第375話 自宅への誘い
「うん、ヒルデ、上級片手剣使いになったんでしょう?叔父さんが話を聞いてみたいって言ってるんだ。どうかな?」
「あ……。ラウマンさまが……、ラウマンさまがね?うん、そう、そうだよね。うん。
もちろん構わないわ。週末ね?」
ホッとしたような、ガッカリしたような表情を浮かべて、胸に手を当てながらヒルデが言う。今まで誘ったことがなかったし、緊張させてしまったかな?
家族がいる時に自宅に招くのって、貴族からすると社交の一貫なんだけど、平民はそうじゃないのかも知れないな。
「凄いわヒルデ!セオドア・ラウマン卿のご自宅にお招きいただけるなんて!
騎士科全員の憧れよ!?」
ヒルデの向かいに座っていた、ヒルデの友だちが、グッと両手の拳を握りしめて、半分立ち上がりかけながら、興奮した様子でヒルデに詰め寄っている。
「あ……、う、うん、そうね……。
私も嬉しいわ。」
友だちのあまりの勢いに困惑してるみたいだね。彼女も騎士科なのかな?
「ガルドさん、セオドア・ラウマン卿と知り合いなのか!?」
「どうしてあなたを誘うの!?」
周囲にいた人たちがヒルデを取り囲みだした。あれ、ここで言わないほうが良かったかな。叔父さんってそんなに有名人なの?
「い、以前一度お見かけして、お話させていただいたっていうだけよ。私もラウマンさまと同じ、片手剣使いなのに、双剣を使っているってことで、お話していただけたの。」
「えっ、じゃ、じゃあ、セオドア・ラウマン卿が、最初は剣聖じゃなかったっていう噂は本当なのか!?」
「中級ですらない、片手剣使いのスキル持ちだったと聞いたわ!」
「若い頃はずっと双剣を使っていたとも聞いたわ!それは本当のことだったの!?」
「ええ。私も最初は片手剣使いだったのよ?
だけど上級片手剣使いに変化したの。」
みんな騎士科の生徒たちなのかな?
叔父さんの話にずいぶんと食いついてる。
「どうやって!?
どうしてスキルが変化したんだ!?
俺も中級ですらない片手剣使いなんだ!」
「どうしてって言われても……。アレックスからもらった、リザードマンの灼熱の長剣のエピッククラスを使って、師匠2人に稽古をつけてもらったってだけのことよ?」
ヒルデはオフィーリア嬢の護衛である、ジャックさんとグレースさんに稽古をつけてもらっているんだよね。だから自然と長剣と斧の訓練をすることで、スキル変化の為の経験値をつめたってことだね。
スキルの変化に必要なのは、自分自身の経験値と、武器の種類ごとの使用経験値と、武器のクラス別の使用経験値だ。
本来のスキルと違う武器を使うことで、自分自身の経験値はたまりにくいけど、スキル経験値はその分たまりやすくなるんだ。
本来経験値100に対してスキル経験値が1のところ、違う武器を使うことで経験値は半分になるけど、スキル経験値が5もたまるんだ。スキルの変化を優先するなら、違う武器を使ったほうが効率はいいんだよね。
「リザードマン!?灼熱の長剣を使うとスキルが変化するってことなのか!?」
「灼熱の長剣にそんな隠し効果があるとは。
すぐに手に入れなくては……。」
「エピッククラスだから、そういう効果があるのかも知れないぞ!?灼熱の長剣のエピッククラスは数が少ないんだ!」
あれ、なんかおかしなことになってる。
「それはわからないわ。
たまたまかも知れないし……。」
効果の保証できないものを、ヒルデが言ったからってそれにすがられても、違った時に──まあ違うんだけど──なんの責任も取れないんだから、ヒルデも困るよね。
でも、人間がみんなスキルの変化に気がついて、努力してくれたら、英雄になれる人間の数が格段に上がるから、僕としては望ましい結果だ。問題はどうやって伝えるかだね。
正直、叔父さんとヒルデの結果だけじゃ、スキル変化を確立したものとして、各国に広めることは難しい。難癖をつけてくる人たちが、たくさん出ることだろうね。
ここにいるのが無知な学生たちだから、眉唾ものとも思われることにすがって、実験してみようと飛びついているけど、国策としてやらせようとしたら、もっとたくさんのモデルケースが必要だよ。
スキル変化自体、叔父さんしか前例のない状態で、ヒルデがようやくそれを、他にも可能性のあるものとして見せてくれたけど、キリカの情報を目の前に提示したら、誰がその功績を得るかに、大臣たちが必死になる。
今知らせたら、取り込もうとする動きに飲まれて、身動きが取れなくなっちゃうな。
僕の国を作って、対等にやり取り出来るようになるまでは、黙っておいたほうがいい。
【そうですね、私もそう思います。英雄が誕生したら、その時点でオトウサンもヒルデさんも、リシャーラ王国だけでなく、取り込もうとする国が現れるでしょう。
今はその時ではないと考えます。
ヒルデさんにも、国に来て貰えるように、説得したほうがいいと思います。】
「もしもし、お父さま?すぐに灼熱の長剣のエピッククラスを手配してちょうだい。」
「ああ、家令に指示してくれ、金に糸目はつけない、灼熱の長剣のエピッククラスをなんとしても我が家が手にするんだ!」
騎士科の生徒たちと思わしき人たちが、みんな通信具を使って、どこかに連絡をしているよ。お昼休みは使っていいことになっているとはいえ、みんなお昼ご飯そっちのけだ。
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ちなみに騎士科は、今日の午前中は剣の訓練で、午後から長距離持久走の授業です。
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