2.優しい夢を
3-産声をあげる
…ここはどこだ…。
たしかゼリミアナと話した後ウラタトリスクへと転生したと聞いたが…。
「ぁんうぁー!んんぎゃぁーー!わぅぎゃぁーー!!」
「おめでとうございます、お館様!元気な男の子ですよ!」
「あぁ…、…本当に…。本当に良かったよ。ありがとう。ありがとう生まれてきてくれて」
誰か女性の話し声が聞こえる。
それと同時に私の体が抱き上げられた。
優しい手付きだ。
これは一体…。
視界の利かない中でまどろみが強くなっていく。
その中でやけに大きく私の耳に聞こえるそれ。
その柔らかい響きを受け私の体が告げる。
「私が大好きになる人だ」と。
「そうであってほしい」と。
そんなの私は信じられない。
「ありがとう、アイシャ。生まれて来てくれて」
その女性は優しく私に囁いた。
――――――――――
意識の覚醒と睡眠を繰り返す。
まどろみの中に私は沈み込む。
その間に誰かが私に食事を与える。
また、排泄物の処理をしてくれた。
申し訳なかったが、体のいう事が利かず仕方がなかった。
…まるで無償の愛だな。
ははっ、そんなもの存在しないさ。
有るならば何故…。
眠りによって途切れる。
覚醒の間隔が段々と長くなっていく。
次第に自身の周りの状況を理解していく。
どうやら私は無事に転生したらしい。
その証拠に体がえらく縮んでいる。
まるで赤子、いや、確かに赤子だ。
――――――――――
アイシャ・リーベル・フォン・キッドマン
それが今生での私の名だ。
まだ慣れない。
キッドマン家の長男であり第3子である。
大きく、しっかりとした造りの部屋より裕福であろう事が伺える。
長男となれば家の相続問題にかち合う事になるのかな?
などと思っていたが、どうやらそんな事はないらしい。
なぜなら…。
「アイ!!母さんが来たぞ!いい子でいたかな!ほら、食事の時間だ!」
ドンっ!と勢いよくドアが開けられる。
そこからなんとも威勢のいい女性が現れた。
ルリシャナ・リーベル・フォン・キッドマン
私の今生の母になる。
ルリシャナは燃え上がるような赤い瞳と同色の赤毛を持つ。
肩甲骨の辺りまで伸ばした髪は若干くせ毛だ。
それが真ん中で分けられ左右に緩く流している。
褐色肌であり豪華な美女という風体だ。
地球で言えばラテン系に近いだろうか?
鋭い目付きをしており一見近寄り難い雰囲気を感じる。
だが、私を見つめる瞳はクシャッと曲げられられ安心感を抱かせた。
安心してしまった。
何故?
そう思いたいのか?
…疑え。
それこそどうして?
ルリシャナは軍服に似た華美ではないが立派な造りをした衣服を着ている。
そしてそれを大きく押し上げる胸を躊躇する事なくさらけ出した。
私を壊れ物を扱うように丁寧に抱き上げそれを含ませてくれる。
私にこの状況による気恥ずかしさは一切ない。
赤ん坊の本能なのだろうか?
