第359話 待っていた人

 リリーフィア王女は、自宅も同じように歌声で支払おうとしたのだけど、さすがにそれは大家さんが近くにいなくて無理だった。


 代わりに不動産屋さんが、大家さんに魔法の手紙を飛ばしてくれて、かなり破格の家賃になるようかけあってくれた。


「うん!まーまーね!」

 リリーフィア王女が選んだ部屋は、割と新しめで、とても明るく光が差し込んでいた。


 2階建てで、ご近所さんは冒険者や、町で働く女性ばかりで、近くに役人の詰め所なんかもあって、若い女性の一人暮らしにオススメとのことだった。


 ご近所さんに冒険者がいて、役人の詰め所まで近くにあったら、可愛い女の子が住んでいるからって、そうそう不埒なことを考える人はいないかもね。


 キッチンとトイレは共同で、その分1人1人の部屋が広く取られている。清掃の人が来るそうだから、支払いが月に1回ってこと以外は、宿屋とあまり変わらない作りかもね。


 生活に必要なものは、おいおい買い揃えていくことにして、必要最低限のものだけ、先に注文して届けてもらうことになっている。


「明日からは普通の勤務体系になるので、よろしくお願いしますね?」

「任せておいてよ、ああいうのは得意なの。

 ちゃんと戦力になってみせるわ。」


「拝見させていただいた限り、そこは心配してないのでだいじょうぶです。」

 と僕は笑った。


 問題はこの先、リリーフィア王女がいることで、何かしらの問題にならないかってことなんだよね。王女さまをこんなところで、そうと知ってて働かせるのは、ちょっと怖い。


 リリーフィア王女が町を案内して欲しいと言うので、すべての手続きを終えた僕は、アタモの町を案内することにした。


 一緒に買い食いをしながら、冒険者ギルドの前を通ると、クエスト帰りのヒルデとオフィーリア嬢たちと出くわした。ジャックさんとグレースさんも血で汚れている。


 今日もかなり頑張ったんだろうな。先日のお茶会で、ヒルデはついにBランクに上がったと教えてくれた。オフィーリア嬢たちも、全員がDランクになったらしい。


 ……早すぎない?

 僕もDランクではあるけど、アイテムボックスの海から出した素材を納品したことで、強制的に引き上げたものだからね。


 実力でのし上がったオフィーリア嬢たちとは、雲泥の差だ。実際の実力は、スキルをのぞけばFランクもないだろうな。

 さすが英雄候補なだけはあるよね。


 そこを考えると、ミーニャのBランクは驚異的だね。もうすぐAランクに手が届くとキリカが言っていたし、僕の加護があれば、叔父さんすら抜いちゃうんじゃ?


「あら?アレックス。」

「アレックスさま。ご機嫌麗しゅう。」

「こんにちは、オフィーリア嬢、ヒルデ。

 ジャックさんにグレースさんも。」


「従者のわたくしどもにまで、ご挨拶いたみいります。」

 ジャックさんとグレースさんが、深々と頭を下げてくる。


「やめてください!僕はもう平民なので!」

 僕が慌てて制すると、

「アレックスさま、ついに貴族籍から抜けてしまわれたのですね……。」


 と、オフィーリア嬢が悲しそうになる。僕が貴族のままなら、双方の両親さえ許せば、また婚約者に戻る可能性があったからね。

 そこは少し申し訳なくなる。


 だけどこればっかりはどうしようもない。

「ねえ、紹介してくれないの?」

 僕の横のリリーフィア王女を見て、ヒルデがそう聞いてくる。


 僕はリリーフィア王女を、うちの新しい従業員のフィアさんだと紹介した。

「そう、従業員なの。またアレックスが新しい女の子連れてる、と思ったけど。」


「またって……。僕はいつも1人だよ?」

「そうかしら?」

 ヒルデが面白くなさそうな表情で、ジト目で僕を見つめてくる。


「そうですわね、とてもお美しい方なので、わたくしも気になっておりました。

 アレックスさまは常に女性に囲まれていらっしゃる方なので……。」


「オフィーリア嬢まで、そんな風に僕のことを見ていらっしゃったんですか?」

「貴族の集まりでも、わたくしが少し席を外すと、すぐ女性に囲まれていらしたもの。」


「そうでしたっけ?同年代の方たちと、いろいろお話はしていましたけど……。

 僕はオフィーリア嬢の印象しか残っていないので、よく覚えていないですね。」


 僕がそう言うと、オフィーリア嬢は嬉しそうに頬を染めてうつむいた。

「またお茶会にお誘いいたしますわ。

 ぜひいらしてくださいね。」


「はい、ぜひ。」

 元婚約者だけど、幼馴染かつ、昔の僕を知っている数少ない人だからね。無下にも出来ないし、昔話は僕も楽しい。楽しみだな。


 オフィーリア嬢たちと別れて、自宅に帰った僕を、叔父さんが、客が来てるぞ、とダイニングキッチンにうながした。

 お客さん?


 待っていたのは王宮からの書状をたずさえた、使いの人だった。王宮からと聞いて、僕は思わずギョッとする。

 まさか、カーリー嬢との婚約の打診!?


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