19-寿命と遺伝
「まあそうなるよね」というのが今の気持ちだ。
クララが婚約者となった。
私が気絶した後両親同士が話し合いクララもそれを望んだために決定したらしい。
あとは私の了承しだいだが、授乳プレイをされながら「いいでしょ?」と聞かれると私の答えは1つしかない。
はいかイエスだよ。
断るのはクズ男だろうね。
そしてシルビアとリリーはこれに際し結託した。
私が断る訳ないと思っていたが、少しの可能性も消したかったらしい。
それで強引な授乳プレイの見せ付けと引き込みだったとか。
「時間がなかったためご主人様に説明出来ませんでした」シルビアはと言っている。
だけど目線を合わせてくれない。
…完全に作為的だったようだけど上手くいったならいいか。
結局胸を吸っている私には何か意見を言う資格はないしね。
「お姉様!これでいつまでも一緒ですわ!嬉しいですわ!!」
「ええ、リリー。私もあなたと同じ気持ちよ」
リリーがクララに飛び付き全身で喜びを表現している。
姉妹仲はたいへん良いようだ。
ちなみに同じ失敗はしない。
今の私はクララの胸を離れてシルビアの胸にいる。
そろそろ皆さん胸をしまいませんか?
見ていて寒そうですよ?
それ以外の思いは抱いていませんよ?
本当だよ。
…好きなのだから下心を持つのはしょうがない。
「皆様、もうよい時間です。就寝いたしましょう」
シルビアの掛け声でこの話は終わりとなった。
私はやっと解放されシルビアにリリー、クララは着衣を直す。
ちょっと寂しい気持ちもあるけどいつまでも見せるものでもないしね。
…ん?えっ、ん?
終わりとなったのに私の部屋からリリーとクララが出ていこうとしない。
というより就寝の準備を始めている。
…ええと、せっかく愛し合ったのに離れるのは寂しいと…。
私がしたのは別に…、ええ、はい、一緒に布団に入りましょう。
ええ、わかってます。
わかってますとも。
私のベッドは4人でも寝られそうだ。
ベッドがそれなりに大きいのもあるが、私が小さいのと女性陣が胸以外細いのも関係している。
私はリリーとクララに挟まれて横になる。
シルビアは今日は隣を譲るらしい。
…ちょっと寂しい。
予想外の方向に話が飛びまくったからか私は直様眠りに落ちた。
柔らかくていい匂いのする暖かいものに抱かれているのも関係しているだろうけど。
でも、やっぱりシルビアが隣にいない。
――――――――――
「ふっ!」
「くっ!」
タリアと刃引きした武器で打ち合う。
私は短槍でタリアは細見の剣だ。
私は武器による距離の取り合いを制して何とか互角に持ち込む。
私はまだまだ非力だ。
タリアは領軍において長年狩りをしてきたため魔力の瞬間出力、総量がまるで違う。
出力で負け、さらに持久力でも負けている。
ならば私が勝つ道は一つしかない。
短期決戦をしかけ武器のリーチで差を補う。
短槍とはいうが、全長1.5mはある。
私の体が小さいためそれ程ではない。
が、この距離を活かさなければとっくに決着はついていた。
それに魔力が見えるのが大きい。
相手の身体強化でどこに魔力を多く振ってるかがわかり後出しジャンケンが出来るのだ。
これで何とか互角に持っていけている。
まあ、ハンデはもらっているが。
でないと最初から勝負にならない。
「そこ!」
タリアが突きを払ってくるが、ブラフだとわかる。
明らかに魔力の偏り方が違う。
普通これで決めにかかるなら踏み込んだ足、手首、肘、肩、一拳分伸ばすための肩甲骨周りに魔力を集中させるはずだ。
それがほとんどない。
…これは速さだけの見せかけだ。
証拠に魔力を後方に残した足へ多く割り振っている。
体を残す、そしてその次こそ本命だとわかる。
「なっ!?」
やはりタリアは突きに伸ばした腕をすぐさまたたむ。
そして間合いを再び離そうとする。
それを読んでいた私は逆に必要以上に詰めて距離を殺す。
タリアとしては受けに回させて私をその位置に釘付けにしたかったのだろう。
予想してなかったタリアは一拍動作が途切れる。
勝機はここだけだ!
