第6話:白スーツと白い世界


「ぼろ儲けだったな~」


 俺は依頼料を手にさっそく異世界の町へ繰り出していた。


 ダンジョン制作にかかった費用は魔力のみ。 経費がかからないこのやり方で庭を造り続ければぼろ儲けである。


 しかし庭を造った達成感は薄かった。


「金がある分には困らないけど」


 俺は持てるだけの食糧を買って、ぶらぶらと路地裏を歩く。


「ありすぎても使い道に困るんだよなあ」


 貯めることに興味はなかった。

 町で遊ぶ分があれば十分。 二度目の人生であるからか、貯めておくほど真面目に生きるモチベーションがない。


「いるいる」


 食べ物の臭いを嗅ぎつけた浮浪児がわらわらと集まってくる。


「はい、食べたい人並んで~」


 炊き出しをするシスターのような優しい心からの施しじゃない。

 ただ彼らがひどく喜ぶのが見ていて気持ちいからしているだけだ。


「今日もいい食べっぷりだあ」


 時々、気まぐれに通っているからこの辺りではちょっとした有名人らしい。 全然嬉しくないが。





「おい出てこいやっ!!」


 家に帰ると、柄の悪い連中が扉を叩いて怒鳴り声を上げていた。


 その中で一人目立つ、白いスーツを着た男が振り返る。


「見つけたぞ!!!」


 白スーツがそう言うと、柄の悪い連中が一斉に振り返った。


「お前のせいで俺は! お前が何もできないように手は回していたはず! それなのにどうやってええええ」


 俺の胸倉をつかんで叫ぶ白スーツはまともな様子じゃなかった。


 わめく彼の話を聞いていると、どうやらセト商会の庭を気に入った貴族がホワイト商会との取引をしなくなったそう。 理由は俺の知るところではないが、彼曰く全部俺のせいらしい。


 そして庭師として俺を押さえておけなかった白スーツはホワイト商会から縁を切られ、無茶を通していた恨みからか住人たちにもそっぽをむかれ、ついに廃業してしまったらしい。


「そうですか、それは大変でしたね」


 正直どうでも良すぎてそんな当たり障りない言葉しか出てこなかった。


 しかしふと一つだけ、彼の言葉を想い出した。


「ああ、転職してはどうですか?」

「おま、おまえがああそれを言うなああああ」


 少しだけスッキリした。


 それとほぼ同時に騒ぎに気づいた憲兵に白スーツは連行されていった。



 夢を見ていた。


 真っ白な世界。


 まるで転生した時に、神と会った場所のようなーー


「久しぶりだねえ」


 怖い笑みを浮かべた神がいた。


「本物?」


 一応確認のために、神をつついて、頬を引っ張ってみる。


「いはぁい!」

「うわ、本物だよ」

「なんで僕の頬なの! 君、可笑しいよ!?」


「もっと普通の子だと思ったのに……」そんなことを呟き、


「ダンジョンの進捗はどうなってるのかな?」


 と言って嗤った。






「つまりダンジョンは罠があって、モンスターがいなければなはない、と」


 説教、もといありがたいご指摘を総合するとそういうことらしい。


「当たり前だろ?!」

「知りませんよそんなこと。 言われてませんし」

「君は説明書読まないタイプだろ!」


 とにかく今のやり方は変えなければならないようだ。


「罠とモンスターがいればいいんですね?」

「そうだけど、不安になる言い方だなあ……まあ、あまり口出さないって話だったし何も言わないけどさ」


 大分口出された気がするけれど、これ以上長引くのも面倒なので曖昧に笑っておく。


ーーごめんくださーい


 するとどこからか声が聞こえてきた。


「来客みたいだし、そろそろ起きたら?」

「というと?」

「君のお客さんじゃないの、あの娘。 もう朝だよ」


「じゃあ」神がため息混じりにそう言うと、


「うあ、全然寝た気がしない」


 俺の意識は覚醒した。

 脳が休めていないのか、頭が重い。


「ヘデラですー。 オキさんいますかー?」

「……はーい」


 俺は無理やり体を起こす。


(ダンジョンマスターって面倒くせえ)


 そんな罰当たりなことを考えながら。


ーー……聞こえてるからね


 どこからか声が聞こえた気がしたけれど、きっと空耳だ。 そう思うことにした。

 






 

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