第381話 誰よりも先に。
僕はゴクリとツバを飲み込んだ。
【救いはリシャーラ王国が、ルリームゥ王国からかなり遠いという点ですね。
ここに広まるまでは、かなり時間がかかることでしょう。
それまでになんとしてもオニイチャンの国を作って、そこに逃げる他ありません。
英雄たちもそこに移動させて、匿うのがよいでしょう。】
うん、そうだね、頑張るよ。
「……ねえ?アレックス。」
僕がキリカと念話をしていると、ヒルデが僕に話しかけてくる。
「なに?ヒルデ。」
「勇者は私とラウマンさまだとして、他の英雄……たとえば弓神とか、獣神とかも、この国に候補がいるのよね?」
「うん、この国だけじゃなく、世界中にいるよ。近いところで言うと、オフィーリア嬢は賢神の可能性がある人だよ。」
「オフィーリアさまが?そう、そうよね、オフィーリアさまほどの方なら、英雄になられてもおかしくはないわ。」
「うん、でも、まだまだ遠いけどね。
今のオフィーリア嬢の実力だと。」
「そ……そう?
だいぶお強いと思うけど……。」
「神の名がつくスキルは、簡単に手の届くものじゃない。勇者のスキルだって、その前に剣神、そのひとつ前に剣聖があるんだ。
賢者にすら届かない今のオフィーリア嬢では、はるか先の目標だと言えるな。」
「そんなに……ですか。」
叔父さんの言葉にヒルデが呆然とする。
「仕組みがわからなければ、やみくもに鍛えてもスキルは変化させにくいからな。」
「だからヒルデに仕組みを教えて、一緒に頑張りたいと思ったんだ。だけど今はそれが知られると、国に取り込まれかねないから、僕らは内緒にしておきたいと思ってる。」
「だから、魔法の契約書だったのね。」
「うん、このことは、ある程度英雄が揃うまで、黙っておきたいんだ。」
「わかったわ。」
「人類を救うための英雄を、国の政治取引に使われたくはないからな。
特に勇者さまと聖女さまは。」
「優先的に保護されるという名のもとに、優先的にその国を守ることを強いられるのは、私たち平民にもわかっていることだわ。
それを懸念しているということね?」
僕と叔父さんはコックリとうなずいた。
保護した国が権利を持つ。これは暗黙の了解で、代々英雄たちに課せられた義務だ。
これがあるせいで、どの国がどれだけ兵士や備蓄を出すかに揉めて、なかなか7英雄が集合出来なくて、いつも魔王の居場所に旅立つのが遅れてしまうんだよね。
「それを繰り返して来たことで、……人間は神さまに見放されつつあるんだ。もう、神さまは勇者さまと聖女さまをつかわさない。今いる人間でどうにかするしかないんだ。」
「それ、本当なの!?」
「ああ。俺もこの耳で聞いた。
だから国同士のくだらない争いで、英雄たちを取り合うことは避けたいんだ。」
「そっか……、そうなのね。それも最後とわかれば、特にそうなるでしょうね……。今回の作戦が失敗したら、もう後がないと、果たしてどれだけの国が理解出来るのかしら。」
「まあ難しいだろうな。神の言葉を聞けるわけじゃない。最後まで権利の主張をやめないだろうと考えている。神は救わない道すらも考えているんだ。王族の思う通りにしていたら、本当に人類が滅びてしまうだろうな。」
「だからね、僕と叔父さんは、英雄たちを隠しちゃおうと思ってるんだ。」
それを聞いたヒルデがギョッとする。
「バレたら逆賊扱いで捕まるわよ!?」
「だから手の届かない場所に行くつもりなんだ。僕のスキルはそれが出来るから。」
ヒルデが心配そうに眉を下げて叔父さんを見上げると、叔父さんは、俺もそのほうがいいと思っている、と頷いた。
「ヒルデと叔父さんには、すべての武器と7種類のレア度の武器を使って、レベル上げをしてもらうつもりでいるんだ。」
「すべての武器とレア度?」
「普通に経験値を上げても、スキル経験値はたまるんだけど、スキルと違う武器を使うとね、自分の経験値は半分になるけど、スキル経験値が100につき5たまるんだ。」
「だからレベルが上がりにくかったのね。
違う武器を使っていたから。」
「でもそのおかげで早く変化出来たんだ。」
「スキルの変化にはスキル経験値が必要だったんだ。スキル経験値だけを重視するのならそのほうがいい。まずはスキルを変化させること。自身のレベル上げはその後でいい。」
叔父さんがアドバイスをしてくれる。
「だがそれは今流通してるスクロールじゃ見ることは出来ないから、誰もこの秘密に気付かなかったんだろうな。」
「そうですね、スキル経験値なんてものがあるなんてこと、知りませんでした……。」
「険しい道のりだと思うが、ぜひ一緒に頑張ってほしい。」
叔父さんの言葉に少し目線を落として、拳を顎につけて考え込んでいたヒルデは、フッと顔を上げて、僕をジッと見つめた。
「アレックスは、この世界で英雄になれる人の中で、私を選んでくれたってことよね?オフィーリアさまよりも、誰よりも先に!」
「うん、そうだね。叔父さんとヒルデに、1番最初に英雄になって欲しいと思ってる。」
ヒルデは頬を染めて目を輝かせながら、
「なら私、頑張る!」
と言った。
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