私は短槍の持ち手を前方に持ってき短くしまるで短剣を構えているようにする。
そのまま腰を屈める。
自身の腰をタリアの太ももに密着させ近づいたタリアの体を流す。
離れざまに短槍の刃で撫でて終了だ。
実践ならタリアの腹が割かれて内蔵とご対面している。
文句ない決着だろう。
「ふー。お見事、アイシャ君。私の負けだ。完全に読まれてたね」
「…はぁ、はぁ、ありがと、う、…タリア…先生。うん…、見え、てた…」
私が息も切れ切れに対しタリアは全くといっていい程いつもどおりだ。
体力の差が如実に現れている。
悔しいがまだ時間が足らない。
それに勝てたのもたまたまだ。
タリアがそうしているようにいくつものフェイントを混ぜたそれが上手くいった。
それでやっと初めて勝てた。
貴重な初勝利だ。
「いい動きだったね。まんまと後ろに下がると思わされたよ。完敗だね」
「…はぁー…、ふぅ。ううん、本当にたまたまだよ。次はうまく行かない。まだまだ急制動のための魔力が足りないや」
「…うん、それがわかってるなら大丈夫。次はもっと上手く出来るさ」
指摘したとおりだ。
地面が踏みしめられた訓練場だから上手くいった。
地面の状態では上手く力が伝わらずに前につんのめり、やられていたのは私の方だ。
体を少し後ろに残す欺瞞も出来なかっただろう。
これ程の相手と戦うにはまだまだ魔力が足りない。
そしてタリアは手を抜いてくれている。
まず、実際には使用魔力を制限してくれている。
タリアが使っているのは私と同量だ。
さらに踏み込み以外で移動せず半径1mから出ていない。
タリアに許されたのはたった一歩分の踏み込みとスウェーバックだけだ。
これよりタリアからは距離を取れず大きく詰めれず。
勢いも満足につけられない。
その手枷を付けて初めて私と同等の勝負となる。
それでやっと勝てた勝利。
素直に誇れない勝利だ。
「そんな謙遜しないで、アイシャ。すごいわよ。今の時点でタリアから勝利を取れるなんてね。ちゃんと自分を褒めなさい」
「…クララ…。ありがとう。うん、そうするよ」
パチパチとクララが拍手をしながら言葉を投げかけてくれる。
必要以上の謙遜はタリアに失礼か。
クララがタオルを渡してくれるのでありがたく受け取る。
今ルルとナナは館とは離れた訓練場に向かっておりリリーもそれに付き合っている。
あちらも別の指導官との1V1をしている予定だ。
タリア以外は正式な指導官ではないので向こうの職務を優先している形となっている。
そのためここには、本館には私以外にシルビアとクララ、タリアしかいない。
「ご主人様、お見事でした。そろそろ朝食の時間です。訓練を切り上げましょう」
「シルビアもありがとう。うん、終わるよ。タリア先生、お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ様。また朝食後に」
わたしは部屋に戻り服を着替える。
…えっと、シルビアはわかるけど何でクララまで…。
あとは軽く拭くだけだけど…、ああ、拭いてくれると。
…うん、ありがとう…。
シルビアが後ろを。
クララが前を拭いてくれる。
この世界では男女の役割の逆転から男性が女性に尽くすのが普通だと思う。
が、楽しそうなのでされるがままでいいのだろう。
少しくすぐったい。
…でも、嬉しいね。
――――――――――
「そうか。アイシャからも受け入れられたか、クララ」
「ええ、シャナ伯母様。リリー共々お願いするわ」
「ああ、こちらこそ。まあ、元々近しかったんだ。関係性は余り変わらんさ」
朝食の席で正式に私とクララが婚約者となった事を報告する。
皆知っていたようで特に大きな反応はない。
ルルとナナも自分が婚約者の立場となっているなら拒絶はしないようだ。
リリーの時のようにならなくて安心する。
…あれはあの後の私が大変だったよ。
ルルもナナも私の事を好いてくれてるからね…。
婚約者になる前の鬱憤となった後の歓喜のダブルパンチ。
いや、ダブルダブルパンチはすごっかった…。
「にしても娘2人が婚約者を得たか。私の場合は15歳だったか?シャナ姉さんは17歳か」
「おい。余り年齢は言うな、リーナ。恥ずかしいだろう」
「とと…。すまない、シャナ姉さん」
逆算したらわかってしまうからね。
やはりこの世界でも女性は年齢の事を言われるのは嫌みたいだ。
とはいってもルリシャナもリーナも見た目はかなり若いけどな。
魔力が新陳代謝を上げ老化を防いでるのだろうか?
20代前半にしか見えない…。
…そういえば実際は何歳なのだろう?
今まで「綺麗な人だなー、これがお母さんか…」程度にしか思っていなかった。
一番上のクララは10代後半にしか見えない。
ならばルリシャナは40歳くらいだろうか?
