1.偽りの理由

1-そして私はここに来た

 ザーー!!ップン。


 数秒程か砂嵐が走り、私の意識は復活した。

 そこには確かな充足感と少しの哀しみ。


 喜びは私でそちらは…、誰だろうか?

 いや、まずはこの予想外に対応すべきだろう。


「死んでしまえば、全て終わると思っていたんだけどな…」


 どうやら違ったらしい。

 何もない、上下すら曖昧な空間に私の声が溶けていく。

 普通このような状況に陥れば誰でも、大なり小なり混乱すると思う。

 だが、私にはそんな事どうでも良かった。


 ただ、早く終わってほしかった。


 早く、私を終わらせてほしかった。



 ――――――――――


 惨めだ。

 惨めでたまらない。

 消えてしまいたい。


 時間があるとその考えが私を支配していく。

 これから開放されるにはただ眠り、意識を手放してしまう事。

 もしくは意識が混濁する程に酒を飲み干す事しかない。


 私はたいてい後者を選択していたはずだ。

 なぜなら近頃睡眠障害に悩まされていたから。

 眠れないのではない。

 眠るとあの時の記憶が私に襲いかかりうなされてしまうから。

 真夜中にいきなり叫び声をあげ飛び起き、涙が止まらなくなるから。


 そんな自分すら情けなくて仕方なかった。


 だから酒を飲むんだ。

 味など気にしない。

 強く、喉を焼き、安いければなお良い。

 それだけを求めたんだ。


 注ぐ、飲む。

 飲み干すとまた注ぎ、飲む。

 その繰り返しだ。

 肴などいらない。

 楽しく飲むためにしている行為ではないから。

 ただ酔えて私という存在を忘れさせてくれればいい。


 それでよかった。


 酔った後の眠りは私を安心させた。

 何も見ないですむ。

 最初はそれこそなれない酒による二日酔いで酷い目にあった。

 けれど何度も回数を重ねれば慣れた。


 慣れたというより感覚が麻痺したの方が正しいのかな…。


 ただ、その状況にも慣れがやってくる。

 いつもの酒の量では酔わなくなってきたのだ。


 だからもっと飲む。

 もっともっと飲む。

 忘れさせてくれるまで。

 いつもの何も感じない感覚がやってくるまで。


 いつの間にか部屋には酒瓶や缶が散乱するようになった。

 少しずつ片付けていたが、飲み干す量がそれを上回っていき面倒になったからだ。


 それにそんな惨状すらどうでも良かった。

 何もかもがどうでもよかった。


 私は弱く、落ちるところまで落ちた。


 そのはずだ。



 ――――――――――


「お待たせしてしまい、大変申し訳ありません。前川 愛さん」


 静かで凪いだ海のような、それでいて凛と響く声が聞こえた。

 声が聞こえた方向に私は目を向ける。

 するとそこにはまるで今現れたかのように女が立っていた。


 別に、ノスタルジックに悲観していた訳ではない。

 悲観する時間などここに来る前に十分にあった。


 それこそおとぎ話を作るくらいには。


 だから何か変化はないかとそれとなく周りを見渡していたはずだ。

 しかし、その女は私が目を離し、再びそこに目を向けるとここいたのだ。

 …この空間の異質さを思えば答えは自然と導かれるだろう。

 まあ、私の頭がイカれてなければだが。


「…あなたは神。もしくはそれに近しい存在でしょうか?」


 私は酒に焼け、酷くしわがれた年齢にそぐわない声で問いかける。

 だが、実際には自分でも驚く程の綺麗な声が出た。

 

 彼女はその私の驚愕に少し切ない表情をする。


 そして「はい」と答えて微笑んだ。



 ――――――――――


「愛さんとお呼びしても?」

「え、ええ。構いませんよ。えっと、私はあなたを何とお呼びすればよろしいでしょうか?」


 彼女はうーんと首をかしげ、顎に手を添えながら少し悩んだ声音をあげる。

 …何か私には告げられない理由でもあるのだろうか?


