第521話 裏庭の決着

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「──ルブレ嬢はどうやらうまくやってくれたみたいだよ。ヒルデ・ガルドの呼び出しに成功したそうだ。放課後、裏庭に彼女がやってくるとさ。」


 財務大臣、デヴォンシャー公爵令息、グレイソン・デヴォンシャーの言葉に、筆頭補佐官、アルグーイ公爵令息、ボビー・アルグーイが、ヒュウと口笛を鳴らした。


「ついにか、長かったな、ここまで。」

 宰相、エリンクス公爵令息、ラーニー・エリンクスが、頭の後ろで腕を組みながらそう言って笑った。


「オフィーリア・オーウェンズは失敗しましたが、どうやらアレックス・ラウマンのお気に入りらしい女の1人を、ついにものに出来る日がやって来たようですね。」


 法務大臣、フェアファクス公爵令息、ハリソン・フェアファクスが、王太子、ルーデンス・ソバト・リシャーラを振り返り、1人孤高の存在かのように、離れた所で腕組みをしているルーデンスを見つめて言った。


「生意気な元貴族と、平民の女。実際お似合いだよな。けど、俺らに手を出されたことを知って、今まで通りに仲良く出来るものか、見ものだな。可哀想に、あいつの女は、これから卒業するまで俺らの言いなりだ。」


 防衛大臣、グリフィス侯爵令息、ベンジャミン・グリフィスがそう嘯くのを聞いて、その場にいた少年たちがハハハハと笑う。


「さあ、いつも通りの手筈でいこう。相手は最近B級冒険者に上がって、腕に自信があるようだが、しょせんは武器を持たない近接職の女だ。我々の敵ではない。」


 ルーデンス王太子が、自分を慕ってついてきている、将来の側近候補たちに向けて言った。少年たちがそれを聞いてコックリと頷いて見せる。


「ルブレさん?来たわよ?用事って何?」

 放課後、何も知らない獲物は、人気のない裏庭の奥へと、恐れることなく進んで行く。そこにルーデンス王太子たちが姿を現した。


「ずいぶん待たされたよ、ヒルデ・ガルド。

 それも今日で最後だ。」

「誰よあんたたち。ルブレさんはどこ?」


 どうやらまだ何が起こっているのか、ちゃんとわかっていないらしい。

「彼女には君を呼び出す手助けをしてもらった。再三の呼び出しを無視されたんでね。」


「あれって本当に王太子殿下からの呼び出しだったの?平民の私を呼び出す理由がわからないから、偽物だとばかり思ってたわ。」

 不思議そうに首を傾げているヒルデ。


 それを聞いたルーデンス王太子たちは顔を見合わせる。そうか、わかってて無視をしていたわけじゃなく、信じていなかったのか。


「まあ、そうかも知れないね。高貴な私たちが君に用事があると信じられないのも無理はない。だが君に用事があったのは本当だ。」


「王太子殿下が私に用事……?

 いったいなんですか?」

「すぐにわかるさ……。すぐにね……。」


 法務大臣、フェアファクス公爵の令息、ハリソン・フェアファクスが、ジリジリとヒルデとの距離を詰めていく。

「何よ、何するつもり?」


「君はB級冒険者らしいが、学園内は武器の携帯が禁止だ。武器なしの近接職で、しょせんは女。我々の敵ではない。」


 魔法を使える3人が、手に魔法をため、それをヒルデに放つ。ヒルデは慣れた様子で3人の魔法をかわして地面を飛び跳ねた。


「うまいこと逃げたつもりだろう?

 だが我々の計算通りだ!!」

「あっ!?」


 ヒルデの着地地点にいた2人が、左右から2人がかりでヒルデを押さえつけ、無理やり地面に押し倒して、上から押さえつけた。

 もうこちらの思うがままだ。


 ベンジャミンがニヤニヤと笑いながら、ヒルデの制服のジャケットを無理やり脱がそうとして、ボタンがひとつ弾け飛んだ。


 この時、恐怖に歪む顔が最高なんだ、とベンジャミンは思っていた。

 だが……ヒルデは少しも怯む様子がなく、むしろジッと自分のことを睨み据えていた。


 様子がおかしい。6人もの男に人気のない場所で囲まれ、襲われた少女というものは、全員このあと起こることを察して、恐怖に震え、身を固くするものだというのに。


──その時、強い光が自分たちを照らし出した。目のくらむ程の光に、一瞬呆けたようになり、反射で目を腕で覆ったまま、全員がその場に固まっていた。


「なっ、なんだ!?」

「そこまでです。ルーデンス王太子殿下。」

 建物の影から姿を現したその人物は。

「アレックス・ラウマン……!」


 そして、ヒルデや自分たちの周囲に浮かんでいる、いくつもの魔道具の姿。映像記録の魔道具を改良した物のようだった。


 まさか、今までのやり取りを、すべて記録していたのか……?

 自分たちはハメられたのだと気付くには、それほど時間がかからなかった。


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