第524話 捨てられた国
「……願いをかなえることが出来ないとは、どういう意味でしょうか?」
僕は慎重に言葉を選びながら尋ねた。
「なに、そのままの意味だ。」
エディンシウム・ラハル・リシャーラ陛下は、またしてもヒゲを引っ張りながら高い壇上から僕を目線だけで見下ろしつつ言った。
「我が国の法律では、国王になった際、それ以前の罪を問うことが出来ないという法律がある。この子は唯一の王子、かつ王太子だ。
いずれこの国を継ぐ立場にあるのだ。」
「……それとなんの関係が?」
「必ず国王になる存在、国王相当だということだ。国王相当に当たるということは、その時点で法律が適用される。つまりどのような罪を犯そうと、処罰することはできぬ。」
ルーデンス王太子がニヤリとする。
「……ルーデンス王太子が、一人っ子だから、代わりに国王になる人間がいないから、王太子のいかような罪も不問にすると?」
「……王太子の時点でそれは不問にすることかなわぬが、王太子でなくしたところで、王を継げる子どもは1人。」
ヒゲを引っ張り続けながら鷹揚に言う。
「それこそ極端な話、この場で王位を譲ってしまえば、すぐにでも不問にされてしまう罪だ。それを問う意味はあるのかね?」
まるで子どもに諭すような口調だ。
「それに若い時は、人間誰しも罪を犯すものだ。そなたも幼い頃、無意味に虫をいじめたりはしなかったか?それをいちいち罪に問うことはしない。そうやって人間は大きく成長するものだろう?我にも覚えがある。」
「……まるで被害者の彼女たちを、虫に例えていらっしゃるように聞こえますね。」
「そうは申しておらぬ。だが、王太子の罪を問うことは出来ぬ、と申しておる。」
「……そうですか、わかりました。」
僕が手を動かそうとした時だった。首周りにカラーをつけた豪華な服を身にまとった老婦人が、壇上のエディンシウム・ラハル・リシャーラ陛下に、そでの通路から近寄る。
「ははう──」
パシィイン……!
乾いた音がその場に響いた。
老婦人が、エディンシウム・ラハル・リシャーラ陛下を扇子で引っぱたいたのだ。
「……なんとおろかなことでしょう。」
「は、
呆然としたように、叩かれた頬に手を当てつつ、エディンシウム・ラハル・リシャーラ陛下は老婦人を見上げた。
「これを御覧なさい!先ほど私の私室に投げ込まれたものです!」
老婦人が地面に叩きつけたものは、紋様の入った1つの棒を2つに割ったものだった。
「こ、これは、王家の影が持っている筈の片割れ……。なぜこれが、代理母上の元に?」
なんか話が急にややこしくなってきたぞ?
「わたくしは、あなたに王位を引き継ぐことを了承する際に申しました。王家の影は常に王族を見ている。2代続けて愚物と判断されれば、──王家の影はその国を見限ると。」
そんな取り決めがあるんだ。王家の影は必ずその国に忠誠を誓ってるわけじゃないんだな。つまり……見限られたってこと?
「な、我と息子が愚物と判断されたと、そうおっしゃられるのか!?」
「だからこれが投げ込まれたのでしょう。
お前たちはいったい、何をしたのです!」
グッと言葉に詰まるルーデンス王太子。
「敵国の間諜を水際で食い止めているのは王家の影。それがいなくなれば、好き放題に国は荒らされる。王家の影なき国は滅びる。
それを知らないとは言わせませんよ。」
有無を言わせぬ態度でねめつける。
この方がかの女帝、マリアンヌ・フォダ・リシャーラ皇太后さまか……!
「……お初にお目にかかります。マリアンヌ・フォダ・リシャーラ皇太后殿下。そのわけは僕からお話させていただきます。」
「──そなたは?」
「僕はフルバティエ国王、アレックス・ラウマンと申す者。このたびは、ルーデンス王太子が僕の妻を手籠めにしようとした罪を問う為、賠償金を請求する為に参りました。
ここに証拠の映像と音声もあります。」
「そなたの国の王妃を……?」
そう呟いてから、キッとルーデンス王太子を睨んだ。気まずいのか、サッと目線をそらすルーデンス王太子。
「そして僕の調べでは、エディンシウム・ラハル・リシャーラ陛下も、国王に就任前、同様の罪を犯していたということが判明しています。恐らくそれにより見限られたかと。」
これはキリカに聞いた情報だ。ほんと親子揃ってとんでもないよね。息子の代まで王家の影は様子を見ていたんだろうな。
誰に似たんだろうね、まったく。
「お……お前たち……なんてことを……!」
マリアンヌ・フォダ・リシャーラ皇太后さまは、手にしていた扇子を真っ二つに折ろうかという勢いで激昂した。
────────────────────
マリアンヌ・フォダ・リシャーラ皇太后さまは現在の国王の祖母ですが、早逝した先代王の王妃の代わりに国王を育てきました。
その為、母と呼ばれている。
それを義母としたのですが(適当な言葉が見つからず)、皆様を混乱させてしまったようなので、代理母とします。
(養母も、本来祖母だからなんか違う気もするので)
車椅子押しながら道路のど真ん中移動している2人を見かけて、ど真ん中!?と思わず突っ込みました。
凄い人たちがいる……(^_^;)
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