15-生活魔法を放つ
ゼリミアナとの話はほとんど展開しなかった。
相当何かが溜まっていたようで私を抱きしめて頬ずり。
さらにキスの雨を降らされる。
やっと嵐が止んだと思ったのも束の間「飲み足りないでしょう?」と再びの授乳プレイ。
まあ、うん、飲むんだけどさ…。
何か安心出来るんだよね。
「アイちゃん成分をい〜っぱい!吸収できたわ!!ママは満足よ!!」
「…それは良かったよ…、ゼリミアナお母様…」
ツヤツヤのゼリミアナと対象的にげっそりとした私。
もう、圧がすごかった。
そして全然終了の気配を感じられなかった。
たとえ甘美なものでも容量を遥かに超えるそれは毒に変わってしまうと知った。
だが、止める事は出来なかった。
ゼリミアナの嬉しそうな顔と声にはばかられてしまった。
私の「もう止めてほしいかな〜」という気配を察すると悲しそうな顔をするのだ。
それと相反するように行為の最中は非常に気分が高いので止め時を見失ってしまった。
それが私と彼女の状態の違いだ。
結局、私の成分とやらを十分に摂取したところで解散する流れになった。
生活魔法を授ける際に私とゼリミアナのパスが強く繋がったらしい。
転生の時に魂を認識していたのもあり呼び出す事が出来たそうだ。
次回からも神像に祈りを捧げれば来れるそうで月に一度はやってくる事を約束させられた。
月に一度の授乳プレイが約束されたともいう。
「バイバイ、アイちゃん。ママはアイちゃんの事を愛してるわ」
「うん。私も愛してるよ、ゼリミアナお母様。さようなら。また来るね」
感動かもしれない抱擁を交わす私とゼリミアナ。
ここでもゼリミアナはキス魔となり私は顔中に落とされる。
それをされていると段々と視界が白くなっていく。
どうやら現世に帰るようだ。
…別れの際の視界がゼリミアナのキス顔しか写さない…、しかも乱発で長いよ。
何ともいえない感情になってしまうね…。
その段階になってゼリミアナが気になる事を言ってきた。
「あっ、言い忘れてた。アイちゃんには特別に結界魔法と影魔法をあげたからね。便利だからいっぱい練習するのよ。他にもくれた子がいるわ。一部はもう便利に使ってるわね」
「え!ちょ、ゼリ…」
視界が完全に白くなりまた私の意識は落ちた。
――――――――――
気が付くとゼリミアナの像の前で跪いた状態のままだった。
周りの状況を探ると時間は経過していないように思える。
あの衝撃的で濃厚な時間が反映されてないのに若干混乱するが、外に出ないよう取り繕う。
「いや〜、ゼリミアナに会っておっぱい吸ってきたんだ」なんて口が裂けても言えない。
下手に伝えればルルとナナまで授乳プレイをしだすかもしれない。
もう、色んな意味でお腹いっぱいなのだ。
げっぷぅ…、失礼。
「終わったな。…問題ない」
「そうみたいだね。これで生活魔法が使えるようになったよ、アイ」
「おめでとう!アイ!!お姉ちゃんと同じね!」
「アイ。使ってみて」
お礼を返しているとナナに生活魔法を使ってみようと言われる。
ついにこの時がきたらしい。
生活魔法はゼリミアナが人類の発展のために与えたもの。
今よりも昔の事だ。
まだ、人類が魔物にとって餌でしかなかった時代に生活魔法は非常に役立った。
簡単に火を起こせるため加熱による食料の幅を広げた。
飲料水を出せるため移動距離の増加をもたらした。
暑い時期に風を起こせる事で熱への対策もできた。
体を清潔に保てる事で病気にかかる律がぐんと減った。
そして光により夜の闇に怯える事がなくなった。
生活魔法の発動は簡単だ。
起動言語を唱えると自動で魔力を体から捻出してくれる。
これに技術は必要としない。
その代わり規模の大小、持続時間のコントロールは出来ない。
薪に火を付けるファイアならロウソクの火程度を5秒。
そよ風を起こすウィンドなら扇風機の弱程度を1時間。
飲料水を出すウォーターなら蛇口を軽く捻った程度の勢いで1l。
クリーンに関しては対象者の体全体もしくは1m四方の空間。
灯りを付けるライトなら蛍光灯の光程度を6時間。
また、生活魔法を消す際はそれを念じるだけでよい。
それでは…。
「ライト」
両手を胸の前で包み込むように構える。
ドキドキしながら発動句を唱えた。
私の前に光が現れた。
私は生活魔法を使ったのだ。
――――――――――
「生活魔法は使ってもいいけど魔法はまだだめだよ」
「7歳になってからお勉強しようね。お姉ちゃんが先生になるわ!」
「なる」
「ははは、うん、いい先生が出来たね」
生活魔法と魔法は明確に違う。
魔法は殺傷能力を持つものだ。
魔法は使い型を間違えれば他人だけでなく自分自身でさえも傷付ける。
生活魔法に使用者の技術は不要だが、魔法はそうではない。
というのも魔法のコントロールには魔力量、親和性の多寡は左右されない。
親和性の多寡は「広げられる手の幅が大きくなる」が近いだろうか。
より高難度の魔法を放つ事が出来るようになるだけだ。
操作に関しては魔法に対する深い理解と揺らがない精神力が必要となる。
要するに魔法は学問である。
子供にそれは難しく、簡単に与えるのは躊躇される。
そのため「7歳から」という規定をキッドマン家では設けている。
「後2年間は精神統一のやり方を覚えよう。瞑想だね。これは死ぬその時まで高める重要な要素なんだよ。森に潜っている時だって常に冷静でいないといけないんだからね。なかなか難しい事だよ」