食事を与えてくれるルリシャナになんともしれない暖かい気持ちを抱くのみだ。
そんな気持ちが悪い事を私が感じるなどありえない。
「お館様。たとえ同性といえど従者がいる前で胸をはだけさせるなど…。破廉恥ですよ」
食事に夢中になっていた私の耳朶にもう一人の声が聞こえる。
咎めるような声を上げたまだ幼さの残る彼女。
シルビア
シルビアはブロンドの髪をショートボブにし綺麗に纏めている。
瞳は空色であり見つめていると吸い込まれそうな気がした。
雰囲気からは冷静沈着というイメージが似合う。
白い雪のような肌が淡いピンクの頬と柔らかそうな唇に対比して美しい。
まだあどけなさの残る顔立ちだが、将来とびっきりの美女となる片鱗を覗かせている。
シルビアはキッドマン家の使用人であり私の護衛兼側仕えである。
護衛を兼ねるからだろうか前世のメイド服のような物のではない。
ルリシャナと同じような軍服チックな服装である。
ちなみに二人共パンツルックだ。
シルビアは孤児だ。
両親がキッドマン家に使える関係だった事。
年齢が8歳と私に近く将来を考えた結果、早い段階から側に置こうとされたらしいとみる。
シルビアの両親はキッドマン家によく尽くしてくれていたらしい。
その恩義に報いるために領主の第3子という私の立場を利用したという側面もあるのだろう。
そんなシルビアは無表情にルリシャナの行動を諌める。
従者が主人に対し言葉を告げる事の出来る環境は健全なのだろう。
実際、ルリシャナもこの関係を嬉しく思っているのか、シルビアと話す時は声の調子がワントーン上がる。
…別の感情が含まれているのもあるだろうが。
そんな関係性が羨ましい。
妬ましい。
…私は別にほしくはない。
ほしくないともさ。
私はこの世界の言語の多くをシルビアから教わった。
私の意識のある際、私の家族の事、子守唄、それから単純に物の名称を教えてくれた。
そこから母であるルリシャナがキッドマン家の当主である事を知った。
つまり少なく見積もってもこの領地では女性当主があり得る事。
ならば第3子の私が当主となる事はないのだろう。
まだ少ししか経ってないが、周りの扱いからもそれが伺える。
無下に扱われている訳ではないが、次期当主としてことさらに慎重にされている感じがしない。
「シルビアの事は今のアイと同じような時から知ってるんだぞ。別に構いやしないさ」
「私が構います。はぁ…、扉の前で待機してますので終わりましたらお呼び下さい。お館様はまだ日中のお仕事がおありなのですから、くれぐれも、アイシャ様とお遊びなされないようにしてください」
「失礼します」と礼を告げシルビアは出ていった。
それをルリシャナは面白おかしそうに見送った。
「まったく。口うるさいところはあれの親にそっくりだな。アイも将来きっと苦労するぞ。うんん?」
どこか懐かしそうに目を細め私に囁く。
その瞳の中には嬉しさと侘びしさが同居していた。
それを取り除いてあげたい。
…どうしてそう思う。
私は…。
――――――――――
「ではな」と私の額に一つどころか何回も口付けを落としてルリシャナは去っていった。
当然、今は私とシルビアの二人きりとなる。
するとシルビアはそっと私へと近寄ってき、まだ成長途中の小さな胸をさらけ出した。
胸を出した。
…始まってしまったな。
「さあ、ご主人様。まだお腹が空いているでしょう?おっぱいですよ〜」
先程までの無表情を崩しだらしのない笑みで告げる。
そうシルビアはこんななのだ。
普段は無表情で澄ました風を装っている。
が、私と二人きりとなり他にする事がなくなると途端に崩れる。
私に対して甘々のグズグズになる。
だが、当初はそんな事はなかった。
卒なく仕事をこなし精力的に私に尽くしてくれた。
ルリシャナが先程のように目の前で授乳し始めた時からおかしくなった。
何でやろか…。
――――――――――
ある日シルビアがルリシャナが去った後か。
ソワソワとしだし落ち着きがなくなったのだ。
その様子に「トイレにでも行きたいのか?」と思っているとシルビアは突然胸元をさらけ出したのだ。
すわ!ご乱心か!!
何やってんねんな!!
などと思っていると私の顔にそれをあてがってきた。
…この少女、シルビアは何をしたいのだろうか?
え?飲めって事?
