第358話 人魚の歌声

 わかったよ、人造人間は作るけど、でも、そんなに遊んではあげられないよ?ネプレイースが神さまとしての仕事があるように、僕だって仕事も使命もあるんだから。


【うん……。1回遊んでくれたら我慢する。

 だからイイコイイコして。】


 撫でて欲しいの?


【人間はしてもらうと聞いた。神は親子といえども同じ神同士。生まれた時点で対等ぞ。

 一人前の神に、そのような扱いはせぬ。】


 そういうものなんだね。

 いいよ、わかった。撫でてあげる。


 僕がそう言うと、


【はようせよ。楽しみにしておるぞ!】


 と嬉しそうな声が聞こえた。

 リアムよりもちっちゃい感じなのかな?

 僕より先に生まれたと言っていたけど、子どもで生まれて大人になれない体なのかな。


 生まれた時点で一人前の神さまとして扱われるのなら、親に甘えたりしたことがなかったのかな?僕も父さまに甘えた記憶はないから、さびしいのはちょっとわかるよ。


 当主候補として初めから扱われて、僕は甘えることを許してもらえなかったから。

 僕がキリカにしてるみたいに、自分もして欲しくなったのかもね。


 出来るだけ早く体を作ってあげようっと。


 じゃあ忙しいからもう切るね。体が出来たら僕から連絡するから。


【うむ。】


 ネプレイースとの通信を終えた途端、


【オニイチャン、私にはしてくれないんですか?】


 キリカが僕に拗ねたような声を出す。


 え?なにを?


【イイコイイコです。ネプレイースばかりずるいです。私にもしてくれたことないのに。

 会ったこともない姪っ子よりも、妹のほうを人間は大切にするものでしょう?


 私にもイイコイイコしてください。

 ──ネプレイースよりも先に。あの子の後は嫌です。私だって母さまにしてもらったこと、ないのに、あの子が先にオニイチャンに撫でてもらうなんて、ずるいです。】


 そっか……。僕は母さまにはしてもらったことがあるからな。いいよ、仕事が終わったら、キリカに先にイイコイイコしてあげる。


【約束ですよ?】


 すっかり機嫌が直ったようだ。僕はスウォン皇国の次にエザリス王国に向かって、魚の納品をしていると、国中が国王の結婚に盛り上がっている声が聞こえてくる。


 へええ、ルカンタ王国の第3王子が王配になるんだね。これで大国の後ろ盾がつくことになるから、簡単に手出しも出来なければ、失われた大地だなんて呼ぶ人もいなくなる。


 なんせダムから聖水が流れるようになっちゃったからなあ。狙われるかもって心配してたけど、これならだいじょうぶそうだね。


 ルカンタ王国は自ら戦争をしかける国ではないけど、豊富な資源を狙われて、過去に何度も戦争をしかけられた歴史から、自衛の為に国軍を強くした軍事大国だ。


 今では、強くなったルカンタ王国を狙う国なんてないし、強くなっても他国に戦争をしかけるようなこともない。


 アジャリベさま──母さまの熱心な信者の多い国で、差別の少ない国だと聞いている。

 移民こそ少ないけど、亜人も、他の国から移り住む人も多い、穏やかな国なんだって。


 いいところと縁を結べたね。

 そういう歴史のあるルカンタ王国の王族なら、悪いようにはしないだろうし、エザリス王国はもうだいじょうぶだね。


 リシャーラ王国に戻ると、僕はリリーフィア王女に早めに仕事を切り上げてもらって、彼女の家と洋服を探しに一緒に町を出た。


 彼女に支払う賃金から先払いという形だ。

 女の子の洋服とか、よくわからないしね。

 服を選んでお会計しようとした時だった。

「いいわよ。ここは支払うわ。」


「あ、リシャーラ王国は、珊瑚や真珠で支払いは出来ないので、一度商業ギルドで買い取ってもらって、お金にしてからでないと。」


 僕は彼女が宝石を出そうとしてるんだと思って、彼女を商業ギルドに連れて行こうとしたんだけど。


「そんなもの、持ってないわ。

 私はいつもこれよ。」

 そう言って突然歌い出した!


 ルリームゥは人魚の歌声でも支払うと、キリカが教えてくれたけど、……これは凄い!

 古着屋の店主さんをはじめとする、たくさんの人たちがボロボロ泣いている。


 ……あれっ?

 僕も思わず泣いていた。なんだろう、故郷にいるのに、なぜだか帰りたくなったよ。

 リアムに会って今すぐ抱きしめたい。


 胸を締め付けるような、切ない気持ちにさせられる、とても美しい歌声だった。

「お嬢さん、とってもキレイな声だねえ。これはこっちがお金を払わなくちゃだよ。」


「支払いはこれでいいかしら?」

「ああ、もちろんさ!」

「ほら、買えたでしょ?

 さ、家を探しましょ!」

 リリーフィア王女はニッコリと微笑んだ。


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