第356話 マーメイドプリンセス
呆然として、その光景を眺める、僕とザックスさん。高い魔力保持者であることを示す金色の目に、少し癖のある水色の髪。
──あ、目が合った。
「ちょっと、ここはどこ?あんたたち誰よ。
さっきまでビッグシースネークから逃げてた筈なのに……。」
「ここはリシャーラ王国で、アタモという町の、リュウメンと魚料理の店だ。
あんたこそなんなんだ。」
突然現れた人魚に、おくすることなくザックスさんが尋ねる。オッパイ丸だしなのに、気にならないのかな?
僕は顔を背けながら、水槽の水面に浮かんだ、彼女の水着を指さして、あの……。と言った。それに気がついて、真っ赤な顔をして水着を掴むと、慌てて身につけた。
「リシャーラ王国?聞いたことないわね。」
人魚の女の子が、平静を装いつつそう言った。けど、顔は真っ赤なままだ。
うちはそれなりに大国なんだけどな。
知らないってことは、リシャーラ王国とは関わりのない、亜人の国の人かな?
アタモの町には獣人もいるけど、王都近くだと見かけないし、話題にもあがらない。
貴族はあまり獣人にかかわらない国だからね、知らないのも無理はないかも。
なんでここに出たのかは、僕のスキルを説明出来ないから、僕らもよくわからないような顔をするしかない。
そんな気配なかったけど、空気の渦にでも巻き込まれたのかしら……、と、女の子は1人納得している。空気の渦って、海に突然出来る、別の場所に飛ばされるゲートだよね。
「僕はアレックス・ラウマンと言います。
お名前をお伺いしても?」
「ルリームゥ王国の第5王女、リリーフィア・アクタ・モノノフよ。」
キリカ!ルリームゥ王国ってどこ?
【回答、バルヒュモイ王国の先の海の底にある、魚人の国です。美しいものに価値があるとされ、真珠や珊瑚が貨幣として扱われ、人魚の歌声でも支払いを行うことが可能です。
過去にはバルヒュモイ王国と長年戦争をしていたことがあり、バルヒュモイ王国の大陸が失われたのは、ルリームゥ王国の攻撃によるものです。】
リニオンさんたちが国を失った理由が、ルリームゥ王国の攻撃によるものなの!?
戦闘的な種族なのかなあ……。
僕は警戒しながら女の子に話しかけた。
「リリーフィア王女、お目にかかれて光栄です。先ほどビッグシースネークに追われて逃げていたとおっしゃられていましたが、護衛の方々はいかがなされたのでしょうか?」
一緒に逃げていたのなら、今すぐその人たちも救い出さないと!
「私1人よ?家出してきたんだもの。」
「家出!?」
王女さまが?それにしても、第5王女って、家族多いんだなあ。
王族は男児を産む為にたくさん子どもを作るけど、なかなか生まれなかったのかな?
「またどうして家出など……。」
「私は自由に外の世界を見て回りたいのに、お父さまが駄目って言うんだもの。」
お父さんも過保護みたいだけど、この王女さまもかなりお転婆みたいだな。
「ねえ!ここってルリームゥから遠いの?」
「ナムチャベト王国までは、普通の船でひと月半はかかりますから、そこから更に離れた国ですと、かなり遠いですね。」
「ナムチャベト王国は知ってるわ!
竜人が多く住んでいる国よね?良かった!
ねえ!あなたここの人よね?
私をここで雇ってくれない?」
「ええ!?お、王女さまをですか?
王女さまが平民の仕事だなんて……。
それに、王女さまのそのお体じゃ、僕らと同じ仕事は難しいかと……。」
「ああ、体のこと?
これなら問題ないでしょ?」
そう言った途端、リリーフィア王女の体が光に包まれて思わず目を閉じる。
光が消えて目を開けると、水層の中で揺らめく2本の足。人間と同じ姿だ。
「これなら問題ないでしょ?」
ニッコリと微笑むその姿は……。水着の上だけ身につけて、下半身すっぽんぽんだ。
「ちょ、ちょっと!隠してください!」
み、見ちゃったじゃないかあ!
「なによ、なにが問題なの?」
そう言って水層から上がってこようとすることで、更に奥のほうまで見えそうになる。
胸は恥ずかしいのに下半身は平気なの!?
もともと魚の部分だったから気にならないのかな。こっちのほうが強烈だよ!
ザックスさんが奥に引っ込んで、タオルを何枚かと、従業員用の制服を持って戻って来ると、リリーフィア王女に手渡した。
「ほら、これを着ろ。」
あんな可愛い女の子の、あんな部分を目のあたりにしたっていうのに、まったく動揺する素振りがないよ。大人だなあ……。
リリーフィア王女は、ウエイトレスの制服を身につけて、うん、まあまあね、なんて言って、クルリと回っている。ホワイトブリムがとっても似合っているよ。
「それで?雇ってくれるの?くれないの?」
「王女さまを雇うのはちょっと……。」
「雇ってくれなきゃ、私お父さまに、あなたに乱暴されましたって言うわ。」
「えええ!?」
「お父さまは私のことを可愛がってるし、短気で私のこととなると、人の話を聞かない人よ?どうなっても知らないから。」
うう……。国際問題になるのは困るよ。
「わかりした。雇わせていただきます。」
「あ、家も用意してね?あー楽しみっ!」
なんて横暴な王女さまなんだ……。
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