「…あの…、別に、無理にという訳では…」

「え?…ああ、教えられないという訳ではありませんよ。ただ…、私の名は人には判別出来ないのです」


 試しにと彼女が自身の名を告げれば確かに私には聞き取れない。

 まるで酷いノイズを混ぜたスピーカー越しのように声が聞こえるのだ。

 これは私と彼女の存在の位置が違うためらしい。

 まあ、それが事実かどうかは私にはわからないが。


 …神が人ごときにその名を告げはしないという事かな…。

 それの理由付けのために演技をしている点もある…、か。


 いや、そんな事どうでもいいか。

 とっとと終わらせろ。

 こんなクソみたいな時間を取るな。


 神ごときが。


 私はそんな心などおくびにも出さない。

 仮面を付ける事には慣れている。

 慣れざるを得なかった。


「どうやらそのようですね。では、ただ、神様とお呼びいたしましょうか?」


 そう私が答えれば彼女は眉根を寄せる。

 私の提案に思い悩んでいる様子。

 どうしたのだろうか?

 本当に神だというのなら人の子など気にしないだろうに。

 人だって他人の事など気にしないのだから。


 自らの欲望さえ満たせればそれでよいのだから。

 

 だから私は…。


「それはそれで味気ないというか…。愛さんにはちゃんと名前で呼んでほしいというか…」


 彼女がひっそりと囁く。

 口をすぼめて何やらしょげている。

 しかし、声の通りが良すぎるせいかこちらにバッチリと届いているのだが。

 …どうやら私は気に入られているらしい。

 理由はわからない。


 この女気持ちが悪いな。


「…うん…、うん…、そうだわ!ええ!それがいいわ!!ではゼリミアナとお呼びくださいな!!」

「…承知いたしました。ではゼリミアナ様と」

「ふふ。そんな他人行儀にされないで。ただのゼリミアナでいいのです。むしろそのようにお呼びくだされば幸いです。真名を告げられない以上敬称の壁などなくしましょう」


 にこやかに彼女、ゼリミアナが私に告げる。

 本当に何故ここまで印象が良いのかわからない。

 別に、拒否してゼリミアナの機嫌を損ねるつもりはない。

 …ないが気になる事ではある。

 なら本人?本神?に聞くしかないか。

 相手の意図が掴めずバカを見たくなどない。


 もう懲り懲りなんだよ。


「ではゼリミアナと。その、何故、何故ゼリミアナはそれ程に私に親愛を向けてくださるのでしょうか?私とあなたではその、元々の格というのでしょか?それが違いますし。何より私達は初対面ではありませんか」


 そう私が問いかければゼリミアナはあいも変わらず優しげな笑みを私に向け答える。

 その笑みには物悲しさが含まれていた。


 その表情に私はどうしようもない苛立ちを覚える。

 その裏に一体何が隠されているというのだ。


 私をそんな!可哀想な者のように見るな!!


