9-冒険者

「やっと落ち着いて話ができるな。ルル、ナナ、久しぶりだな。1年ぶりか?子供の成長は早い。それに前と比べて魔力量がかなり多くなった。無駄も減ったな」

「はい。お久しぶりです、リーナ伯母様。私もお会い出来て嬉しいです」

「お久しぶりです。ありがとうございます」


 ルルとナナが貴族令嬢としての礼をとる。

 先程の興奮していた姿もそうだが、普段との落差に驚く。

 こうして見ると「ちゃんと貴族としての教育を受けているのだな」と感心してしまう。


 いつもの「私を構ってくれる姿」も好きだが、今回の「凛とした立ち姿」も好きだ。


 好きになった。


 私自身も午後からは教養として種々の勉強をしている。

 前世の経験から「簡単だろう」と思ったが、これがなかなか大変だ。

 というのも前世の記憶に引っ張られてしまうのだ。

 貴族としてのあり方に慣れない部分が多く一瞬まごついてしまう。

 それでも「この年では考えられない程優秀だ」との評価は頂いている。

 だが、大人の精神ではより上を目標にしてしまうのは仕方がない。


「そんな畏まらないでほしいな。以前のように砕けた感じで構わないさ。なあ、シャナ姉さん?別にいいだろう?」

「ああ。親戚でかつかなり近い関係だからな。もちろんの話だが、公の場では改めてもらう。リリーも私に対して同じで構わない。ほら、シャナおばさんだ」

「じゃあ!そうする!!会いたかったわ!!リーナ伯母様!!」

「ん。私も」


 リーナとルリシャナにそう言われればすぐさま態度を改めるルルとナナ。

 二人は飛びつくようにしてリーナに抱きついた。

 そして左右の膝にそれぞれが乗っかる。

 リーナは抱きしめ返し「はは。重くなったな。いや、レディに対し失礼だったか」と嬉しげに言う。

 それを見たルリシャナは「ならば私も!」とリリーに対し両腕を広げる、が…。

 しかし「恥ずかしいですわ、シャナ伯母様。もうそんな年ではありませんの」と断られてしまった。


 行き先を失った両腕は小さく揺れた後悲しげに私を抱きしめた。


 気の済むまでお好きにどうぞ。


 私は嬉しいから、ね。



 ――――――――――


「今回兄さんは来れなかったんだね」

「私が王都から戻ると同時にこちらに向かう手はずだったのだがな。トラブルが合ってね。今は砦で待機している。クリスも「また」と言っていたよ」

「えぇ…、それだけかい?まったく…。兄さんらしいね…」


 リーナがルーズベルトにそう返しルーズベルトが「仕様がない」と苦笑して首を振る。

 なる程、リリーを見た時に既視感があると感じたが、父親が兄弟同士だったらしい。

 どうやらリリーは父親似であり私と色合いが似ているのも当然だったようだ。


 私は話題に出た「砦」について聞いてみる。

 リーナは大森林ジュマとの堺にある「城塞都市グルダ」の総指揮官だそうだ。

 代官の立場でありキッドマン家が授爵権を持つ伯爵位を授かっているらしい。


 城塞都市グルダは魔物との前線に最も近い後方支援地域である。

 こちらで食料、武器、薬品を纏めて前線へと持って行くらしい。

 そして前線からの収穫品を纏め、後方であるキッドマン領「領都リーベル」へと運ぶ。

 領軍の待機所兼訓練所を備え、その他必要物資の保管庫、武器類修繕のための小規模な鍛冶場、慰安所、魔物物資の一時預かり所を構えている。

 それらの運営を行う人間がほとんどであり人口は1.5万人程だ。

 城塞都市グルダは悪魔でも軍事拠点である。

 商いや契約に関しては領都リーベルが大元だそうだ。

 前線崩壊時の戦地を受け持つために横に広く伸びておりその領地自体は非常に広大だという。


 私が「お父様、兄さんって?」と疑問を投げかけると「アイはまだ直接会った事はなかったね」とルーズベルトが言う。


「私の兄さんは「クリス」といってね。カタリナ殿の配偶者なんだ。キッドマン家と私の家は昔から付き合いがあってそのまま結婚したんだよ」

「ベルトもクリス殿も兄弟で魔法使いでな。兄弟で魔法使いというのはほぼ奇跡に近いんだ。「それを領主一家とはいえ専有するのは横暴だ!」と外野が煩かった。黙らせたがな」

