第380話 動き出した敵
【オニイチャン、リカーチェ・ゾルマインが動いたようです。】
その時、突然キリカが僕らの会話に念話で割り込んでくる。
リカーチェ・ゾルマイン!?
それって、あの、僕を探してる人だよね?
まさか僕が見つかっちゃったの!?
リカーチェ・ゾルマインが連れている占い師に顔と波長を覚えられたから、僕はミルドレッドさんにお願いして、認識阻害の古代魔法をかけてもらっているんだけど。
【いえ、占い師には見つけられていないですが、他の方法で探す為に動いたみたいです。
その為にルリームゥ王国に行き、国王に協力を仰いだようですね。】
ルリームゥ王国!?
リリーフィア王女の出身国だよね?
人魚とか魚人族のいる……。
【はい、海底神殿ですので、本来人間の立ち入れる場所ではありませんが、ザザ・アイワナ・バイツウェル2世に力を借りて、立ち入り可能になったようですね。】
ルリームゥ王国に行って、何をしようとしてるの?リリーフィア王女を見つけることが出来ないくらいだし、特別に人探しをする為の力があるわけじゃないと思うけど……。
【ルリームゥ王国の力を借りて、商品を広めようとしているようです。】
商品?
え?商売の為に人間が立ち入れない、海底神殿まで行ったってこと?
【表向きはリリーフィア王女を探すのに手を貸す為、ということで潜入したようですね。
能力を強化すると同時に、飲んだ者の視界をザザ・アイワナ・バイツウェル2世が見ることが出来るようになる薬です。】
それって、僕らを襲ってきた男たちの力を増すのに、飲ませた薬ってことなのかな?
本来大した事ない彼らが、特殊な力を使って襲ってきたよね。
【リカーチェ・ゾルマインの手下たちに与えたような、特殊能力が付与される程のものではないようですね。最初に与えられた、ただ力が増すだけの薬のようです。
薬というか……、単なるザザ・アイワナ・バイツウェル2世の体液、ですが。】
──体液!?魔物の体液ってこと!?
魔物の体液を摂取すると、力が増すの!?
【魔物は体液を与えることで、人間や動物を眷属にする種族が存在しますが、ザザ・アイワナ・バイツウェル2世はそれにあたるようですね。……つまり、体液を摂取することで魔物の力を手にするようです。
ですが眷属は当然始祖よりも劣る力しか手に入れられません。どの程度渡すか、渡せるのかは、始祖の力と純血さにもよりますが、大量に生み出せるという点でも、最下層の眷属としての力を与えるものでしょうね。】
人間を魔物の眷属にする為に、体液をルリームゥ王国を通じて配ろうというの!?そんなことをしたら、ルリームゥ王国がすべての国に戦争をしかけるようなものじゃないか!
【バレたらそうでしょうね。ルリームゥ王国でも、薬と言われて渡されたそれを調べたようですが、眷属になる成分がごくわずかであったことで、気が付かなかったようですね。
魔物の素材は薬になることもありますからね、当然そこは調べたようです。
ですが素材が魔物のものであることまでは気がついたようですが、眷属化させられるかどうかを調べられるのは魔塔の賢者か、“選ばれしもの”くらいです。
そして魔塔の賢者であっても、未だ未発見のものを特定することは叶いません。
ザザ・アイワナ・バイツウェル2世は、他にこの世に同類のいない魔物だからです。】
……じゃあ、ザザ・アイワナ・バイツウェル2世の体液が、薬と称してルリームゥ王国を通じて、世界にバラまかれるのを見てるしかないってこと?
【ルリームゥ王国と友好関係を築いている人間の国はありませんからね。
商売を通じて交流があるのみですし、ルリームゥ王国に招かれる人間もいません。
あちらが人間の国に来るのを待つだけ。その薬が本当はなんであるのかということも、教えることも出来なければ、販売を差し止めさせることも、誰にも出来ないでしょう。】
そんな……。人間を魔物化させる薬が広まるのを、止めることが出来ないなんて……。
【オニイチャン、それより問題はその体液で眷属化した人間たちが近くにいたら、その人間の目はザザ・アイワナ・バイツウェル2世の目とつながっているということです。
オニイチャンが引きこもってでもいない限り、認識阻害の魔法は単体魔法にするしかありません。オニイチャンを知っている人たちから見えないと困りますからね。
──もしもルカリア学園の生徒たちや、アタモの町の住人で、ザザ・アイワナ・バイツウェル2世の体液を口にする人間がいたら、その時は彼らにオニイチャンの居場所が、気付かれてしまいますよ。】
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