第7話:お礼と貴族の依頼
「先日はありがとうございました」
ヘデラはテーブルに小袋を置いて頭を下げた。
「こちらどうかお納めください」
中に入っていたのは金貨。
金貨一枚あれば一月は暮らせるくらいの大金だ。 というか仕事の依頼料より高くて、複雑である。
「いやいやもらえませんて。 こんな大金怖いですよ」
「いえいえおかげで貴族様に喜んでいただけましたので。 気持ちです、ぜひ」
短い付き合いだがヘデラは悪人ではないだろう。 しかし彼女は商人だ。
何か裏があるような気がしてならない。
「本当に何もないですか? 本当に?」
「ちょっとお仕事のお話が」
「何かあるんじゃないですか!? あっぶね」
「いえいえ、むしろ美味しい話だと思います」
――貴族様の庭を造っていただけませんか?
〇
セト商会をひいきにしている貴族、ガレット子爵の屋敷へやってきた。
「おお、いい庭だ」
ここのは白スーツではなく専属の庭師が造ったのだろう。 派手ではあるが綺麗で、元の世界のヨーロッパぽい雰囲気だ。
「俺、いる?」
疑問を抱きつつ、案内されるままでかい扉の前までやってきた。
「あの、こんな服装で大丈夫ですかね?」
「ええ、当主は理解のある方なので構いませんよ」
貴族なんて物語のイメージしかなく、少し不安だ。
「やあ、待っていたよ」
部屋に入ると美形の青年が気さくに話しかけてきた。
「ガレット家当主のクラウトだ。 よろしく、魔法使い」
恐る恐る握手を交わす。
「ええと、私は隠樹創太と申します。 お見知りおきを。 ところで私は魔法使いではなく、しがない庭師ですが」
「しがないわけないだろう。 セトの娘が言っていたぞ。 庭を造る魔法使いだと」
ヘデラが相当ハードルを上げているらしい。
「いえいえそんな」
「謙遜するな。 あの庭は確かに魔法と言われても納得できるものだった」
貴族に褒められて嬉しい気持ちはある。 しかしそれ以上に恐ろしい。
期待を裏切れない。 そもそも断る選択肢なんて用意されているのだろうか、と。
「さっそく君に依頼をしたい」
ガレット子爵は真面目な顔で言う。
「うちの妹は病弱でな、外に連れてってやることが難しい。 可哀そうだと思わないか?」
(ええ、まあ)
「だから世界を」
(……)
「この庭に世界を作って欲しい」
しばらく俺はガレット子爵と見つめあった。
どうやら冗談の類ではないらしい。
だとしたら、
(こいつぁイカレてるぜ)
とんでもない奴を押し付けたな、と俺はヘデラに恨み言を心中呟きつつも、
「ええと……具体的にはどんな感じでしょうか?」
全力の愛想笑いで話を進めるしかなかった。
獲物を捕らえた獣のようにギラついた目をした子爵から逃げる勇気が、俺にはなかったのである。
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