第355話 水面に浮かぶ水着

 若返りの化粧品って、僕がカーリー嬢と開発した化粧品だけど……。ということは、国1番の錬金術師って、カーリー嬢のことか。


 腕がいいとは思っていたけど、まさか国1番だったなんて!それで王太子と結婚とか、凄いなあ。前にオフィーリア嬢に結婚を申し込んでいたけど、それに匹敵するくらい、カーリー嬢の功績が凄いってことだね。


「若返りの化粧品を共同開発された方を、結婚相手に望まれたのですって!直接思いを告げられないから、褒美として打診することにされたのだそうですわ。ロマンですわね。」


「確かに、王族と関わりも持てますし、平民からしたらこれ以上ない結婚ですね。

 お相手の男性が立身出世を望むのであればなおのことだわ。」


 オフィーリア嬢とヒルデが楽しそうに会話している横で、ダラダラと汗をかく僕。

 待って。カーリー嬢と化粧品を共同開発したのって……、それ、僕だよね?


 聞いてない!そんな話聞いてない!カーリー嬢って、僕のことが好きだったの!?

 えええええ!?


 もしも僕が貴族のままだったら、カーリー嬢に1代限りの貴族籍を与えるか、いい感じの貴族のところに養女に入らせて──これが1番妥当かな──貴族にして、王命として強制的に結婚させられていただろうな。


 けど、僕は今既に平民だから、その手を使うことは出来ない。貴族籍抜くの間に合ってよかったあ……。けど、問題はある。


 王族に命令として結婚を強制された場合、貴族と違ってそれに従う義務もないけど、王族に睨まれるということにもなって、商売をする僕の立場からするとかなりやりづらい。


 ましてや僕の王室御用達は、カーリー嬢によってもたらされたものだ。その1番の功労者との結婚を、王族から打診されたのに拒否したら、どうなってしまうんだろうか。


 それにいくら僕がミーニャと婚約してると言ったって、所詮は平民同士の口約束だ。

 貴族のように、王族に許可を貰って書類を交わし、正式に婚約してるわけじゃない。


 だからやりようによっては、いくらでも僕とミーニャを引き裂くことが、可能といえば可能と言える。はあ……、なんで僕?


 会うたび仕事と虫の話をしてただけで、デートにすら行ったことがないのに……。

 そんな素振りあったかな?


「それって本決まりなのですか?」

「少なくともわたくしの耳に届く時点で、本決まりにするように、動いているのだと思われますわ。お幸せでよいことですね。」


 いや!全然良くないからね?幸せな夫婦がまた1つ生まれるものとして、ロマンスを楽しんでいるオフィーリア嬢に心で叫ぶ。


 まさかその相手が僕だとは思っていないんだろうな。オフィーリア嬢は僕と寄りを戻したがっているから知ったらどうするんだろ。


 今はまだ何も聞いていないけど、そのうち打診が来るんだろうな。

 僕より先にオフィーリア嬢の耳に届いたのは、貴族間ネットワークがあるからだろう。


 いくら王族の血を引いていて、オフィーリア嬢が大祖母さまに可愛がられていると言っても、頻繁に王宮に呼ばれて、大祖母さまとお茶会してるってわけじゃあないからね。


 王宮といえども、筆頭侍女ともなると、そういった秘密は漏らさないけど、普通の下女あたりになってくると、簡単に他の貴族の下女とのおしゃべりで話してしまうんだよね。


 そういうのは、回り回って別の貴族の耳に入り、そこから更に貴族の間で伝わっていくことになるんだ。あえて他家のメイドとかと仲良くさせて、探る貴族もたくさんいるね。


 これ、オフィーリア嬢に、相手は僕だって話したほうがいいだろうか。大祖母さまに取りなしてくれるかも知れないな。


 だけど、オフィーリア嬢が僕と結婚したいから、それはやめてくれと言われてしまったら、今度はオフィーリア嬢との結婚話が持ち上がってしまうかも知れない。


 それはまずい。非常にまずい。

 どうするのが1番いいのかわからずに、僕は2人の会話に曖昧に相槌をうった。


 お茶会帰りに、ザックスさんが料理長兼店長をしてくれている店に立ち寄った。

 お客様次第では素材が足りないことと、次の日の仕込みの為の納品目的だね。


 野菜はラナおばさんのところから仕入れさせて貰ってる。それと指定された魚の他に、ザックスさんの希望で、何が出てくるかわからないやり方で素材を提供もしているんだ。


 初めて使う魚介類が出てくることもあったりして、ザックスさん的にはそれが楽しいんだそう。レグリオ王国なら市場を巡って、変わったものを見て選べるけど、リシャーラ王国だとそれが出来ないからその代わりだね。


 何が出るかわからないから、店の奥に水槽を用意して、そこにドチャッとエリアを指定した海の中のものを出すんだ。


「今日はどのあたりにしますか?」

「うーん、ナムチャベト王国あたりどうですか?なんか近くにドラゴンの国が復活したとかで、活気づいてますよね。」


「そうですね。じゃあ、バルヒュモイ王国とナムチャベト王国の間くらいにしてみましょうか。リニオンさんが美味しい魚が採れるって言ってましたし。」


 ザックスさんは奴隷紋が消えたあとで、改めて僕の秘密をバラさないことを目的とした魔法の契約書を結んでくれた。


 奴隷のままだと思っていたから、僕の能力を話してしまっていたんだよね。仕入れの都合上、知ってて貰ったほうが良かったから。


 だから普通にザックスさんの前で能力を使っている。僕は海域を指定して、水槽の中に海中の中身を一気に放出した。

「きゃあっ!?」


 バシャーン!という音と共に、巨大な魚が水槽の中に飛び込んで、飛沫をあげる。水槽に飛び込んだ勢いで、外れてしまったのだろう、水着の胸元が水面に浮かんでいた。


「な、なによここ……。」

 僕とザックスさんの前に現れたのは、大っきなオッパイを丸出しにした下半身が魚の見た目の、水色の髪の毛をした美少女だった。


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