流石に含みはしなかった。
私は別に、性癖でルリシャナの乳を吸っているのではない。
赤子の本能として生きる糧として吸っている。
齢8つでまだ膨らんでもいない胸を差し出されても困る。
「出ないだろうにその胸で何をしろ?」と。
「もし吸えばそれはプレイだよ、シルビア」と。
そんな事を私がするはずないだろう。
あの時は逆らえなかったが、今は違う。
…そんなのは知らない。
私がそのまま何もせずにいるとシルビアは残念そうに服を整えていった。
私は「なんとかなったか…」と胸を撫で下ろした。
この時は、な。
シルビアは諦めなかった。
決して諦めなかったのだ。
その努力を別の方向に向けてくれと思う程だった。
シルビアはつぶさに私の行動を観察し続け自らの乳が拒否されないタイミングを探した。
「何をそんなにも情熱を燃やしているのだ」と呆れたが、まだ言葉を発せない私には止めようがない。
「うっ、うっ!」と伝えたが、何が嬉しいのかにへらと顔を歪ませるだけだった。
喜んでほしくてやっているのではないのに…。
そしてその時は訪れたのだ。
訪れてしまったのだ。
ルリシャナが授乳し終わった後直ぐの段階の事だ。
まだ体が口寂しいのか私が自身の親指をしゃぶっている事をシルビアは見逃さなかった。
シルビアは「今なら行ける!」と思ったのかバッと胸を晒し私に近づける。
理性で抵抗しようとしたが、体の本能には勝てなかったよ…。
何て気分の下がる事をしているんだ…。
本当に最悪だよ。
私は吸った。
一切出もしないそれを吸ってしまった。
一生懸命に吸い続ける私と満面の笑みを浮かべるシルビア。
なんの絵なんだと思うが体は止められない。
シルビアは勝利の涙を流しながら身を震わせていた。
私は負け、シルビアは勝ったのだ。
そしてそれは今、当時よりいくらか経ったこの瞬間も起きている。
――――――――――
そう、シルビアが先程ルリシャナに早く仕事に戻るように言ったのは本来の意味もある。
が、それ以外にも時間が経ち私が乳に興味を示さなくなる事態を避けるためでもあるのだ。
それにより私の心は羞恥に染まるが、体は乳をよこせとせがむ。
そしてシルビアは全身で喜ぶ。
シルビアは私に告げる。
「ご主人様〜、おっぱいおいしいですか〜。いっぱい飲んでくださいね〜。そして大きくなったら本当に私のおっぱいを出るようにしてください〜。また飲んでくださいね〜」
何かが頭をもたげようするが、私はそれを押し込める。
「もういいいのだ」と「次に進もう」と言い聞かせる。
「私が言い聞かせている」のか「私が言い聞かされている」のか。
どうでもいいんだよそんな事。
シルビアはそんな思いで私に接していない。
なら、いいじゃないか…。
何が?
…とりあえず吸うか。
嬉しそうにシルビアは私に言っている。
この時々ポンコツは赤子相手に何を言っているのだ。
だが、恐ろしいのはそれが将来本当に実現しそうだという事か。
この行動は私とシルビアの二人だけの秘密ではない。
ルリシャナも知っている。
――――――――――
何度かシルビアが授乳プレイをした時だろうか。
私はドアが少し開いている事に気づいた。
そしてそこから鋭い目付きの燃え上がる赤い目が覗いている事を見てしまった。
バレてるー!!バレてます!シルビアさん!!
思わず私が口を離せば「あんっ!」と声をあげるシルビア。
その声で一瞬で冷静になる私。
頭を冷やすやり方に疑問を持つのはよそうではないか。
…おかしいな。
何故ルリシャナはこの状況で踏み込んでこない?
そして何故どこか面白そうに口を歪ませている?
まるで上手くいったかのような…。
はたっと思い至る。
「将来の布石を考え近しい年の者を側仕えとして宛がう」と。
だとしてもたった8歳の娘を一人だけで寄越すだろうか?
仕事を十分にこなしているとはいえもう何人か集めるはずでは?
ルリシャナは深く私を愛してくれているしそうするのが自然じゃないか?
そして男性と女性という性差。
つまりそういう事だろう。
側近兼妻候補という事だろう。
いや、もう内定しているかもしれない。
だって今も楽しそうにドアの隙間からこちらを覗いているから。
なんだか嬉しそうですね、ルリシャナさん。
シルビアが奥さんか…。
嫌な気持ちはない…、な。
私はシルビアを…。
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