第2話:庭師の爺さんとダンジョンマスター


「この依頼やります」


 俺は町に来て、さっそく冒険者ギルドで冒険者となった。


 異世界の町は見ているだけでも楽しいが、金があればもっと楽しめるだろう。


 ダンジョンはまだ創っていない。


「爺さん、来たよ」

「おう、今日も頼むわ」


 そして戦えない俺は町での依頼をこなして小銭稼ぎをしている。


「爺さん、もう年なんだからあんま無茶すんなよ」

「うるせえや。 働かなきゃ飯も食えなくなっちまうだろうが」

「庭師って儲からないんだな」

「ほっとけや」


 最近はよく庭師の爺さんの仕事の手伝いをしている。

 

「おめえこそ冒険者って言うわりに全然冒険してねえな?」

「俺は戦えないからね。 食べるためにとりあえず名乗ってるだけだよ」

「ほーん、若えのに夢がねえ」


 爺さんは笑って言った。


「だったら本格的にこっちでやるか? なんーて」

「それもいいかも」


 町で遊ぶ金が稼げれば仕事にこだわりはない。

 俺もダンジョンの神を笑えないくらい適当な感じで爺さんに弟子入りすることになった。



「花はこうやって植えんだ」


「木はこう……いい感じにやんだ」

「教え方下手すぎ」

「うるせえ、同じように真似してみろ」


「なんか地味じゃない?」

「地味じゃねえ、これが情緒ってもんだ」

「ふーん」


「悪ぃな一人でやってもらって」

「いいよいいよ、年寄は休んでなよ」

「ふん、生意気いいやがって。 俺はまだまだ動けるんだよ」


「良く出来てるじゃねえか」

「ホント? やった!」

「いつも冷めてると思ったら、お前も年相応なところがあんだなあ」


「お前、うちの造園所継ぐか?」

「なに言ってんだよ。 爺さんはまだまだやれるだろう?」

「……そうだな」


「今回は一人でやってみろ」

「どういう風に造ればいい?」

「お前が決めろ。 俺の造る庭じゃなく、お前の庭を造れ」

「そんなこと言われても分かんないよ」

「じゃあお前が家を買ったとして、どんな庭にしたい?」





「爺さん、起きろよ」


 異世界に転生して何度目かの冬、爺さんは死んだ。


「もうすぐ俺の庭ができるんだ。 ちゃんと出来てるか見てくれよ」


 この世界で俺に血縁者はいない。


 爺さんが唯一の家族だった。


「俺、頑張るから」


 適当に流されるままに生きていた。

 けれどそのおかげで爺さんに出会えた。


 俺は爺さんとの思い出を胸に、爺さんに褒めてもらえるような庭を造ろうと誓った。





 それから再び月日は流れ、


 俺は庭師として庭を造る日々を送っていた。


 少し寂しいけれど、充実した日々だ。

 何か忘れているような気がしたけれど。


 そんなある日、白いスーツ姿の男がこの町にやって来た。


「やめてくれ!!!」


 壊される庭を前に浮かんだのは爺さんとの日々だった。


「この町の庭は俺が取り仕切る」


 奴がやって来たことにより、俺の仕事はなくなった。


 爺さんとは正反対な華やかな見た目の庭造り、そして口の上手い奴に顧客を奪われたのだ。


 加えて奴は商売も上手く、とある商会と組んで俺に仕事が回らないように手を伸ばしていると気づいた頃には手遅れだった。



「金がない」


 俺は爺さんから受け継いだ家で頭を抱えた。


 白スーツには心底ムカついてるし、いつか絶対に見返してやることは決定だ。


 しかし今はそれどころじゃなかった。

 仕事がない、金がない、貯蓄もない、つまり飯が食えない。


「また冒険者でもやるか?」


 仕事道具を質に入れるのは嫌だ。

 かといって駄々こねても、祈っても金は降ってこないのである。


「そういや」


 祈るといえば神。

 ふと忘れていたことを俺は思い出す。


「ダンジョン全然やってないし……スマホはどっかにしまったんだよな」


 しばらく探して見つけたスマホ。


「連絡がどうたらって言ってたよな……まあちょっと放置しただけだし、神の体感的には一瞬だよ、うん」


 だから大丈夫と、スワイプするとおびただしい通知が表示されていた。


「やってべえ。 神様、おこじゃん」


 インストールされていたチャットアプリを開いて最新のトークは、


『これを見たらすぐに連絡せよ。 さもなくばその世界に神の裁きが下るであろう』


『大変申し訳ありませんでした』


『なにをしていたんだきみは?』


『市場調査ですかね?』


『具体的には?』


『庭師をしてました』


『ギルティ』



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