見た目とのギャップがすごいね。
前世でいえば「美魔女」というやつかな?
ルリシャナもリーナも綺麗だよね。
ふむ、聞いてみるか?
…なんか気になるし。
「ねえ、今まで知らなかったのだけどお母様は何歳なの?すっごい綺麗だよね」
「むー、こら、アイ。聞くなと言ったばかりだろう。悪い子だな。全く…、ふふ」
「…うっ。ごめんなさい、お母様」
そのまま「何歳?」なんて聞かないデリカシーはある。
実際私に「綺麗だ」と言われてルリシャナは嬉しそうだ。
…計算どおりだな。
これはいけるか?
「アイシャ。私はどうだ?」
「リーナ伯母様もすっごく若くて綺麗だよ」
「ククク、そうか。そうか。いい子だな、アイシャは。あっはっは」
望んでないリーナが釣れた。
んー?ルリシャナは教えてくれないか?
まあ、絶対に知りたい事ではないが、一度気になったら知りたくなるな。
…気になって仕方がなくなってきたぞ。
…今更だが、女性の年齢を知りたがるのは最低な行為だね…。
えっと、もういいかな…。
「はぁ〜。親の年齢は知っておくべき事か。アイ、私は52歳だ。ピチピチだぞ。母さんはまだ若いからな」
「そういうわけで、私は50歳だ。アイシャ」
「…へ?」
取り下げようとしたら答えを教えてくれた。
だが、それは…。
…それは若作りが過ぎないか?
多く見ても見た目と実質30歳は違う。
それは「美魔女」というか「魔女」かな?
ああ、ルリシャナは魔法使いでかつ女性だから魔女か。
…というか若いのか?
流石に50代は自身の母とはいえどまあまあ高齢といえるのでは?
そんなの口が裂けても言えないけどね!!
「そうだね!お母様とリーナは綺麗で若いよ!ピッチピチだね!!」との意を汲んだ言葉を囀ろうとしたらルーズベルトから特大の爆弾が投げ込まれた。
「まあ、僕達はあと150年は生きるからね。まだまだこれからだよ」
「私が今16歳だから…。あと180年はアイシャと一緒にいるのね。楽しみだわ」
「お姉ちゃん達もずっと一緒よ!アイ!」
「ん。永遠。愛してる」
「わたくしもですわ〜!」と続くリリーだが、頭が追いつかない。
は?150年?180年?一緒?永遠?どういう事?
――――――――――
魔力の多寡は肉体の老化を抑制する。
そのため魔力量や親和性で「寿命の伸び縮」が起きるらしい。
身体強化の熟練者や魔法の使える者は大概200歳まで生きるそうだ。
全盛期の維持も長い。
成長は通常どおりだが、その後150歳程まで若さと肉体の精強さを保ち続けるという。
その事から10歳差、ましてや30歳差の婚姻は珍しくないらしい。
私の婚約者達はショタコンではなく通常らしいと知った。
どこか安心し…、いや、授乳プレイに別の行為をこの年の子にするのは普通じゃない、か。
まあ、もう受け入れたけどね。
また、全盛期の長さから一代が長期続く事もあってか上下の関係性が深く、忠誠心が高くなる。
結果その次の代も同様に仕える場合が多くなる。
その反面縁故主義が強すぎる弊害であったりだとか、悪政が長く続いたり。
抑制されてきた次代が自分本位に振る舞う場合もあるそうだ。
内部浄化が起きづらくなり外部からの介入も酷く抵抗されるらしい。
なんにでも負の側面はあるみたいだな。
寿命に関する話題が落ち着くと次の爆弾が弾けた。
「私も1人、男の子が欲しい。女の子が生まれれば諦めるが」
「おい、クリス。余り朝食の席でだな。子供達もいることだしな」
「気にする事じゃない。いずれ知る」
「わたくしは妹がいいですわ!お父様!!」
「こら、リリーも」
婚約者の話だったからかクリスが息子もほしいと言う。
リーナが苦言を呈するがクリスは気にしていないようだ。
それにリリーも乗っかり「妹がいい」と言う。
確かに彼女は事ある毎にルルとナナに「お姉様」呼びをさせようとして拒否されている。
にしても…、何故女児が生まれれば諦めるのだろうか?
