第419話 犯罪奴隷を生み出す国
誰にその権限があるのかは、国によって異なる。リシャーラ王国だと国王さまだけだけど、王妃さまにもその権限のある国もたくさんあるし、王族全員なんて国もあるね。
王族がその権限を濫用して、国民を好き勝手に奴隷にしている……なんて国なんかもあると聞いたことがあるよ。
当然そんな野蛮な国は、国王会議に入ることが出来ないけど、野蛮なことをしているからって、どの国も滅多なことじゃ他の国に攻め入ってまで、それをいさめたりもしない。
──それは国王会議でも同じことだ。
処罰することの出来る法律を定めてはいるけれど、実際に処罰をくだせる国と、そうじゃない国がある、ということになる。
他国に攻め込むいい口実になるから、戦争好きな国ほど、攻め落としに行くと思われがちだけど、例えば有名なところでは、国王が強い呪術師を大勢抱えているという国だ。
呪術師というスキルは、害悪の意思を持った占い師のスキルのようなもので、名前を知られると呪われて死ぬとされている。
数が少ないけど、その分強力な力の持ち主だ。その国では呪術師対策で、フルネームを人に教えないという風習があるのだそう。
自国の王族や、国民に、たくさん犠牲が及ぶ可能性を考えたら、相手の国の国民と王族に手出しさえしなければ、こちらに手出しもしてこないのだから、結果として目をつぶって見過ごす、という選択肢になってしまう。
釈然としないことだけどね……。
だけど本当に国そのものがそんなことをしているのなら、僕はいつかその国に行かなくちゃならないかも知れないな。
「だがそれは当然簡単じゃない。冒険者ギルドを追放された人間がどういう人間かはみなわかっていることだし、商人は基本信用第一だから、紹介でしか人を雇わないからな。」
「そうやって就職するのが難しい状態で、仕事につく努力をすることそのもの、または炭鉱夫のような厳しい職業に自らつくことが、罪に対する禊になるということね。」
テイラーギルド長の言葉をヒルデが補足する。犯罪奴隷は一度なったら簡単に取り消せないだけに、犯罪奴隷に落とすまでは慎重に何度かチャンスを与えるものということだ。
「彼らにはこれから奴隷として冒険者ギルドの仕事をすることで、知り合いに顔をさらすことになる。それが重い罰になるのか、軽い罰になるのかは彼ら次第だがな。」
重篤な犯罪者とされること。
それ以外じゃ、人が簡単に奴隷になるなんてことはない。やっぱり自分自身が即、犯罪奴隷になるという罪は重いからね。
誰かを違法奴隷にしたり、違法奴隷を購入した人は、バレたらその人自身が、今度は一発で犯罪奴隷になるくらい重い罪だ。
他人の尊厳を無理やり奪うんだから、それくらいの罰が妥当ということだね。それでも違法奴隷の噂は後をたたないんだけど。
だけどその分、一度犯罪奴隷になってしまうと、簡単に自分の身分を取り戻せない。
一生というのはそういうことだ。
自分が売られた金額と同じ額を支払って、自分自身を買い取らないといけないからだ。
だけどその値段は奴隷商人が決めるもの。
ザックスさんみたく、見た目が良かったりすると、性奴隷として人気が出ることになってしまうから、値段がお高めに設定されてしまう。そうすると買い戻すのが難しい。
だけど大抵の場合、無罪を主張して裁判するよりも、買い戻すのが1番簡単だから、貴族や大商人の家族が万が一犯罪奴隷になってしまった場合は、犯罪奴隷になるのを待ってすぐに家族が買い戻すこともあると聞く。
無罪の証拠を集めるのが大変だからだそうだ。役人が一応調べたうえで、犯罪者と定義づけているからね。それを素人が覆すのが難しいってことなんじゃないかな。
裁判自体も、お金も時間も労力もかかるから、お金があるなら身分を買ってしまったほうが、早くて楽ってことだと思う。
だけど大抵の人は、そのお金がなくて犯罪に走るものだから、当然買い戻すお金なんてものはない。まれに賃金を支払ってくれる購入者に当たることもあるから、その場合はいずれ買い戻せる場合もある。
僕がザックスさんにしたのがそれだね。
結局ザックスさんは自分自身を買い戻す前に、犯罪者ではなかったとして、犯罪奴隷ではなくなったけど。
つまり彼らはお金に困って僕を襲った筈だし、放逐貴族ということは、家族の支援も当てには出来ない。
放逐された貴族は貴族じゃないから、その後でどんな犯罪をおかそうとも、貴族の名誉になんら影響を与えないからだ。
対面をもっとも気にする貴族たちは、貴族でいる間だけは、助けてくれただろうけど。
彼らは一生このままなんだろうな。
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