより難なく私の意見は周りに受け入れられたのだ。
キッドマン家の料理人に先人の知恵を分けられる機会を得られ彼女らも素直に私の言葉に耳を傾けてくれた。
私がキッドマン家の一員である事とその容姿のおかげもあったのだろうがな。
そうすれば彼女らは流石プロだけあり早々に私の腕など超えてしまった。
…わかっていた事だが、ちょっとだけ悔しかったよ。
私が作るよりも遥かにおいしいのだからさ。
だったらそれを食べさせてあげたい。
…比べられたくないと思うくらい許してほしいな。
そんな安いプライドが私にはあった。
だからこそ私は調理技術ではなく調味料やソース、ベースとなる出汁の再現を優先的に行った。
これならば料理の腕はあまり関係ない。
さらに専門家に任せても私が発明したと胸を張れる。
盗人の発明だと私だけが知っているが、この世界では初なのだから大目にみてほしいね。
褒められたいんだ。
皆から私を必要と…。
キッドマン領は日本人の舌に近かったらしく私のもたらした味は尽く受け入れられたのだ。
そして開き直ればその称賛を受けるのはそれほど気にならなかった。
これらの私の見栄の努力によりこの一年と半年でキッドマン領の料理の幅はかなり広がったと思われる。
「にしても良かったの?アイシャ。独占すればかなりの富を築けたわよ?それを無償だなんて…」
「…確かに。おかげで税収は上がったがな。このキッドマン領でなければ栽培出来ない香辛料類が多いために外との供給における隔絶が出来たのも大きい。…だけれど私達は助かってるが、アイシャはそうでもないだろう?」
クララとリーナから「余りにも無欲ではないか?」と問われる。
そんな事はない。
私程他者を疑っている人物はいないさ。
皆の事だって…。
信じたいのになんで。
前はこんな事考えなかったのにどうして。
…最初の頃の私に戻ってしまう。
「ううん、そんな事ないよ。競争しないと成長はないからね。こういう単純な技術の独占はゆくゆくの衰退を招くよ。それにリーナ伯母様が言ったように私達は税収が上がれば儲かるんだからそこで欲張る必要性はないよ。数が増えればそれだけで私達は富むんだからね」
「もう!流石私のご主人様です!!素敵です!!」
はい「さすごしゅ」ですー。
ありがとうございますー。
隣に座っていたシルビアが感極まったのか抱き着いてきた。
でも要約すると「エサをばら撒いて育った後で収穫した方が最終的な取り分は多いよね」だよ?
結構クズな発言だったと思うのだけどな…。
まあ「本当っ!素敵な夫だわっ!!」とクララも抱き着いてきたのでかなりの格言だったのだと納得しとこうかな。
あと、苦しいからシルビアもクララも少し力を調整してね。
それは凶器になる事実をしっかりと認識してほしいよ…。
「そうか…。アイシャの言うとおりこのような技術なら広めたほうが最終的な利益は大きいのかもな。それを増進するために法整備をして足の引っ張り合いが起きないようにした方がいいのか…」
「それがいいかも。「うちが考えた調理法だぞ!」って難癖を付ける人達が出たら進歩が遅れるよ。それに料理に必要な調味料に関してはこっちが握ってるからね。そこのコントロールを見失わければ安泰だよ。私達は多くの人が手に取れるくらい「出来る範囲で安価に、大量に」供給し続ければいいんだ。中毒にして抜けられなくするんだよ」
「うふふ。悪い言い方だけど言い得て妙ね。ますます素敵よ、アイシャ」
「はい!流石ご主人様です!大好きです!!」
はい「さすごしゅ」と「大好き」ですー。
ありがとうございますー。
あなたがそう言ってくれると私の心は軽くなる。
濁った両眼で世界を見ずにすむ。
そう、私が公開する事にしたのは調理法だけだ。
それを成すために絶対不可欠な調味料に関しては領主側の人間で限定している。
そこでの雇い入れは個別で部分的かつ専門的な作業にしてもらってる。
全体のレシピに関しては責任者のみにしておりキッドマン家に恩義がある人選をしているので漏れる心配はない。
さらに合流して継合わせられないようにする対策も講じている。
各部門同士の調合比を秘匿。
鍵となる材料は現場に卸さない。
熟成、醸成の環境の不透明化だ。
これの徹底をする事で秘密厳守をしている。
特許制度等ないのだからこうでもしなければ作業員の生活を守れない。
私はギルド社会、談合社会の弊害を知っている。
それでは買い手が手に取りづらい。
では、技術を買い叩けばいいのか?
