第418話 奴隷紋の仕組み
僕の立っている場所は、正面にラナおばさんの肉の焼串屋、右手に、今日は久々に開店している、レンジアのリュウメン屋台があるところだ。僕からすると左手側、つまり彼らの目線の範囲に僕は立っていたんだ。
視線を向けてマジマジと彼らを眺めてしまった僕に、当然彼らも気が付いて、あ、というような表情で大きく口を開けていた。
前回と同じような、タンクトップにポケットのついたチノパンという服装。前回も身につけていた革の防具も装備した状態だ。
だけど少しだけ違うのは、胸元の見える場所に、以前ザックスさんがつけられていたような、奴隷紋がつけられていたことだ。
あれはあれ自体が魔法の契約書のようなものなんだ。ミルドレッドさんやリニオンさんたちとかわした契約紋にも似ているね。
契約紋と奴隷紋には大きな違いがある。契約紋──双方の合意があれば簡単に解除出来るもの、奴隷紋──双方の合意があっても簡単には解除出来ないもの、という点かな。
なぜなら契約紋は双方の合意のもとでかわされる、一般的な契約になるけど、奴隷紋は相手の意思おかまいなしに、強制的にかわされるものだから、だね。
「冒険者ギルドに所属している人間が悪さをすると、まずはその程度に応じて注意や勧告がなされる。それでも改まらない場合には冒険者ギルドを追放されることになるんだ。」
「なんだ、ずいぶんと軽い罪じゃないか?
大した罪にはならないんだな。」
ははっと嘲笑するようにサイラスが言う。
「──軽い罪……か。所属しているところを追い出されるだけ、という点についてはそうだろうな。だが冒険者をやっている者たちは、冒険者しか出来ないからやっている者も多くいる。そんな奴らが冒険者ギルドを追放されるとどうなるか。真っ当な仕事は、今後なにひとつ出来ないということになるんだ。」
ぐっ、と小さくうなるように声を漏らすサイラス。軽い罪だとあざけったことを、あざけりかえされたと思ったのだろう。
「もちろん、仕事につくことを禁止しているわけじゃない。本人が性根を入れ替えて頑張れば、どんな仕事にだってつける可能性はあるし、炭鉱夫は常に募集しているしな。」
炭鉱夫は犯罪奴隷がつかされることの多い仕事だ。もちろん普通に志願して行く場合にはきちんと休憩だってあるし、犯罪奴隷として行くよりは扱いもいいのだそうだ。
もちろん賃金だって悪くはないと聞く。
だけど、進んで行く人の少ないキツイ仕事でもあるんだ。彼らはそれを選ばず、犯罪を繰り返す道を選んでしまったってことだね。
結果、犯罪奴隷にまでなってしまった。
それにしても放逐貴族かあ……。この人たちも最初は襲われる立場だったんだよね。
襲われてお金がなくなった結果、人を襲う側に回ってしまったんだろうな。そうしなければ生きていけなかったんだとしても、そうしない生き方だってあったわけだからね。
同情は出来ないかな。実際叔父さんだって放逐貴族だけど、誰にも頼らずに自分の努力だけで、ここまで生き抜いてるんだし。
自分の環境に絶望したり、言い訳したりする前にもっとやれることはあった筈だし、それを人を襲っていい言い訳には出来ないよ。
「にも関わらず犯罪を繰り返した場合は犯罪奴隷に落とされる。そうなったら自分で自分を買い戻すしかないが、普通の人間にそれは不可能だからな、一生奴隷ということだ。」
3人の様子は三者三様だ。気まずそうに僕から目をそらしている人、元貴族だと知られて恥ずかしそうにしてる人、──逆恨みするかのように僕を睨んでいる人、だった。
奴隷紋は主人に従わないと紋により罰が与えられる、強力な魔法なんだ。基本攻撃能力がないとされる無属性魔法において、唯一攻撃に近いことが出来る魔法でもあるね。
双方合意のもとでかわされる契約紋と違って、強制的にかわされる奴隷紋は、その代わりに誰でも誰かにつけられるものじゃない。
つけられるものじゃないというか、つけてはいけないもの、だね。つけることが許されているのは、奴隷商人の中でもその資格を持った人、ということになるね。
誰でも使える無属性魔法ではあるけれど、犯罪者でもないのに誰かに奴隷紋をつけた場合は、違法奴隷ということになって、奴隷紋をつけた人がさばかれることになるよ。
これは国際法で定められていて、世界の大多数の国が参加している国際会議で定められているものだから、参加していない国が違反した場合でも国際法で裁かれることになる。
また奴隷商人の他に、唯一奴隷紋をつけることを許されているのが、王族だ。
王族は独自の権限をもって、人をさばくことが出来る存在なんだ。
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