金銭面はまるで問題ないはず。
寿命も長いので気にする事はないと思うが…。
なんと最初の出産から数えて3回までしか魔力の遺伝をしないらしい。
おそらくこれが魔力による寿命への弊害なのだろう。
長寿になればなる程生殖機能の衰えは起きるという。
この世界の人間の場合はそれが「遺伝」に出たという事だ。
3回目以降は貴族でも生活魔法までしか発現しないらしい。
それはその子にとってもだが、家にとっても他家から舐められる事に繋がるそうだ。
到底受け入れられる事ではないのだろう。
それに個人的な考えだが、魔法使いの数は増え過ぎない方がいいと思う。
これは誰もがミサイル並の攻撃手段を持つのと変らないと思う。
それの数が増えればどうなるか?
攻撃の手が増えれば強大なる魔物という人類の適性存在。
その抑制装置が完全なる制御下に置かれればどうなるか?
人同士の大規模な殺し合いが始まるだろう。
民族戦争、宗教戦争、資源戦争等、小規模なものは今でも起きているだろう。
が、それらの規模が段違いになる。
前世でさえ世界規模の戦争が起きたのだ。
その身1つで簡単に大量殺戮が出来うる魔法ではどうなるのかわからない。
人の心の弱さはよく知っている。
簡単に上位者の頭は狂う。
さらに一代が長く続く事も恐ろしい。
もしその一代に酷く嫌われ敵対行動も辞さないとされたら。
また、それを退けたとしてもその次の代も同様の傾向となりやすいだろう。
大抵の人は「恨み骨髄に徹す」だ。
そして前世の人間とはその犯される年数が桁違いだ。
可能性など論じる必要がない。
キッドマン領は非常に豊かだ。
その生活様式を見ればわかる。
領民は豊食であり仕事も多い。
領軍の地位は高いが、さりとて軍事国家で見られる弾圧や抑制策などをとっていない。
むしろ誇りと思われており関係性は大変良好だ。
けれどもこれは他領でも同様ではないらしい。
まだ知らなくてもいい事なのか多くは口をつぐまれたが、私は「非常に恵まれた生を送っている」とシルビアから諭される事があった。
ならばこれを妬む輩も多いのだろう。
それにあやかれぬ者共の敵意は想像に絶するものがあるのではないか。
その刃をキッドマン家に向けられれば。
それに魔法使いが多く動員されれば。
ならば魔法使いの人口抑制による魔物侵攻の弊害は起きるが、いいバランスの取り合いではないかと私は思える。
キッドマン家は魔物戦闘のノウハウを。
そして優れた血統が脈々と受継がれている。
それがない他家と違い防衛戦力は非常に高いだろう。
他が傷付いたとしても私の心は傷まない。
ここにいる愛する人達が笑顔なら他はどうでもいいから。
何人がその体をその心を犯されようとも私は気にも留めないから。
それでももし。
もしもキッドマン家に戦争が起きれば。
それに私の愛する人達が巻き込まれるならば。
愛する人達の血が流されるならば。
私は…。
――――――――――
朝食後直ぐに訓練を再開する。
今回はルルとナナが一緒でリリーとクララは城塞都市グルダに帰る支度をしている。
そんな事はないのになんだか久しぶりに姉弟だけで教練をうける気がする。
私はルルとナナを見る。
常に笑顔で元気に私を見つめてくれるルル。
口数は少ないが優しげな瞳を向けてくれるナナ。
私の愛する人達の内の2人。
失いたくない。
もう二度と愛する人を失いたくない。
ずっと愛したままでいたい。
ずっと愛されたままでいたい。
…ならば私は魂を悪魔に売り渡したとしても…。
「どうしたの?アイシャ?お姉ちゃんの事を見つめたりして?…あっ!朝練が一緒に出来なくて寂しかったのね!ふふ!かーわい!!」
「ん。くっついていいよ」
私はルルとナナに抱きしめられた。
どちらかといえばルルとナナの方が寂しかったようで両側から隙間なく抱きついてくる。
くっつき虫状態で動きにくい。
ややツリ目の瞳と優しげに細められた瞳が私を見つめる。
双方から笑顔を向けてくれる。
なんともいえない寂寥感が吹き飛ばされた。
何を簡単な事で思い悩み心を黒く塗り潰そうとしてたのか。
答えなど最初から決まっている。
そうだっただろう?アイシャ。
私はもうアイシャなのだから。
アイシャになるのだから。
「コホン。ほら、訓練を始まるぞ」
「は〜い」
「ん」
「お願いします」
タリアの言葉に三者三様で返事を返す。
なんだか平和だな。
踏みにじらせなどしないさ。
私の大切な人達を。
愛する人達を私は守り続けるのだ。
そのための力を。
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