 だが、感情を抑える事は私にとって造作もないそれだ。

 今までだってやってきた事だから。


 だというのに私はゼリミアナの答えに耐えきれなかった。


「…簡単な事ですよ、愛さん。私はあなたを、愛さんの人生を見ていたからです。愛さんの一生をこの目で見ました」


 一瞬私は何を言われているのかわからなかった。

 そしてそれを理解し次に私に浮かんできたのは…。


 とてつもない、抑えきれない程の怒りだった。



 ――――――――――


「…見ていただと…。…私を…、私を見てお前は…、お前は笑っていたのか!!」


 醜い怒りが頭を覗かせそのまま吹き出してしまう。

 だが、すぐさま鎮火してしまった。

 そして恥、悲しみ、自己嫌悪へと変化していく。


 …何を偉そうに口を荒らげているのさ。

 私にはお似合いの形だろうがよ。

 何も生産性もない欠陥人間のくせに…。


「…申し訳ありません、ゼリミアナ様。大変失礼な事をいたしました。本当にすみませんでした」


 体を折るようにして私はゼリミアナに頭を下げた。

 すると彼女は急に私に怒鳴られ驚いていた顔を直ぐさま焦りへと変える。

 手をワタワタと振りながら勢いこんで言葉を紡いだ。


「そ、そんな!謝らないでください!愛さんの状況を理解していながら「見ていた」なんて言うのは思慮に欠く行為でした!こちらこそごめんなさい!!」


 そう言って頭を下げる。

 互いに下げあった形だ。

 互いにペコペコと譲らず、さりとてこちらから上げる訳にもいかない。

「どうしたものだろうか…」と私が考えていたところ、状況が動かない事に気づいたゼリミアナが頭を上げた。


「愛さん、もう一度謝罪を。本当にごめんなさい。ただ、私は愛さんを馬鹿にしようだとか笑おうだとかいう気持ちはありません。…信じてはくれませんか?」


 切実にゼリミアナが私に問いかける。

 ここまでされればゼリミアナの言葉が真実だというのは可能性が高いだろう。

 たとえ嘘だったとしてもどうでもいい事だが。

 騙される私が幼稚なだけだ。

 そんな事今更となっては本当にどうでもいい。

 ならばこそ意地を張る必要性はどこにもない。


「こちらこそすみません。はい、信じられます。ゼリミアナ様が私に対して侮蔑を抱いていない事は分かりました。私の勘違いを許してください」


 そう私が返答すればゼリミアナは再び最初の笑みを浮かべた。


「では仲直りという事ですね。もちろん「様」もとってくれますよね?」

「…ええ、ゼリミアナ」


 先程の事もあり少し気恥ずかしげに私が告げれば、ゼリミアナは満足げに頷いてくれた。


 このような態度を取れば人は大概水に流してくれる。

 私の処世術にゼリミアナは嵌っている。

 簡単に本心を明かすなど阿呆のする事だというのに。

 私がどれだけ搾取されたと思っているのか。

 本当に見たのか疑わしい。


 …私は醜い心根の人間だよ。


 そしてゼリミアナは話の続きを始めた。


「ええと…、見ていたと言いましたよね。あなたの生い立ち。赤ちゃんの頃から成熟し大人になるまでを。言い方が悪くなりますが…、そう。まるで映画のように鑑賞していたという事です」


「映画」の部分にどうしようもない既視感を覚える。

 だが、それを目の前の神を名乗る何かに気取られる訳にはいかない。

 だから私は努めて平然と流す。


「そうなのですか。信じがたい事ですが、神なら出来るのでしょうね」


 感心したようにしてゼリミアナに言う。


 いやはやなんとも超常的な存在だな。

 まるで詐欺師のようにこちらの心に響かせるものだ。

 恐らく、言っている事は事実なのだろうな。


 はは、化け物め。


「勝手に覗き見たのはごめんない。けれども仕方がなかったんです。愛さんの事を知るためにはそれが一番手っ取り早い方法でしたから」


 申し訳なさそうに告げるゼリミアナに「大丈夫ですよ」と手と首を振る。

 確かに少しいい気がしないでもあるが、それがゼリミアナの立場なのだろう。

 ならばことさら責立てる事でもない。

 もうすでに終わっている事であるし私の人生を見たところでつまらないだけだ。

「その時間を返せ!」と言われないだけマシだろう。


 そう、気持ちを整理していたところゼリミアナが緊張気味に私へと話しかけた。

 とても真剣な顔つきだ。

 ゼリミアナは乾いたのだろうか唇を湿らせる。

 私はその仕草にどうしようもない嫌悪感を抱く。

 同時に、吐き出される言葉の予想に対しても。


 …いやな予感がする。

 止めろ。

 その口を閉じろ。

 その言葉を言うな。

 私を憐れんだ目で見るな。

 現実を見せつけるな。


 私の虚構の仮面を!その裏を見るな!!


 私の中で感情が荒れ狂う。

 さりとて私には何故そこまで動揺するのかがわからないでいた。

 そしてゼリミアナが口を開いた。


「愛さん」

「…はい、何でしょうか?」


 ごくりと喉を鳴らす。

 体が緊張し冷や汗が出てくる。

 心臓は早鐘を打ったように激しくその鼓動を伝えてくる。


 一呼吸おきゼリミアナは私に言った。


「まだ、私の顔は見えていませんか?」


 …何だ。

 その事か。

 そんな事か。

 身構えて損をしたじゃないか。

 …。

 何故?

 いや、今はそんな事ではない。


 顔、か…。


 ああ、見えないよ。

 だからどうした。

 お前の顔など別に見たくもないさ。

 誰の顔も見たくはない。


 私にはゼリミアナの顔がまるで靄がかかったように伺いしれないでいた。


 ここで感情を爆発させろ、アイ。


 誰かが囁く。

 私はそれに付き従う。

 それが正しい事だから。


 …そうさ…、そうだよ!

 私は他人の顔がわからない欠陥人間なんだよ!!

 これでお前は満足か!ゼリミアナ!!


