第360話 学園への誘い
そしてそれはその通りだった。ただし、
「婚約を前提としまして、アレックス・ラウマンさまには、ルカリア学園に通っていただきたいと王宮側では考えております。」
そして、カーリーは仕事上の名前で、カナリーさんが本名なのだと、そこで教わったのだった。レンジアが、彼女も王家の影だと言っていたから、任務上の偽名ってことだね。
だけど、カナリー嬢が王家の影であることは、僕には秘密にするつもりなのか、教えてはくれなった。まさか僕が既に聞かされているとは、思ってもみないんだろうな。
他の国の人となら、任務でってこともあるだろうけど、リシャーラ王国民かつ平民の僕との結婚が、王家の影の任務とは思えない。
僕との結婚は任務ってわけじゃなく、単純に表の顔の錬金術師カーリー・タイナー嬢の功績に対するご褒美ってことなんだろうな。
……ご褒美になるのかわからないけど。
「僕、婚約者がいるんですが。」
ひょっとしてそこを知らないのかな?
それを知って諦めてくれないかな?
「そこは聞き及んでおります。断られるのであれば、若返りの化粧品の功績により1代限りの爵位をさずけ、王命をかして結婚と考えているとだけお伝えさせていただきます。」
逃げられないよ!
「ですが、なぜ、僕をルカリア学園に?」
婚約を打診するだけなら、ルカリア学園に通う必要って、ないと思うんだけど。
「カナリーさまは、リシャーラ王国にとって有用かつ重要人物です。配偶者になられる方が一定の学業をおさめられていらっしゃらなかった場合、それを学んでいただく必要があることは事前に決まっておりました。」
「僕には、既に仕事があるのですが……。」
たくさんの人を雇っているし、僕にしか出来ない納品の問題だってあるから、それを放り出して学園になんて通えないよ。
「それも存じております。お若い身で王室御用達を得て、卸商人の立場にまで登りつめられた。それを邪魔するつもりはございません。
ですので、週に2日ないし、3日ほど通っていただき、あとは自宅学習でレポートを提出いただければ結構です。」
うむむ……。
「それはお相手が貴族であった場合も同様です。ルカリア学園は我が国いちの学校です。
そこで一定の結果を出す必要があります。
それが結婚の条件です。」
「一定の結果とは?」
「学年で10位以内に常にお入りいただく必要がございますね。」
「入れなかったらどうなるんですか?」
「もちろん、このお話はなかったことになりますね。残念ですが。」
──!!なら、そうならないようにすればいいだけだ!むしろ角が立たずに断れるよ!
「ですが──。」
使いの方が声を落とす。
「あなたさまが元、キャベンディッシュ侯爵家の後継者であることは調べがついております。本来ルカリア学園に通う筈であったお立場を、かの方は憂いております。」
かの方……。
オフィーリア嬢の大祖母さまのことかな?
そこからの打診らしいからね。
「そのお心遣いでもあるのです。その為費用等は全額国が負担させていただきます。
かの方のお心遣いを、ゆめゆめ裏切らぬよう。元高位貴族であるあなたさまであれば、それはじゅうぶんおわかりでしょうが。」
「はい……。」
痛いところをついてくるなあ。僕は既に平民とはいえ、貴族の感覚が染み付いている。
王族が心遣いをしたものを、むやみやたらに拒絶は出来ない。それが家族に及ぼす影響をわかっているから。キャベンディッシュ侯爵家を人質に取られたようなものだよ。
【なら、オニイチャンが、リシャーラ王国民でなくなればよいのでは?】
キリカが突然話しかけてくる。
え?どういうこと?
【オニイチャンがリシャーラ王国民だからこそ、無理やり貴族にさせられる可能性も、キャベンディッシュ侯爵家をたてに脅されるはめにもなるんです。
だったらいっそのこと、リシャーラ王国を出て、別の国の人間になればよいのです。】
僕に亡命しろってこと?だけど、リシャーラ王国からその有用性を問われて、ザックスさんの時みたく、僕が亡命した国が、リシャーラ王国から抗議されるだけになるんじゃ?
【オニイチャンの国を作ればいいんですよ。
その国の国王になってしまえば、他国の王さまを無理やり結婚させることは出来ませんからね。亡命でなく、独立です。】
え!?ど、どうやって!?
【オニイチャンは、スキルで土地も国も作れるじゃないですか。バルヒュモイ王国の時のように、土地がないところに、国を作ってしまえばよいのです。公爵家が独立して公国を作るのと同じことですよ。】
キリカは凄いことを考えるなあ……。
でも、こうも周りをかためられてると、そうする他ないかもね?
よし、僕だけの国を作ろう!
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コメント返しで予告していた、いずれ学園に通えないことについて、意見する人が出て来る、というのがこれですね。
ちなみにキャベンディッシュ侯爵家とのつながりは、この使者が王家の影絡みだから知っているのであって、大臣らは知りません。
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