第三章

魚人の国

第353話 海洋要塞国家ルリームゥ

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 ナムチャベト王国とバルヒュモイ王国から離れた海底深いところに、一見巨大な岩礁の集まりがあった。大小様々な岩礁が連なり、この海底の景観をなしている。


 ビックシースネークはその一角で休息をとっているようだった。その周囲には無数のシースネークがとぐろを巻いている。


 ふと、ビックシースネークが動いた。岩礁から海中へと移動していく。その後を追い、シースネークも水中を移動してゆく。


 その岩礁の集まりの中に、大陸規模の巨大な洞窟がある。洞穴の入り口には、よく見るとそうと分かる、よく見なければ岩のような形の、海神ネプレイースを象った像がある。


 その岩礁の奥は、海中に建設された巨大要塞なのである。ここは海洋要塞国家、ルリームゥ。人間の国とはあまり交流を持たない海の亜人──魚人の住まう国である。


 海神ネプレイースを守護神とする国家だけあって、巨大要塞の至るところに、ネプレイースを象った彫刻が見受けられる。


 また、更にその奥の海底神殿とも言うべき通路は、煌めく宝石のようなもので、内部を明るく照らしている。


 そしてこの海底神殿には、酸素のある場所が少なかった。海中を自在に移動し、まるで地上を闊歩するマーマンと、変わらぬ生活を営む魚人も多く見受けられた。


 そんな海中に存在する国家のためか、商店や酒場なども、巨大な二枚貝の貝殻を使用している場所も多い。


 魔物からしか得られない巨大な貝殻は、非常に手に入りにくい為、彼らの財力を示すのには最も効果的なもののひとつだ。


 通貨も珊瑚や真珠などの、海産物に由来する宝石や、人魚の歌が使用されている。きらびやかで美しく、幻想的な国家だ。


 巨大なクラーケンすらも蹂躙すると言われる、ロフマオ・ヤソ・モノノフ国王のもと、国民たちは平和な暮らしをしていた。

 

 そして海底神殿の大広間の奥、一段高い玉座に、ひとりの魚人が腰を下ろしていた。

 上半身は人間だが、ギザギザとした歯を持っており、下半身がサメの人魚のような姿。


 彼は海洋要塞国家ルリームゥ国王──ロフマオ・ヤソ・モノノフである。

 人間からすれば異形のその姿には、威厳と気品があった。


 ロフマオ王の前には円卓があり、魚人が大勢集まっていた。戦士のような姿の者も、文官のような者の姿も、ちらほらと見られる。


 その姿はさまざまで、人間に似た姿の者から、ロフマオ王のように、頭もほとんど魚類で、ヒレのような手足を持つ者までいる。


 ドリルのような角を持つ頭で、身長が3メートル近い戦士が口を開いた。

「調べさせたところ、どうやらバルヒュモイ王国が復活したようです。」


 それを聞いた者たちがザワザワとする。

「大陸ごと消してやったというのに……。

 どうやって復活したというのだ。」


「その大陸が、どうやら復活したようなのです。もともとあった場所と同じところに大陸が新たに出来、そこにバルヒュモイ王国を復活させたようなのです。」


「現に、その大陸に上陸して、バルヒュモイ王国復活を確認した者がおります。」

 それを聞いてざわめきが大きくなる。


「バカな……。」

「あの大陸は我が国で破壊したはずだぞ。」

「それをどうして……。」


 ロフマオ王が立ち上がった。

「静まれ!」

 威厳に満ちた声で言うと、一瞬にして皆がピタッと静まり返った。


 ロフマオ王は言葉を続けた。

「にわかには信じられんな……。

 海底火山が噴火したか、あるいは地底の竜脈をも貫くような巨大な塔でも立ったのか?

 そんな振動は感じなかったが。」


 海底火山が噴火すれば、もっとも近いところにある、海洋要塞国家ルリームゥに影響がない筈がなかった。


「……いずれにせよ、何故バルヒュモイ王国だけが復活できたのだ?ザカーロ王国も、シーオ首長国連邦も、スニング王国も、パクラヴァ王国も消えたままだというのに。」


「理由は分かりません。ただ、これは我が国にとっては好機です。今あらためてバルヒュモイ王国を攻め滅ぼせば、大陸も我がものにできるやもしれません。」


「そうなると良いがな。」

 ロフマオ王は含みのある口調で言った。

「あの時も、大陸を消せたことでドラゴンたちが消えただけだということを忘れるな。」


 魚人たちは目線を落とし押し黙った。

 バルヒュモイ王国との戦いは、決着がついたわけではないことを思い出す。


「バルヒュモイ王国を攻めるのと同時に、海底の調査をした方が良いのではないでしょうか?また大陸を崩せるやも知れませぬ。」

 別の魚人が発言する。

 しかしロフマオ王はかぶりを振った。


「いや、今は海洋資源の確保が優先だ。

 海底火山の噴火がおきたのだとすれば海が荒れ、生態系が崩れている筈。

 バルヒュモイ王国はそれからだ。」


「しかし……何か手を打ちませんと……。」

 ロフマオ王は椅子から立ち上がると、右手を前に突き出した。すると手から水流が発生して大広間の円卓へと真っ直ぐに進む。


 水流は渦となり、円卓を囲む魚人たちをグルグルと回転させて、別の席へと座らせた。

「心配いらぬ。バルヒュモイ王国などいつでも倒して見せようぞ。──このわしがな。」


 そこへ突然兵士が飛び込んで来る。

「リリィーフィア王女が、姿を消しました!

 申し訳ありません!」


「なんだと!?

 外はビックシースネークがうろついているから、部屋にいるよう申し付けた筈だ!!」


「それが……。護衛もつけずに飛び出してしまったらしく……。ビックシースネークが要塞から急に離れました。恐らくリリィーフィア王女を追って行ったものと……。」


「誰か!リリィーフィアを連れ戻すのだ!

 連れ戻したものには、どんな褒美でもやろう!リリィーフィア自身であってもな!」


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お待たせしました。

書き立てのほやほやです。

本日より新章突入。

コメント返しで予告していた、人魚のいる国の登場です!

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