第8話:読書家とシスコン
俺は図書館に来ていた。
「モンスター図鑑はっと」
ガレット子爵からの依頼である『庭に世界を作る』なんて迷うまでもなくダンジョンでなければ出来ない芸当だ。 少なくとも庭師としての俺にそんな超絶技巧もアイディアもない。
「ゴブリン、オークにスライムか。 割とテンプレのまんまなんだな」
しかし神との約束で次回からダンジョンにモンスターと罠を創ることを約束しているので、この世界を勉強しに来たというわけだ。
モンスターだとしても、未知のモンスターならバレないはず。 モンスターも罠も装飾として上手く使えれば、貴族も俺も神もみんなハッピーだ。
「なんかゲームの攻略本見てるみたいで面白いな」
元の世界では勉強なんて大嫌いだったが、不思議なものだ。
俺は資料と、いくつかの有名な小説を読んで図書館を出るのだった。
〇
ガレット子爵の妹、ソニアは体が弱く十五年間ほとんどベッドで過ごしているそうだ。 読書が好き、調子が良いときは庭を散歩するのが好き。
先日、調子が良かったので久しぶりのお出かけで、セト商会に行った際庭を見て痛く感動されたことから俺に依頼がきたらしい。
「さてこれ以上考えても仕方ないし、やるだけやってみるか」
ガレット子爵は「頼む、ソニアを元気付けてくれ!」と頭まで下げていた。 貴族が平民に頭を下げるなんてよっぽどだ。 つまり彼は相当なシスコンらしい。
「ま、微力ながら協力させていただきますよ」
ダンジョンの実験を兼ねていることは秘密だ。
今回も薄暗い庭での作業である。
俺は美しく手入れされた庭に一礼して、イメージする。
――山は色を変え
――残暑は終わり、鈴が鳴る
――色は鮮烈な赤
――それはまるで花のように散っていく
「ダンジョン創造」
と呟いて俺はスマホをタップした。
瞬間、空気が変わる。 景色が変わる。
そこはまるで、日本の秋に見た真っ赤な紅葉だった。
「よっし、いい感じ。 今回はさらに――モンスター創造! 罠設置!」
夜の庭にふわりと、光が瞬く。
この世に存在しないオリジナルモンスターが、蛍のように幻想的に輝く。
モンスターと知らなければ精霊のように見えるんじゃないだろうか。 もちろん攻撃性はゼロだ。
罠に関しては鏡のような湖を設置した。
誤って踏み込むと濡れてしまう凶悪(笑)な罠である。
「いやあだいぶダンジョンらしくなったんじゃないかなー」
――全然なってないけど!????
独り言への返事が聞えた気がしたがきっと気のせいだ。
誰が、神がなんと言おうと俺が創ったのはダンジョンであるのだから。
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