 あはは、上手くいったね、アイ。



 ――――――――――


 父と母を待っていた。

 たしか私が5歳の頃だったろうか。

 その日両親は「親戚が入院した」と聞きお見舞いに病院へと車で向かっていた。

 私はその時眠っていたらしい。

 書き置きに帰る時間と外出の理由が残されていた。

 私はその年にしては大人しく「一人で外に出ては行けない」と言われればそれを守るぐらいの行儀は出来ていた。


 そして両親は帰ってこなかった。


 焦った様子の祖父母が家に来た。

「ごめんね」と「おじいちゃんとおばあちゃんがいるからね」を繰り返す。

 何がなんだかわからなかったが、ただ恐ろしい事が起きたのは察せられた。

 私は寝かしつかられその後の事は知らなかったが、後日に教えられた。

「父の運転する車が信号無視をした車に追突され両親が共に死亡した」と。


 私は祖父母と暮らす事になった。

 祖父母は私を深く愛してくれた。

 ふさぎ込む私を根気強く相手にし立ち直らせてくれた。


 そしてそんな祖父母が死んだ。


 私が中学生の頃に祖父が死に、高校に入った年、後を追うように祖母が死んだ。

 私は葬儀の準備をしている時に久しぶりに両親の写真を見た。

 懐かしい気持ちが湧いてくる。

 私はあの時の辛い気持ちが嫌で、なかなか見れないでいた。

「懐かしいな」と思うと同時に私は写真に違和感を抱いた。


 …おかしい?

 いや、別に写真自体には変なところはないけど…。

 これは私の父と母だ、そのはずだ。

 間違いない。

 間違いないはずだ…。


「ああ、そうか」と納得する。

 記憶の中の父と母の顔が思い出せないでいた。


 その頃からだろうか人の顔に靄が掛かりだしたのは。


 という設定だったけ?うん?


 

 ――――――――――


 表情はわかる。

 笑っているだとか怒っているだとか。

 ただ、どんな顔をしているのかがわからない。

 私の記憶に残らないのだ。


 これは本当。


 だからこそ私は殊更愛想よくするようになった。

 自分が異常者だと知られたくなかったから。

 欠陥品だと思われたくなかったから。

 他者の特徴を覚え、気遣った。

 それなりに出来ていたと思う。


 だけどトラブルはやって来る。


 遠い親戚が口座の管理に口を出してきた。

「高校生一人にはお金の管理は出来ない」と言う。

 実際、それは事実なので弁護士と名乗る男を介して両親と祖父母の遺産は向こうに抑えられた。

 そして少なくない額が抜き取られた。


 大人の欲望をなにも知らない私にはどうする事も出来なかった。

 後に残ったのは私がバイトをしながら大学へ進学する程度のお金だけだった。

 頼れる人はいなかった。


 確かにいなかったね。


 いや、心配して声を掛けてくれる人はいたと思う。


 気持ちが悪い女共かな?


 …時々雑音が混ざるな。

 出ていけよ。

 今は追憶している時なんだ。


 その人は何度も私に声を掛け私の精神の最後の壁を守ってくれた。

 しかし、申し訳ないが私にとってその人を信頼する事は出来なかった。

 無知に人を信頼する事の恐怖が私を盲目にさせていた。

 皆敵に見えて仕方がなかったんだ。


 怖かったんだよ、人が。


 とてつもなく怖くて仕方がない。

 どうして私にあんな事をする。

 いくら「止めて!!」と言っても無駄だ。


 何の事だ?

 …続けよう。


 あの人のいい顔をしたおじさん、厚い真っ赤な口紅を塗ったおばさんと同じなのだろうが!!

 今度こそ私は全てを奪われるのだ!!

 もう思い出せない父と母、祖父母まで奪われるのだ!!

 敵だ!敵だ!皆敵だ!!

 信頼出来る人間などいるものか!!

 もうその人達は私を残して死んださ!!

 死んだんだよ!!


 本当に死んでしまえば良かった。

 全員死んでしまえば良かった。

 どうして私がつけを払う。

 私が何故…。


 何で私が死ななければならない?


