第377話 神隠しの話・その2

「……そのことについて、誰か報告を受けているものはいるか。」

 国王モノノフが大臣たちに尋ねる。


「わたくしが……。」

 恐る恐る手を上げたのは産業大臣だった。

「食料班や人魚たちより、海中で突然魚が消えたという報告を受けております。」


「なぜそれを我々に言わなかったのだ!」

 騎士団長が叫ぶ。

「魚が急に進行ルートを変更し、見失うということはよくあることですので……。」


「……そのうちのひとつだとして、報告を上げなかったということか。」

「では、空気の渦は、海上だけに現れるものではなかったと?」


 大臣たちがまたザワザワとしだす。

「では、リリーフィアは神の世界に連れて行かれたということか?」


「いいえ。空気の渦はあくまでも自然現象のひとつ。ですがそれを生み出したのが他ならぬ神の力によるもの。よってこれは神隠しであると言えるでしょう。」


「……空気の渦でその場にあったものが、どこかに行ってしまうことそのものが、神のいたずら、神隠しであると?」


「はい。ですが神の世界に呼ばれたわけではない。別の場所に飛ばされただけだ。ですので、この世界のどこかにおりましょう。

 私ならそれを探し出すことが出来る。」


「空気の渦の向こうに消えたものを、探し出せるだと!?」

「前代未聞だ……。」


「空気の渦の向こうに消えた人間が故郷の地を踏めないというのは、単に巻き込まれた際に死んだか、連絡手段や移動手段の少ない時代に、他の国に移動させられたということだと思われます。」


「では、無事な可能性もあれば、生きていた場合それがわかると?その貴殿が従えているという、優秀な占い師の力によってか?」


「いいえ。ご存知の通り、占い師はその者の顔と波長がわからなければ、人探しをすることは困難です。よって他の方法を使います。

 ひとつ許可をいただきたいのですが。」


「許可だと?」

 国王モノノフは、予想外の返答に、一瞬虚を突かれて目を丸くしたが、すぐさま平坦な表情を装った。


「はい。これを。」

 ゾルマインが手にした瓶を、黒く揺らめく魔物のような存在が受け取り、スッと足元の兵士に差し出した。


 一瞬ギロリとした巨大な目が見え、兵士はそれと目があい震え上がった。

 兵士はそれを受け取り、危険がないかを確認してもらう為、大臣の1人に差し出す。


 大臣は薬師に確認させるよう、そのまま部下に指示を出して瓶を手渡した。

「……これは?」

 国王モノノフがゾルマインに尋ねる。


「これは能力を強化する薬です。それと同時に、これを飲んだ者の視界を見ることが出来るのです。……これを世界中に広めれば、すべての人々の目が、私の従えている魔物の目に同調することになるのです。」


「……さすれば、おのずとリリーフィアを見つけることが出来るということか。

 同時に我が国は、人間や獣人の国を監視することの出来る目を持てると。」


「私がなぜこの深海の地で、普通に会話が出来るのかの答えのひとつが、その薬です。

 私は深海程度克服することは容易い。そしてこのような魔物を従えることもね。」


「──おぬしが魔物を従えている力は、テイマーのスキルではないのか?」

 国王モノノフは驚いてゾルマインを見る。

 薬で魔物を従えるなど聞いたこともない。


「……これは私の血によるもの。それは魔族と交流を持ち、魔族の血を取り入れ、魔物を操る魚人族の皆さまも同じなのでは?」


「貴殿は魔族の血を引いている、ということか。我々と同じく、人間よりも魔族のほうがよいと感じていると見える。」


「私がこの国で商売をしようとしている理由は、どうやらおわかりいただけたようだ。」

「商売だと?」


「はい、これを国の商品として販売していただきたく。私は売上をいただければよい。」

「仕入元がおぬしであることを知られずに、商品を販売したいということか。」


「はい。人間たちは私を受け入れません。

 私が商売をしようと思えば、このような手段を取る他ない。」


「それは想像にかたくないな。魔族の血を引いた者を人間は受け入れない。そうとわかれば人の輪から追い出されよう。」

「はい、その通りです、陛下。」


「その薬の効果と安全性を確かめてからにはなるが、問題ないようであれば協力しよう。

 なによりリリーフィアを見つける手立てとなるのであれば、こちらもありがたい。」


「ええ、モノノフ国王陛下。

 ぜひよろしくお願いいたします。」

 ゾルマインがニヤリと笑う。


 国王モノノフも、他の魚人たちも、ドラゴンと対等に渡り合える自分たちに自信を持っていた。魔族の血を引き、他の亜人たちよりも誰よりも強い、魚人という存在。


 その為ゾルマインを、人間を侮っていた。

 その裏にどんな思惑があろうとも、自分たちであればどうにか出来る、と。


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