第435話 ヒルデの本音

「ヒルデさん。」

 ミーニャが冷静に微笑みながら言う。

「嬉しかったんでしょ?プロポーズ。」

「そ、んなこと、は……。」


「だけど気持ちがないのがわかって、面白くなかったんでしょう?」

 ヒルデはミーニャから目線をそらした。


「アレックスは確かにまだあなたのことが好きじゃないけど、それはあなたの気持ちを知らないからって言うだけなの。」

「……。」


「ちゃんと気持ちを伝えないと、アレックスを意識させるのは無理なんだよ?せっかくそばにいられることになったのに、このチャンスを棒に振っても構わないの?」


「別に私は……。こいつに好かれなかったからって、どうでもいいし?」

 ヒルデはぷいっとソッポを向く。


「私なら嫌だな。何が何でもものにしたい。

 だってもともと結婚出来る立場になかったんだもの。そばにいて、気持ちをちゃんと伝えたら、アレックスの気持ちが自分に向くことだってあるのに、本当にそれでいいの?」


「それ……は……。理由はわかったし、結婚は了承するわよ。もうそれでいいでしょ?」

「素直じゃないなあ……。

 ライバルがそれじゃ、はりあいないね。」


 クスリと笑うミーニャに、

「私は別に、あんたのライバルになんてなるつもりないわよ。」


 そう言い捨てるヒルデに、ミーニャはスッと目線を落として、胸に手を当てながら、祈るようにヒルデに告げる。


「私はね、1番だけは絶対に譲らないの。

 そう決めてるの。その為にどんな努力でもするつもり。そんなんじゃ、私にはいつまで経っても勝てないし、アレックスが自分を見てくれる日も来ないよ?」


「だから別にいいって言ってるじゃ……。」

「──アレックス、キスして。」

「え!?今、ここで!?

 ヒルデがいるんだよ!?」


「だからよ。ヒルデさんは、アレックスが誰とキスしても、気にならないみたいだし?」

「そ、そうね、気にしないわよ。

 どうぞ、おやんなさいな。」


 なんだかヒルデの頬がひくついている気がするけど……。

 ミーニャはクスリと微笑むと、僕の方を向いてそっとまぶたを閉じた。


 え?ほ、ほんとに?いいの?

 でも、ヒルデが目の前にいるし、こんなところでそんなことをするわけには……。


 でも、これを逃したら結婚まで、本当にキス出来ないかも知れない。ヒルデをあおる為なんだろうけど、僕こそ、このチャンスを逃してもいいんだろうか?いや、よくない。


 人前だとか、それが知り合いだとか気にしている場合じゃない。

 ミーニャがこんなに僕にキスを求めているんだから、ここで応えないのは男がすたる。


 僕はミーニャの両肩にそっと触れると、

「ミーニャ……。好きだよ。」

 と言って、顔を傾けて近付けた。


 ミーニャの唇に僕の唇が触れるか触れないかの距離まで近付いた瞬間、

「だ……、駄目〜!!」


 とヒルデが立ち上がり、両手の拳を握って大声で叫んだ。僕は思わずビクッとして止まってしまい、ヒルデのほうを振り返る。


「ほら、素直じゃない。」

 とミーニャがクスリと笑った。

「う、うう……。」

 ヒルデが悔しそうに真っ赤になる。


「アレックス、もういいよ。ヒルデさんの気持ちは確認出来たし。はい、おしまい。」

 そう言ってミーニャがヒルデに向き直る。

 え?これもう、キスしちゃ駄目な流れ?


 ヒルデの本音を引き出すことだけがミーニャの目的なんだとしたら、ここでキスしたら空気の読めない奴ってことになってしまう。


 うう……。あとちょっとだったのに、どうして僕は途中で止めてしまったんだろうか。さっきの自分の行動が悔やまれてならない。


 いやでも、あのまましてたら、色気もへったくれもなくて、初めての思い出としては、あまりよくないものだったかも知れない。


 これで良かったんだ。良かったんだ……よね?そう思いつつもガッカリしてしまった僕をミーニャが見上げて、


「2人っきりの時に、こんどは必ずしてね?

 待ってるから。」

 と耳元で囁いてくれて、僕はもうドキドキしっぱなしだ。


「う、うん……。」

 ああ、ミーニャ、かあいい……。

 ミーニャに見惚れる僕に、


「アレックスにこういう顔、させたいでしょう?自分にも向けて欲しいでしょう?

 素直になるだけで、手に入るかも知れないものを、諦めて後悔する人生なんて、つまらないと思わない?」


 ヒルデに偽装の結婚を持ちかけて、了承してもらえばいいだけなのに、どうしてミーニャは僕とヒルデをくっつけようとしてるんだろうか。確かに僕がヒルデを好きになれば、ヒルデが英雄になる可能性は高まるけど。


 大好きな女の子に、他の女の子をすすめられるっていうのは、ちょっと凹むなあ。

 いや、ミーニャは僕の使命を理解してくれているんだものね、きっとその為だろう。


 1番は譲らないと言ったのも、僕の使命の為に僕が誰かを好きになることがあっても、僕を諦めるつもりがないってことだ。


 ミーニャから好きってはっきり言われたことがなかったから、これは嬉しいな。

 僕、ちゃんと両思いなんだなあ。えへへ。


────────────────────


本妻の余裕。

かつ子悪魔ミーニャさん。



前回の正解は、

DJ SHACHO【Repezen Foxx】の、

DJ SHACHO - Waiting for you in Bali island

でした。

もうまともな活動無理なんじゃないかと思わせられてからのこれは、まだまだ爆発するぞと思えて楽しみになりましたね。


ふぉいと脇が、ファン目線で夢中になって語る理由にも納得です。

1番最初の社長のファンなんだろうなと。


また別件ですが、銀太のプロ野球入りも意味がわからなくて楽しみです笑

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