「あぁ…、あの時は大変だったな…。シャナ姉さんが暴れすぎてね」

「フンッ。人の恋路をつまらない事で邪魔したのだ。当然の報いさ。それにリーナもそう変わらなかっただろう?」


 リーナが「懐かしいな」と語る。

 ルリシャナは「面倒だった」と苦い顔をした。

「あれは僕達も大変だったよ。まあ、ほとんど君たちがやってくれたけど」とルーズベルトも苦笑した。

 両親にも色々と歴史があるようだ。

 ルルとナナ、リリーは「聞きたい!」とせがむ。

 しかしながら「親の恋愛話は勘弁してほしい」と思うのは私が男性であるからだろうか。

 実際、本人達も気恥ずかしいのか「また、今度な」と流されてしまった。


 おそらく「今度」はないのだろう。


 話は「トラブル」に移る。


「下層から一体でかいのが出てきてな。討伐はその日の内に終わり幸い死者は出なかった。が、領軍軍備に被害が出た。彼は今その後始末に奔走している訳だよ」

「ふむ。下層程度でか…。もしや冒険者がやらかしたか?」

「そのとおりさ、シャナ姉さん。…あろう事かこちらに擦り付けてきて、な。新顔だったらしく実力もないのに下手に手を出したんだと。…ふざけた輩さ」


 ルリシャナの目が細まる。

 それに対しリーナは首すくめて答えた。


「ちゃんと「ツケ」は払わせたさ。安心してくれ、シャナ姉さん」

「ならばいい。上下関係は徹底させろ。ここでは我らがいるからこそ安定的な活動が出来る事を忘れさせるな。我らだけで足りる。そのところを冒険者ギルドに「わざわざ」仕事を与えているのだぞ」

「わかってますよ。お館様の仰せのとおりに」


 冗談めかしているが、リーナの目は笑っていない。

 どうやら相当頭にきていたようだ。


 話が纏まった所でそろそろいいだろうか?


 冒険者って!!


 もしやファンタジー定番のあれだろうか!?



 ――――――――――


「お母様。冒険者とは何?」

「ん?アイは知らなかったか。ああ、冒険者とはな…」

「シャナ伯母様。よろしければわたくしが説明してもよろしいかしら?」

「リリーがか?うむ、別にいいぞ。アイに教えてやってくれ」

「承りましたわ。アイシャ様、冒険者というのはですわね…」


 リリーがフンスッ!と力を込めて説明しだす。

 前のめりとなりかなり食い気味だ。

 その光景に私は苦笑しながら「お願いね、リリー」と返す。

 リリーは「もちろんですわ!!」と嬉々として話始めた。


 冒険者とは「魔物退治の専門家」だそうだ。

 キッドマン家の兵は大森林ジュマが近い事もあり異なる。

 が、通常、領軍は「対人」を想定している。

 町の警備、盗賊が出ないよう各村の巡回、犯罪者の捕縛等だ。

 そして冒険者は人里離れた未開発領域に踏み入り魔物の討伐を行う。

 魔物の素材を得、換金する事でその生活を営んでいる。

 また、商人や各ギルドからの「依頼」を受ける事もある。

 特定の魔物素材もそうだが、魔物領域にある鉱石や薬草を採取してもらうためだ。


 冒険者には「ランク制度」というものがあり上からS、A、B、C、D、E、Fと続く。

 Sランクは今現在この国にたった5人しかおらずかなり高い壁であるという。

 A、Bは上級者でありC、Dは一人前から半人前の間、E、Fは駆け出しと言われている。


 これらの活動は魔力の低いただ人には難しい事だ。

「命をベット」しているために稼げる者はかなりの額を挙げるそうだが。

 だが、それは上級者から一部のDランクまででありその下はその日暮らしとの事。

 命を落とすのも日常茶飯事らしい。

 下の生活は悲惨だとリリーは言う。

 しかしながら、物語に謳われるような「英雄」を夢見る者。

 実力を示し「貴族に雇われる事」や「準貴族」に成る事を目指す者。

 単純に「それしか道が無い者」達で常に後続は絶えないみたいだ。


 国も優秀な冒険者によって魔物素材やそれに伴う税金を収めてもらう。

 そのために出身は問わないとしている。

 また、必要な人材が必要箇所に配属出来るよう領民としての居住地の強制はしていない。

 旅人としての領地を跨いだ移動を認可している。

 これは必要処置ではあるが、冒険者にとって魅力の無い土地の領主にはいい気分ではない。

 時々、領主と冒険者間で「いざこざ」が起きるらしい。

 まあ、その時はとっととその領地を出て別に行くだけなので大事にはならないのが通常らしい。


 いざこざの部分はぼかされたが、きっと醜いのだろうな。

「人」なんてそんなもんだからね。


 冒険者をサポートし管理するのが冒険者ギルドである。

 そして取引に対する「仲立ち」を担っている組織だ。

 また、活動域の領主との「折衝の代表」でもありその立ち位置はなかなか高いという。

 領主は冒険者ギルドを無下には出来ない。

 冒険者ギルドはその領に対し冒険者が問題を起こさないよう監視している。

 お互いがお互いに得をするよう、また、不正が無いように監視し合う間柄らしい。


 必要措置ではあるけどこれは面倒事の匂いだね。


 ところどころでルルとナナが口を挟もうとしたが、リリーからの「今はわたくしのターンですの!アイシャ様からの「好感度」を稼がないといけないのですから!譲ってくださいまし!!」と言う声により押し黙った。


 リリーはなかなか愉快な性格のようだね。

 そしてやはり口が軽いみたい。


 そんなリリーを、私は表情をやわらげて見ていた。

 裏表のないリリーは…。


 素敵だね。


「ありがとう、リリー。とてもわかりやすかったよ」

「アイシャ様のお役に立ててわたくしも嬉しいですわ!」


「ポイントゲットですの!」と喜ぶリリー。


 …声に出すところが残念だが、可愛いらしいところでもあるな。


 リリーとリーナはこれから1月程の期間この館に滞在するらしい。

 昼食を終えると私とルル、ナナは勉強にリリーは宿泊する部屋へ荷物を整理しに解散した。


 いや、「解散させられた」の方が正しいな。


 どうやら「大人達の時間」らしい。

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