第522話 違和感のある態度

 僕は学校の昼休み時間に、自動乾燥温風機を作ってもらえる魔道具工房を紹介して欲しいと、商人ギルドにミーティアを送った。


 工房には得意不得意があるからね。それに僕の考えている規模にも対応出来るところとなると、商会が抱えている工房がいい。


 それらの希望に合うところを見つけようと思ったら、商人ギルドに仲介してもらうのが1番簡単だからね。


 魔道具の技術の登録は、エリクソンさんにお願いすることにした。道具を持って来ているから、フルバティエでそのまま調べて登録の仕事が出来るとのことだった。


 登録はこれで完了したから、あとはピッタリの工房さえ紹介してもらえれば、すぐにでも作業に取り掛かってもらって、自動乾燥温風機の制作に入れるね!


 スウォン皇国の人たちに急かされちゃったからね、英雄育成と並行してやっていけたら1番ありがたいかな。


 食堂に向かうと、既に料理を選んでテーブルに向かっていたヒルデとすれ違う。

「……放課後、みたいよ。」

「わかった。準備は出来てるから。」


 すれ違う時に、お互い正面を向いたまま、小声でそうやり取りをした。

 懲りないルーデンス王太子殿下は、弱みを握った女生徒を使ってヒルデを呼び出した。


 平民は貴族と違って、王族の呼び出しに応じる義務がないからね。まあ、普通は呼び出されたら、はいそうですかとついていっちゃう人もいるだろうけど、王族からの呼び出しを怖がって行きたがらない人も多い。


 逃げたところで罰則があるわけじゃないから、平民は貴族ほど簡単には呼び出せない。

 向こうから近付いてくれば別だけど。


 ヒルデはルーデンス王太子殿下に興味なんてなかったから、当然自分から近付こうとはしなかったし、そうなると人気のないところにヒルデを呼び出そうと思ったら、人を使って騙す形でやる他、難しいってことだね。


 だけど、ヒルデはルーデンス王太子の目的を知ってる。ルーデンス王太子の思い通りになんてさせない。たくさんの女の子を苦しめて、なおかつ利用する日々はこれで最後だ。


 ──放課後、ヒルデは例の裏庭にいた。

「ルブレさん?来たわよ?用事って何?」

 ヒルデは裏庭の奥の方に声をかけた。


 薄暗く、人気のない場所だけど、返事がないまま、恐れることなく奥へと進んで行く。

 そこに現れるルーデンス王太子たち。


「ずいぶん待たされたよ、ヒルデ・ガルド。

 それも今日で最後だ。」

 何も知らないルーデンス王太子たちは、池を背にしてニヤリと笑った。


「誰よあんたたち。ルブレさんはどこ?」

 ヒルデがすっとぼけてそう尋ねる。

「彼女には君を呼び出す手助けをしてもらった。再三の呼び出しを無視されたんでね。」


「あれって本当に王太子殿下からの呼び出しだったの?平民の私を呼び出す理由がわからないから、偽物だとばかり思ってたわ。」


 それを聞いたルーデンス王太子たちは顔を見合わせる。

「まあ、そうかも知れないね。高貴な私たちが君に用事があると信じられないのも無理はない。だが君に用事があったのは本当だ。」


「王太子殿下が私に用事……?

 いったいなんですか?」

「すぐにわかるさ……。すぐにね……。」


 法務大臣、フェアファクス公爵の令息、ハリソン・フェアファクスが、ジリジリとヒルデとの距離を詰めていく。

「何よ、何するつもり?」


「君はB級冒険者らしいが、学園内は武器の携帯が禁止だ。武器なしの近接職で、しょせんは女。我々の敵ではない。」


 魔法を使える3人が、手に魔法をため、それをヒルデに放った!恐らく気絶させる程度の威力なのだろう。ヒルデは慣れた様子で3人の魔法をかわして地面を飛び跳ねる。


「うまいこと逃げたつもりだろう?

 だが我々の計算通りだ!!」

「あっ!?」


 ヒルデの着地地点にいた2人が、左右から2人がかりでヒルデを押さえつけ、無理やり地面に押し倒して、上から押さえつけた。


 着地する際は、無防備でバランスを崩しやすい体勢だ。最初からそこを狙っていたんだな。防衛大臣、グリフィス侯爵令息、ベンジャミン・グリフィスが、ニヤニヤと笑いながら、ヒルデの制服のジャケットを無理やり脱がそうとして、ボタンがひとつ弾け飛んだ。


──その時、強い光がルーデンス王太子たちを照らし出した。目のくらむ程の光に、一瞬呆けたようになり、反射で目を腕で覆ったまま、全員がその場に固まっていた。


「なっ、なんだ!?」

「そこまでです。ルーデンス王太子殿下。」

 僕は建物の影から姿を現した。

「アレックス・ラウマン……!」


「あなたたちがしていたことは知っていますよ。これは暗闇でも音声と映像の記録が可能な魔道具です。あなたがたがしたことが記録されています。観念してください!」


「それをどうするつもりだ!」

「国王さまに提出します。今まで何をしてきたのかを、国王さまや大臣たちにも、知っていただく必要があると思いますので。」


 僕はそれで彼らが怯むものだと思っていたんだけど、ルーデンス王太子はむしろニヤリとした。……なんだろう?

 ずいぶんと堂々としているけど。


「父上に提出……ねえ、いいだろう。

 私たちも一緒に行こうじゃないか。そこで君の考える結果が得られるといいね。」


 どういうつもりなんだろう?自分たちの罪が明るみに出たっていうのに……。

 僕はなんだか嫌な予感がしながらも、ルーデンス王太子たちと王宮へと向かった。



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