第354話 お茶会の誘い

「ようこそお越しくださいました。

 どうぞ。こじんまりしておりますけれど。

 調度品は気に入っておりますの。」

「は、はひっ。」


「落ち着いて、ヒルデ。本日はお招きいただきありがとうございます。」

 今日、僕とヒルデは、オフィーリア嬢の自宅に招かれていた。


 自宅と言っても王都近くの本宅じゃなく、オフィーリア嬢が僕の村の近くのアタモの町に借りた家だ。


 オフィーリア嬢と、従者のジャックさんとグレースさんの、冒険者の稼ぎだけで、この家の家賃て支払えるものなのかな?


 調度品まで含めると、絶対オーウェンズ伯爵家から出てると思うんだけど……。

 オーウェンズ伯爵は、娘が家出どころかこんなところに家まで借りて平気なのかな?


 あの人なら連れ戻しそうなものだけど、ジャックさんやグレースさんがいるから、安心してるのかな?それか、ジャックさんとグレースさんが、連れ戻すのを邪魔してるとか?


 少し話してみて思ったけど、あの2人ってオーウェンズ伯爵のこと、嫌ってるよね。

 まあ、僕も苦手だけど……。


 義理の父親があの人にならなくて、ほんとに良かったなって思う程度には……。

 なんか僕のこと、嫌っているような気がしたんだよね。気のせいかもだけど。


「これ、お土産の紅茶です。今年のアシサカ産はよい出来とのことで。」

「まあ、嬉しいですわ。ではこちらも後ほどお出しいたしましょうね。」


 女性の主催するお茶会に招かれた場合は、ちょっとしたお土産を持参するというのが、貴族の間ではマナーというかルールなんだ。


 公爵令嬢とか王女さまに誘われたお茶会だと、お土産もちょっとしたもの、というわけにはいかないらしいけど。


 まあ、取り入ろうとしているから、その分いいものを贈ろうとしているってだけで、別に紅茶やお菓子で全然構わない筈だけどね。


 僕はもう貴族じゃないけど、オフィーリア嬢は貴族だからね。手土産を持参した僕に、何も持って来ていないことに焦った様子のヒルデが、チラチラと僕を見ている。


「ヒルデは平民なんだから、貴族間のルールなんて知らないだろうし、別にお土産を持参しなくても問題ないと思うよ?」


 僕も事前にヒルデが来ることを知っていれば、そういうマナーがあることを伝えることくらいは出来るけど、お茶会に誰が来るのかなんて、基本わからないからね。


 王族派の誰々伯爵婦人のお誘いということは、来るメンツはあのあたりだな、とか、中立派の誰々侯爵令嬢のお誘いということは、来るメンツは……とか推測をたてる感じだ。


 もちろん前回のお茶会で誘われていれば、具体的に誰なのかもわかるし、事前に誰が参加するって、言われることもあるけどね。


 男性を誘うお茶会って、女性だけで開催するものと比べて、圧倒的に回数が少ないからね。僕もそんなに詳しくはないんだけど。


 今日、ミルドレッドさんは、僕に認識阻害の単体魔法をかけて、ミーニャを育成しに王都に出かけているんだ。


 認識阻害の単体魔法は、隠密と違って、そこにいるもの、として目を凝らすと、相手に通じない魔法だから、僕が声をかけて、僕がいるものとしてそこを見た2人には、僕のことがちゃんと見えているっていうわけだ。


 これが広域魔法ともなると、その場所そのものを隠すことになるから、僕がその場所にいる限りいないものとされるけど、一歩でも範囲から出ると見つかっちゃう。

 そういう違いがあるね。


 叔父さんは畑仕事、レンジアは隠密をかけて僕について来ている。キリカのことは、僕に本来妹がいなかったことを知っているオフィーリア嬢に内緒にする為、置いてきてる。


 キリカが人造人間と意識をつないでいないから、まさに置いてきている、だね。

 人形のように、時空の海のアイテムボックスの中に、体を置いてあるんだ。


 本当は、キリカに女の子の友だちをつくってあげたいけど……。キリカと僕の関係を説明出来ない限り、どこからキリカが神さまって漏れるかもわからないしねえ。


 常に僕を見張ってるレンジアや、契約を結んで使役しているミルドレッドさんやリニオンさんは、ばらせないから問題ないけど。


 肝心のキリカはと言えば、僕がいればそれでいいし、姉さまたちも後ろでうるさいから問題ありません、と言っていたけどね。


「そう言えばご存知ですか?

 国1番の錬金術師と噂の方が、大祖母に結婚相手を願ったそうですわ。」


「オフィーリア嬢の大祖母さまと言うと、先代国王の母君さまですよね?

 この国で最も権力を持つという……。」


「本来であれば、皇后は力をあまり持ちませんけれど、大祖母は先代さまが国をおさめるまで、一時期国をおさめていた時期がありましたので……。未だに持っている仕事があるのです。だから力があるのですけれど、最もというのは語弊ですわね。先代さまも現国王も、頭が上がらないと言うだけですわ。」


 そういうのを力があると言うんだと思う。

「彼女が望めば王太子であっても婿に取らせると、大祖母が確約したそうなのです。」

「へえ、何を開発されたのですか?」


「なんでも各国で爆発的に売れている、若返りの化粧品というのを開発したそうですわ。

 わたくしも使っておりますのよ。」

 ──ん?

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