第347話 加護の得られる店の秘密・その2

「ザックス・ヴァーレン……?

 この者が関係しているというのか?

 元は我が国の犯罪奴隷、だと?」


「はい、もとは我が国1番の店の、オーナーシェフをしていた男です。見た目もかなり麗しい男で、そちら方面でも人気だったようですね。犯罪奴隷になった際に、性奴隷としてかなりの高値がつけられていたようです。」


 それを聞いた大臣の1人がニヤニヤしだした。この国も男娼を扱う娼館が多数あるが、そこに出入りしていると噂される、かなり好き者の大臣である。


「お手元の資料にあります通り、リシャーラ王国の加護を授ける店は、ザックス・ヴァーレンが料理長をしているレストランであるということがわかりました。」


「我が国で奴隷として購入し、リシャーラ王国に連れて行ったということか。確かに奴隷であれば、我が国の人材を断りなく連れ出すことは可能ではあるが……。」


「はい。そして我が国のレストランで加護が与えられるという評判の料理はすべて、以前ザックス・ヴァーレンが、オーナーシェフだった際に作られていたメニューを、引き継いで作っていたものばかりだったのです。」


「なんと……!」

 大臣たちがザワザワしだす。

「つまり我が国のレストランは、ザックス・ヴァーレンによって加護を与えることが可能な店になったということか!」


「其奴はなぜ犯罪奴隷になどなったのだ?」

「生魚を販売してはいけないという法律を知らなかったようです。貴族に提供したことで命を脅かしたとして捕縛にいたりました。」


「それは致し方ないな……。」

「毒を提供しているようなものだ。そんなことがなければ、ザックス・ヴァーレンは今も我が国の財産であったのに……。」


「ですが今リシャーラ王国では、薬師と錬金術師の力により、生魚の安全な料理法を確立したとして、提供しているのです。」

「なんだと?」


「また我が国のレストランとは違い、ザックス・ヴァーレンの店で、好きなメニューを2つ以上頼んで食べると、その9つの加護の中から好きな加護を2つ以上選んでつけられると評判なのです。」


「好きな加護が選べる、だと?」

「はい。どの料理を頼んでもよく、つけたい数だけ料理を食べればよいのです。ただし2つ以上食べる必要があります。

 2つ以上であれば、3つでも4つでもつけられるようです。クエストを受けた後の冒険者が立ち寄って食べているようです。」


「ある程度値段はしますが、その分狩りが楽になるとのことで、出発を遅らせてでもザックス・ヴァーレンの店に立ち寄ってから、クエストに出かけているようです。」


「最初は加護があるということは知られていなかったようですが、複数食べた人間が、あまりの状態の違いに、ステータススクロールを使用して確認した結果、ザックス・ヴァーレンの料理の特質性に気がついた、と。」


「我が国でも、その安全な提供方法で生魚を提供してくれていれば良かったものを……。

 リシャーラ王国に渡ってから、確立するとはなんとも惜しいことだ……。」


「もとからザックス・ヴァーレンはその方法を知っていて、我が国でも安全に提供していたようなのですが、役人はそのことを知りませんからね。問答無用だったそうです。」


「なんだと!?我が国にいた時点でも、同じ方法で料理を提供していたのか?

 ならなぜそれは知られていないのだ。我が国は誰も安全性を確認しなかったのか?」


「資料にもございますが、この方法は魔塔の賢者を通じて、魚の安全性が保証される水魔法の使い方のひとつとして、各国の魔術師ギルドに共有されたようです。」


「それにより、初めてザックス・ヴァーレンの提示する安全性に箔が付いた形ですね。

 ザックス・ヴァーレンを購入したリシャーラ王国の人間が、方法を提案し、それを主導し、確立したようです。

 我が国の人間は、誰もザックス・ヴァーレンの言葉に耳を貸さなかったようですが。」


「魔塔の賢者が保証しただと!?ならばザックス・ヴァーレンの捕縛は、完全に我が国の落ち度ということになるではないか!」

 再び大臣たちがザワザワしだす。


「このことが他国に知られてはまずいな。」

「野蛮な食べ方として忌諱してきたが、むしろ野蛮で前時代的なのは我々のほうということになってしまうぞ……。」


「ザックス・ヴァーレンを我が国に取り戻さねばならぬな……。評判になればなるほど、我が国の間違いが露呈する。奴の犯罪歴をまずは取り消すのだ。間違いであったとな。

 犯罪者でなければ、他人に加護を与えられるような人間は我が国の重要な財産だ。勝手に連れて行くことまかりならぬ。ザックス・ヴァーレンを再び我が国に取り戻すのだ!」

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