第379話 勇者になるべく人

「し、使命って……。あは、まるでお告げでも受けたみたいに言うのね。」

 困惑したようにヒルデが言う。

「そうだよ。僕はお告げを受けたんだ。」


「アレックスが?」

「そうだ。神は“選ばれしもの”にお告げを授けた。その対象者がアレックスなんだ。」

 叔父さんがヒルデにそう告げる。


「それって……本当なの?

 だとしたらどんなものなの?

 どうしてそれがわかったの?」


「神のお告げは“選ばれしもの”にしか直接伝えられないものだと思っていた。

 だがそうではなかったんだ。」

「そうではない……?」


「アレックスも神から直接使命を賜った。そして俺も直接その場でそれを聞いたんだ。

 アレックスの使命は英雄を育てること。

 その為のスキルを授けたと。」

「ラウマンさまもそれを聞いたのですか?」


「ああ。神の言葉が直接頭の中に降り注いだんだ。勇者や聖女さまは突如異世界から現れるか、この世に生まれいずるもの、そして彼らが現れることで他の英雄が誕生するものだと思われていた。だがそうではなかった。」


「もともと人間は英雄として成長する可能性がある状態で生まれた人たちがたくさんいたんだ。だけどその可能性に気付くことがなかった。だから魔王の復活に間に合わなくて、仕方なく神さまは勇者さまたちを異世界から送り込んだりしていたんだって。」


「だが今回はそれをする気がないと。今いる者たちの中でそれを育てるようにとのことだった。そうすれば、勇者や聖女は1人ではなくなる。今まで封印することしか出来なかった魔王を、倒すことが可能になるんだ。」


「勇者さまや聖女さまを、たくさん生み出すって……。そんなことが可能なの?」

「うん、僕の力はその手助けをする為のものなんだ。──そしてヒルデ、君は勇者になれる可能性が高い人なんだよ。」


「私が……、勇者……?」

 信じられない、という表情で、胸に拳を当てて目線を落とすヒルデ。


「それは俺もな。もちろん、他にも英雄になれる可能性がある人間はたくさんいるが、アレックスは俺と君に、まずはそうなって欲しいと望んでいるんだ。」


「私を……。」

 ヒルデが顔を上げて僕を見つめる。

「どうして……、私を選んだの?」


「ヒルデは叔父さんみたいに剣聖になることを目指して、叔父さんの噂だけを頼りに、片手剣使いなのに双剣を使っていたでしょ?」

「ええ。」


 ヒルデがこっくりとうなずく。

「人に知られたら馬鹿にされるから、そのことを隠していたけど、それでも諦めずに、ずっと頑張っていたよね。」


「ひょっとして……。それなの?

 私のスキルが、変化した理由って?」

 僕はこっくりとうなずいた。


「うん、そうだよ。スキルとは違う武器を使う必要があったんだ。それがスキル変化に必要な条件。ヒルデは叔父さんの次に、この仕組みに自力でたどり着いた人なんだ。」


 僕を見つめるヒルデの目が輝き出す。自分が愚直に信じて行ってきたことが、正解だったとわかって嬉しかったんだろうね。


「僕が叔父さんとヒルデが、真っ先に勇者になるのに相応しいと思う理由がそれなんだ。

 スキルを変化させるのは大変だよ。それを正解もわからずに続けられる人なんて、早々いないし、なってしかるべき人だと思う。」


「……ありがとう。」

 ヒルデが嬉しそうに頬を染めた。

「違う武器って、なんでも良かったの?」


「ううん、片手剣使いから中級片手剣使いに上がるくらいならそれでもいいんだけど、剣聖や勇者に変化するにはそれじゃ駄目なんだよ。すべての武器の使用経験値と、武器のレア度が関係していたんだ。」


「レア度?アレックスにもらった、リザードマンの灼熱の長剣がエピッククラスだったことも、関係しているってこと?」


「そうだよ。全部の武器の種類、武器クラスの使用経験値を一定数上げないと、勇者にはなれないんだ。もちろんそれ以外にも条件はあるんだけど……。勇者になる過程で、剣聖になったり剣神になれたりもするんだ。上級片手剣使いになれたのもその一環だよ。」


「アレックスはそれを知ってて、私に灼熱の長剣をくれたの?」

「ううん、あの頃は知らなかったよ、だってジャックさんにあげたものだったし。」

「そっか……。そういえばそうよね。」


「ヒルデはあの頃から、違う武器を使ってスキルの変化をさせられないか試してたよね。

 結果としてそれが正解だったんだ。ヒルデがいなかったら、こんなに早く、そのことに気がつくこともなかったかもしれないよ。」


「ああ。それはとても凄いことだ。俺はたまたま結果としてそうなっただけ。だけど君は自ら挑戦してスキルを変化させた。俺も勇者になるに相応しい人物だと思っているよ。」


 叔父さんにそう言われてヒルデの頬が紅潮し、興奮したように目を見開いた。

「嬉しい……です。」

 ヒルデの目に涙が浮かんだ。


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遅くなりました、本日分です。



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