「お姉ちゃんも毎日してるの!」
「今日からアイもやる。一緒に」
「それいいわね!!」
ナナの提案にルルが賛成の声をあげる。
私も2人と共に出来るなら喜ばしい。
「ならば家族全員でやろう」と朝練前に集まる事になった。
瞑想は基本でありながらも最も重要な要素らしい。
精神を平然に保たなければ魔法は発動せず最悪暴発する。
また、威力の安定性をも左右もする。
発動時の使用魔力量は焦って集中が雑だと平時よりも多く持っていかれる。
足らなくて想定よりも小さい結果になる事もある。
ばらつきが生じてしまうのだ。
戦闘時にこれが起こればそれは死を意味する。
…魔法使いが一生付き合っていくというのも納得するや。
瞑想のやり方は身体強化と似かよっているらしい。
体全体に散っている魔力を認識して指向性を持って血流に沿うように必要箇所に流し集める。
これに習熟してくると武器を体の一部と認識して魔力を這わせる事が出来る。
これが身体強化だ。
瞑想はこれを完全に体外で行うという。
生活魔法を授かる事で初めて大規模な体外放出が可能となるらしい。
自身の周りの空間に魔力を広げ流れを生む。
そしてまた自分の内に戻していく。
瞑想を通して体外に魔力を放つ感覚を鋭敏にするのだ。
魔力の放つ量、タイミング、速度の調整をする事を目的としている。
「アイは魔力が見える。すぐ上達するかも。…負けない」
「そうね!お姉ちゃんの意地を見せないと!!」
「それは大変だ。僕も負けないようにしないとね」
「私もルルお姉様、ナナお姉様に追いつけるように頑張るよ」
一旦話が終結を迎えたところでちょうどよくクリスが戻ってきた。
使用した道具類を片付けていたのだ。
「帰ろう。ほら」
クリスが手を繋いでくる。
息子とするのが夢だったらしい。
「ははは。じゃあ、兄さんも来た事だし戻ろうか。反対は僕がもらおうかな」
余った方はルーズベルトが握る。
ルルとナナは「今日だけだからね」「次はナナの番」と譲ったみたいだ。
ちょっとした事だが、その優しさが本質を表している。
そんなルルとナナの弟で嬉しいよ。
――――――――――
屋敷に戻ると再びペカーと光らせた。
その場にいなかったルリシャナにシルビア、リリーとリーナが口々に祝福してくれる。
先程は私も興奮していたので何ともなかったが、時間が経つとこの程度の事でここまでされるのは恥ずかしいな。
リリーが「ウォーターも使っていただけませんこと?」と言うので差し出されたコップに出してあげる。
自分の手のひらから水が出る光景に軽く驚く。
また、興奮がぶり返してきたみたいだ。
だが、一瞬でそれは冷めさせられた。
「アイシャ様汁ですわー!!ん〜!とってもおいしいですの!!」
「な!?」
リリーは私が出した水に命名すると一気に飲み干した。
流石に引いた。
これは流石に気持ち悪い。
…ねぇ、飲むなら普通に飲んでほしいよ…。
それならば「便利だな〜」で済んだものを何故言葉にする。
「ん?え?…まさか…」
肩をちょんちょんと軽く叩かれる。
振り向くとコップを持ったルルとナナがいた。
あっ、シルビアもいるんだね。
「アイ。お姉ちゃんもほしいわ」
「飲む」
「ご主人様、おわかり、ですよね?」
…なんなのだろうかこの流れは…。
一応、リリーにも出した手前出すけどさ…。
リリーはリーナとクリスに少し説教されていた。
「生き急ぎ過ぎだ、もっと時間をかけ、麻痺させろ」との事。
そういう事ではないと思うが…。
――――――――――
貴族のパーティーは華美なものと相場が決まっている。
私の中で決まっている。
バカみたいにでかいシャンデリアの下にバカみたいな量の料理が並ぶのだ。
「それ全部食べれるの?腐らない?」と思う程の。
そして不気味な笑顔をたたえた目の笑ってない男女が並び何故かダンスをする。
よく、余り知らない人とダンスが出来るなと思う。
これが私の思う貴族のパーティーだ。
うん、違った。
教会に続きまた違ったや。
キッドマン家は質実剛健だ。
「生き死にを賭けている領軍。それを支えている領民への還元を第一にしている」との事。
それが回り回って一番利益になるという。
そのため無駄にきらびやかに飾り付けする事。
見栄をはる事を良しとしない。
それに加えてパーティー等はその力関係から「呼ぶのではなく呼ばせる」のだ。
これらの理由からキッドマン領でパーティーを開く事はほとんどない。
祝儀などは領軍に料理や酒の差し入れ他受勲をする程度しかない。
つまるところパーティーはものすごく質素だった。
参加者も家族と親族しかいない。
普通の食事会だね。
…でも、気疲れしないからこっちの方がいいかな。
シャンデリアはそのものの値段が高いし維持費がバカにならないらしいのでなかった。
部屋の規模に合う照明魔道具だった。
まあ、魔道具はそれなりの値段がするらしいけど。
料理はすごく美味しい。
超美味しい。
こんなにも美味しい魔物肉があるのかと驚いた。
だが、量は各人が食べられるのみだ。
「普段の食事より少し多いかな〜」くらいのものだ。
「これじゃないんだよな〜」とも思う。
だけどもこれも「うちらしさ」というやつなのか。
らしさ、か…、いいね。
想像とは違ったが笑顔が溢れたいいパーティーだった。
ありがとうございました。
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