それこそ末期症状をまねく。
前世日本の「安いが正義」のネガティブなデフレのように。
どちらの立場も強めなければならない。
需要と供給曲線のバランスを見極めお金を回す必要があるのだ。
富の一極集中化は崩壊の鐘を鳴らす。
だからこそ貴族社会の権威を用いて精細なバランス取りをするのだ。
欲に目が眩まない限り絶対的な力程有力なものはない。
…もっとも源泉は私達のためだがね。
私達のために綺麗事に、おままごとに付き合ってもらうぞ。
現状としてはまだまだ「前世のような値段に」とはいえずある程度の富裕層でしか常備は出来ない。
けれども後2、3年もして生産体勢が整えば一般大衆も大量に使用出来るはずだ。
現時点では月に1、2回は通いたいと思われるやや高級店でその味の虜になってもらう。
それが自らも利用可能な域となればそれはもう飛ぶように売れるはずだ。
ルリシャナやリーナはそのための法整備を今の段階で纏めてるそうだ。
私は起こり得る問題を「温故知新」で伝えている。
私には統治能力は欠片もないからね。
教わりある程度の知識は付いたのだが、やはり前世の庶民感情が邪魔をするらしい。
補佐ならともかくトップとして実行するには向かないとされた。
「アイはアイの道を歩めばいいさ。それを支えるのが私達家族だからな」とルリシャナには言われたくらいだからお察しだな。
…ルルとナナには「お姉ちゃんが養うわ!」「ん。まかせる」と頭を撫でられたけどね。
シルビアは小さく「ご主人様を飼うですか…」と呟いていたよ。
…なんだろね、この素直に喜べない気持ちは。
家族…。
ちなみにルーズベルトは「僕もアイと似た感じだよ。あはは」と笑っていた。
そっか!笑えばいいんだね!笑うよ!!
私の笑い方は乾いてると思うけどね!!
リーナが「うむ」と一度納得して頷き言葉を続ける。
私の意識が現実に引き戻される。
…いつも思うが、こういう仕草はルリシャナにそっくりだね。
言葉遣いも似ているし姉妹だと認識させられるよ。
ルリシャナが貴人としてのオーラが強く厳格そうな雰囲気。
リーナはカラカラと笑うのが似合っていて距離を詰めるのが上手いな…。
どちらもそれを把握していて上手く民心の掌握に取り組んでいるそうだ。
「技術は大から小に至るまで全て独占が慣例だったからな。それが技術革新を妨げると知っていたのにいざ自分達がその立場になってみればこのざまだ。まさに「目から鱗」だよ。全部が全部に当てはまる訳ではないだろうがね」
リーナの言葉に私も頷く。
そして私はリーナが思う問題点を挙げる。
「今回の場合調味料以外の材料が簡単に手に入って調理法も知ってしまえば誰でも再現可能だからね。専門分野でないからそれなりの速さで模倣されてしまう。もし下手にそれが伝われば悪くすると食中毒を起こす可能性もあるね。…口に含むものは怖いよ…。その責任をこっちに擦り付けようとする人は絶対に出てくる。ならさ、最初からそっちはお任せでこっちに責任が来ないようにするんだ。解放して利ざやを貰った方が賢いんじゃないかな?」
私の言葉に「ああ、そのとおりだ。実際アイシャが言ったように回す予定だな。制度もだいぶ形になったとシャナ姉さんが言っていた」とリーナも続けた。
「悪いご主人様です。悪くてとっても魅力的です」
「試行段階ではかなり上手く行ってるものね。長い目でみれば一番効率がいいと思うわ。偉いわね、アイシャ」