 …私は大学を卒業し就職した。


 これが終わりの始まりだった。



 ――――――――――


 こいつには何をやってもいいだろう。

 私は上司にそう思われたらしい。

 笑顔でいて気さくで、困った事があれば手を貸してくれる。

 周りからの私の評価だった。

 そこに管理職の上司は目を付けたらしい。

 上と下とに挟まれストレスが溜まっていたらしい。


 私が少しミスをするとネチネチと嫌みを言ってくるようになった。

 先方のミスで出た不具合に何故か私が怒られるようになった。

 それを他の人の目のつく場所で行う。

 一部の先輩がそれを見、ならば自分もと体罰と言える行為を私にしてくるようになった。


 とっくに限界だったんだ。


 ただ、私は自分の限界がわからなかった。

 人の顔がわからない私にはこれは耐えなければならないものだと考えていたから。


 まだ頑張れるさ。

 耐えなければ、耐えなければならないんだ。

 私は欠陥品だから。

 異常なのだから。


 言い聞かせる。

 私は、私に言い聞かせる。


「それが真実だ」と。


 その頃の私はミスが増えていた。

 頭がフワフワとして自分が何をしているのかがわからなくなっていた。

 そんな時に初めて組んだ先輩に言われた。


「お前何してんの?お前1人でどれだけ時間使ってるかわかってんの?」

「あ、いえ…。すみません。頑張り―」

「で?何?頑張るからなんなの?それでどうにかなるの?」

「…すみません!お願いします!やらせてください!!」


「はぁ〜」と大きなため息を先輩につかれる。

 それにビクッと反応する私を見て先輩はニヤニヤとして楽しんでいる。

 そして言った。


「お前いないほうがいいよ」


 私は会社を辞めた。


 そこからは余り覚えていない。

 時間が速い速度で流れていったと思う。

 そう、思う。


 時々涙が止まらなくなる。

 悲しくもないのに涙が溢れてやまない。

 心臓がキュッと摘まれて息が苦しくなる。

 頭が痛くなる。

 そしてあの時の事を思い出す。

「愛ちゃんはか「お前いないほうがいいよ」と。


 いつまでもこうしていられないのはわかっている。

 だけど行動に移れないんだよ。

 怖くて堪らない。

 悲しくて堪らない。

 自分が惨めで堪らない。

 どうしたらいいんだよ。

 誰か助けてくれよ。


 でも誰も助けてくれない。

 なら自分で何とかするしかない。

 だから自分でケリを付けたんだ。

 私はお腹に―


 酒を飲む。

 酒を飲む。

 酒を飲む。


 忘れたい。

 忘れたい。

 忘れたい。


 …もう、死んでしまいたいな…。


 ドラッグストアで大量の市販薬を購入する。

 レジの店員に訝しげな顔をされたが、何か言われる事はなかった。

 いつもどおりに大量の酒を飲み、その日は少し違う行動をした。


 大量の丸い粒を酒で胃へと流し込んだ。


「父さん、母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、…ごめんなさい。だけどもう無理だよ」


 ああ、あの何も感じ無いフワフワとしたものがやってくる。

 この感覚は私を救ってくれる。


「さよなら」


 …だったかな?



 ――――――――――


「…ぃさ………あ…ん。愛さん!!」


 はっ!と今の状況を思い出す。


 …そうだ、私はゼリミアナと話していた。


 ゼリミアナは泣きそうな顔を浮かべていた。

 依然、私にはその顔がどのようなものなのかは記憶に残らないが。


 …偽善者め。

 私は騙されはしないぞ…。

 そんな奴は何人もいたぞ…。


 混ざる、混ざる。

 知らない私が混ざる。


 私は首を振りそれを押し出す。


「ごめんなさい。そんな気持ちにさせるつもりはなかったんです」

「いえ、確認を取らなければならなかったのですよね?私は大丈夫ですよ、ゼリミアナ」


 そう、ゼリミアナは悪くない。

 全ては異常な私の責任だ。

 私は彼女に問いかける。


「私は死んだのですよね。自殺で」


 ゼリミアナは悲しそうに瞳を伏せ頷く。

 そこには私の問いかけとは違うものが含まれているように感じた。


「…はい。残念ながら」

「そうですか。そうですよね。私の記憶もそのとおりです」


 そう、そのとおりだ。


 そうか、ならこの空間の予想もつく。

 自殺、神。

 答えは一つだ。


 やっと終わりが来たのだ。


 歓喜の表情を私は浮かべる。


「ここは審判の間。そして私は地獄行きですか」


 さあ!早くこの私を終わらせてくれよ!!

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