95番目の扉の秘密
第378話 勇者への勧誘
みんなが盛り上がっている状態を止めることもかなわなくて、みんながリザードマンの灼熱の長剣のエピッククラスを手に入れようとすることは放置することにした。
ヒルデと改めて放課後の約束を交わし、帰りは一緒の馬車で自宅に戻る。僕は普段時空の扉で移動してるから、馬車を使わないんだけど、まだヒルデに話してないからね。
大抵の生徒たちは、貴族と裕福な商人なんだけど、ヒルデは当然馬車なんて持っていないから、普段は徒歩通学なんだそう。
だけど僕はヒルデほどスタミナもないからね。この距離を歩くのはちょっと考えられない。だから辻馬車を捕まえたよ。
「──いらっしゃい。」
「お、お邪魔します……。」
恐る恐るといった様子で、出迎えてくれた叔父さんにペコリとお辞儀をするヒルデ。
僕の隣にヒルデ、ヒルデの向かいに叔父さんが腰掛ける。今日もミルドレッドさんはミーニャの訓練に行ってるとかで、1日不在、キリカは接続を切っているから僕らだけだ。
叔父さんが紅茶とクッキーをヒルデに振る舞った。叔父さんは紅茶を入れるのが得意だからね。ヒルデも一口飲んで、美味しい……とポツリと漏らした。
叔父さんがそれを聞いてニッコリとする。
ヒルデが上級片手剣使いになるまでにやったこと、どんな訓練やクエストを受けていたのかなどを、叔父さんは尋ねた。
ヒルデは最初こそ緊張していたものの、憧れの剣聖である叔父さんと話が出来て、とても楽しそうに打ち解けていたよ。
しばらく話をして、3回目の紅茶のお代わりを入れたところで、叔父さんの表情が変わった。例の話をきりだそうとしてるみたい。
「さて、ここからが本題なんだが……。
君が上級片手剣使いにスキルが進化したと聞いてね。話したいことがあって、お呼びたてさせていただいたんだ。すまない。」
「あ、いえ……。
話したいことって、なんですか?」
「大変申し訳無いんだが、ここから先の話は秘匿事項にして欲しいんだ。」
「内緒の話ってことですか?
はい、別におっしゃっていただければ、誰にも話しませんけど……。」
「いや、そうじゃないんだ。契約魔法を結んで欲しい。口外した場合、処罰の加わるものだ。もっと厳しいものであれば、その単語を口にすら出来ないようにするものもあるが、そこまでしなくてもいいだろう。」
ヒルデの喉からヒュッと音がする。
「そ、そこまでの何を、私にお伝えいただけるのでしょうか?」
「すまないが、それすらも、契約魔法を結んだ後でないと話せないことなんだ。」
ヒルデは困惑したように目線を落として、指先を膝の上でいじるように動かしている。
「急な話で困惑しただろうな。だが君が俺のように剣聖になることを望むのであれば、また、この世界を良くする為に戦いたいと考えるのであれば、ぜひ聞いて欲しい話だ。」
ヒルデがパッと顔を上げた。
「剣聖になる為の手段が……、おわかりだということでしょうか?」
「それを答える為には、契約魔法を結んで欲しい。今の俺には、はいともいいえとも答えられないんだ。」
「わかりました。結びます、契約魔法。」
叔父さんが頷いて魔法陣の描かれたスクロールを取り出すと、きちんと目を通してからサインをするか血判を押してくれと告げる。
ヒルデはスクロールに目を通してから、叔父さんに借りたペンでスラスラとサインをした。ヒルデが学園に通い出すまで、文字の読み書きが出来たことを僕は知らなかった。
普通の平民は文字の読み書きなんて出来ない人が殆どだからね。貴族の家で働くようになったり、商人のところに勤めて初めて習うもので。それだって習わずに済ませることだって多いものだと言うからね。
まあ、そうじゃなきゃ、ルカリア学園に入ろうなんて思わなかっただろうけど。文字の読み書きが出来ることが前提の授業だしね。
でも、僕と関わりたがっているオフィーリア嬢はともかく、なんでヒルデまでルカリア学園に入ったのかな?冒険者をするだけじゃ頭打ちだと思ったのかな?
叔父さんが空中にスクロールを放り投げると、空中で青い炎を発してスクロールが燃え尽きる。これで契約が結ばれた。
「さて、先程の質問に答えさせてもらおう。
答えは、はい、だ。俺は、いや……俺たちはスキルの変化の秘密について知っている。
正確にはアレックスがそれを握ってる。」
「アレックスが……!?」
「スキルの変化にはその先がある。片手剣使いの先が中級片手剣使い、そして上級片手剣使い。その先が剣聖だ。これが今の俺だ。」
ヒルデがコックリとうなずく。
「──だがそこで終わりじゃない。その次が剣神、そして勇者に変わることが出来るものだ。それがアレックスと関係している。」
「ゆ、うしゃ……。」
「うん。僕には使命があるんだ。世界に7英雄を生み出すこと。僕は叔父さんとヒルデに勇者になって欲しいと思っているんだ。」
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