シルビアとクララがそう言葉にする。
私自身はアイデアを出して後はお任せのスタンスだったが、どうやら上手くいっているらしい。
それもそうだろうな。
私なんかより遥かに頭のいい人達がほんの触りとはいえ洗練されてきた前世の感覚を知ったのだ。
しかもそれを知ったのが一番上の存在だ。
さらに元々キッドマン家はその性質上領民を大切に。
あえて言えば最も力を発揮しやすいよう手綱を握る信念が根付いている。
私が伝えた思想は元来受け入れやすかったのだろうな。
…というかシルビアに関しては頬を赤らめてるのは何故なんだ…。
そんな要素はなかったはずだけど…。
まあ、いつもの事か。
――――――――――
クララの言葉に皆が納得しこの話題は終わりを見せたようだ。
10分少々の話し合いだったが、料理に関する事だったためかますますお腹が空いてきた。
我慢しきれず私のお腹がぐ〜と鳴ってしまう。
その事にあれから私を離さず自らの膝の上に移動させていたシルビアが真っ先に気付く。
「もう、ご主人様。はしたないですよお腹を鳴らすなんて」
「あら、そんなにお腹が空いてたのね。もう少し待ってね。すぐに用意されるはずよ」
「ククッ、仕方ないさ、シルビア。アイシャは育ち盛りだ。…もうすぐ7歳になるのか。とはいえ平均よりまだまだ小さいな。いっぱい食べなさい。もちろんシルビアとクララもだぞ。もうすぐ来るリリーもな」
…あら…、私ったらすっかりリリーの事を忘れていたわ…。
確かにいつもより静かだったなぁ…。
えー…、おほほ。
それとリーナもすっかりリリーの事を許したらしく、その顔は普段のものになってるね。
そう思ったところで廊下から騒がしい音が響く。
どうやら走っているらしい。
どんどんとこちらに近づいてくる足音が聞こえてくる。
…これは…、はぁ…、どうしたもんかねぇ…。
私はチラッとリーナに目を向ける。
Oh、あちゃーですわよ、リリー。
リーナも同じ事を思っていたようで額に手を当て苦い顔を隠しきれないでいる。
それが段々とピクピクと頬が痙攣するように変わる。
しまいにはお風呂に入る前の表情になっていく。
これにクララは苦笑を隠しきれずシルビアは呆れ顔だ。
ああ…、これは確定演出というやつだろうか…。
これからの惨状を予感するよ…。
ドンッ!とけたたましい音を立てて扉が開かれる。
華美ではないが、作りは頑丈であるために壊れはしない。
だけどもう少しやりようがあるだろうに。
銀糸の髪を揺らし白い肌に対比させるよう頬を上気させた溢れんばかりの笑顔を浮かべる彼女。
もう少女とは言えずさりとて大人の女性にもなりきれていない。
それが可憐な彼女の容姿にさらに一種の幻想的な雰囲気を追加する。
彼女は私に目を留めるとより一層その笑みを輝かせそれが麗しい美貌をまた昇華させた。
私が屋敷に到着してからずっと会いたかった愛する人。
リリーがそこにいた。
「きゃー!わたくしのアイシャ様ですわ!ずっとずっとお会いしたかったですわ!いつもどおり…、いいえ!いつも以上にとっても可愛いいですの!!こう…、グッときましたわ〜!!」
…なんとかお茶を濁そうとした私の凝った紹介を返してほしいね、リリー…。
色々と台無しだよ。
あー、私知ーらない!
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