第4話:庭好き貴族とダンジョン創造
「ところで商人にとって庭ってそんな重要なものなんですか?」
そもそもヘデラが焦って庭師を探している理由を聞いていなかった。
「実は……」
ヘデラの父はとある貴族にひいきされる大商人であるらしい。
しかし最近、ホワイト商会もその貴族と取引するように。 今はまだセト商会と取引してくれているが、このままでは立場が揺らぎかねない。
「そんな時にホワイト商会が貴族様を招いて庭の鑑賞会を催すらしく」
その貴族は大の庭好きという渋い趣味を持っている。
実はセト商会をひいきにしたきっかけも庭だった。 しかし
「うちも対抗しようと鑑賞会にお招きしたいのですが、庭師はおろか花も買えない状況で」
「なるほどそれで困っていたんですね」
なるほど納得した。
その貴族がどんな人物かは分からないが、ヘデラは鑑賞会の盛り上がり次第では商会としての形成が変わると感じているようだ。
「じゃあ盛大にしなきゃ、ですね」
「ですからどうやって……」
「こうやってですよ」
俺は取り出したスマホを操作して、
「はい、お近づきの印です」
何もない宙空に現れたバラの花束をヘデラに差し出した。
〇
「今日はよろしくお願いします」
後日、セト商会の屋敷を尋ねると迎えてくれたのはヘデラだけだった。
父親は今回の件で心労がたたり寝込んでしまっているそうだ。
「よろしくお願いします。 お約束通り屋敷の者には出入りしないよう伝えてあります」
「ありがとうございます」
庭を造る条件として、造っている様子が誰も見ないように配慮してもらった。
普通に庭仕事なら構わないけれど、創造は色々なものが急に変化するので驚かせて騒がれたるのは面倒だ。
「じゃ、明日をお楽しみに。 おやすみなさい」
「はい……おやすみなさい」
少し不安そうなヘデラを見送って、俺は深夜の庭で一人想像する。
ヘデラ情報によるとその貴族は派手好きらしい。
幼い頃は体が弱く、成長してからもインドアで過ごしたせいか外の世界への憧れが強く、冒険物語が好きらしい。
俺は冒険に興味はないし、この世界でその類の物語に触れたことはない。
しかし前世ではゲームに漫画、アニメと様々嗜んできたのだ。 データは十分。
思い描くのは――
湿り気を帯びた空気、
力強い生命力、
滅びた文明、
そして緑、
安直に名付けるならば『太古の森に浸食された遺跡風の庭ダンジョン』だろうか。
「うん、明日のお楽しみだな」
しかし暗すぎて出来が確認できないのは誤算だった。
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