第348話 加護の得られる店の秘密・その3

「レグリオ王国から抗議だと?」

「神の加護を与えられる料理を作れる料理人を、不当に国外に連れ出したというのが、先方の主張のようです。」


 リシャーラ王国国王、エディンシウム・ラハル・リシャーラを含む大臣たちが一堂に会し、長方形のテーブルを囲んで、友好国からの予想外の抗議に頭を悩ませていた。


「我が国に塩を融通してくれている友好国ですので、下手に刺激は出来ませんな。」

「本当にそのような者が我が国に?」


「調べさせたところ、ギルベルト・カーマン子爵のおさめるアタモの町で評判になっているようです。」


 それを聞いて、アーロン・キャベンディッシュ侯爵がピクリとする。ギルベルト・カーマン子爵の領地にあるアタモの町は、息子を送り出した、弟の住む村のある町である。


「不当に連れ出したというのは本当のことであるのか?もし事実であれば、友好国との関係にヒビを入れるとんでもない事態だ。」

「誰がそのようなことを?」


「Sランク冒険者、セオドア・ラウマン卿の甥御殿である、アレックス・ラウマンという人物がオーナーらしい。その者が連れて来たという正式な記録が残っている。」


「なんと!セオドア・ラウマン卿の……。

 それはこちらも下手に手出しはできぬ。」

 アーロン・キャベンディッシュ侯爵は、その事実に再び驚愕する。


「各国から引き合いのある人物ですからな。

 譲り渡しの希望が多数の国より出ている、重要な外交カードの1人です。卿の機嫌を損ねて国から出て行かれてはまずい。」


「さよう。Sランク冒険者は好きに国を選ぶことが出来る。辺境伯領近くのギルベルト・カーマン子爵の領地に住まわれていることは防衛の要でもあり、ありがたいことだ。」


「少し気になることがあるのですが、正式な記録、と先ほどおしゃいましたか。不当に連れ出したのであれば、そのような記録が残っているのはおかしいのでは?」


「それに関しては、こちらに直接報告が上がっている。」

 国王、エディンシウム・ラハル・リシャーラがそう言ったということは、王家の影からの報告であるのだろう。


「ザックス・ヴァーレンという料理人が渦中の人物であるのだが、リシャーラ王国に渡ってきた際は、犯罪奴隷であったようだ。それゆえ正式な入国記録が残っておるのだ。」


「犯罪奴隷?それであれば他国に連れ出すことになんら問題はないではありませぬか。」

 法務大臣、ロビンソン・フェアファクス公爵が首をひねる。


「過去の犯罪歴は間違いであったと、正式な取り消しをおこなったようです。奴隷でなければ国益のある人物を連れ出すことは、不当として抗議することが可能だ。」


「なんと……。よもや友好国相手にそのような強引な手段を取ってまで、返却を要求するとは……。その者はレグリオ王国にとって、余程重要な人物と見える。」


「9柱もの神の加護を授けられる料理を作れるとの評判だ。仮にこれが我が国の人間であった場合、我々も同様の手段を使ってでも、かの人物を取り戻そうとするでしょうな。」


「9柱もの神の加護ですと!?

 それは本当のことなのですか!?」

 財務大臣、ウィリアム・デヴォンシャー公爵が驚愕する。


「“ななつをすべしもの”とは、その者のことなのではないでしょうか?」

「料理人だぞ?勇者なわけがあるまい。」


 防衛大臣、デクスター・グリフィス侯爵の言葉を、宰相、マーシャル・エリンクス公爵が否定する。


「我々としても、そのような有用な人物が我が国に移ってきたというのに、簡単に引き渡すことは望ましくないですな。」


「さよう。不当に連れ出したとまで言われるのであれば、こちらとしても正当な入国手続き履歴を盾に、抗議をすることも可能だ。」


「問題はレグリオ王国が友好国であり、生命線である塩を握られているという点です。

 他国からの塩を確保出来ない限り、あまり強気に出るのは望ましくない。」


「今日までレグリオ王国以外からの塩を確保することが出来ませんでしたからな……。

 レグリオ王国と取引しているのであれば、数を渡すことが出来ないとして。」


「改めて塩の確保につとめましょう。最悪レグリオ王国との取引を切ってでも、大量に確保したい旨を打診するのです。塩さえなければレグリオ王国など必要ありません。」


「さよう。国力であれば我が国は引けを取らぬ。塩のことがあったからこそ、長年友好国として関わりを持ってきたが、そのような人物を引き渡すことは大いなる損失だ。」


「リシャーラ王国を舐めているとしか思えませんな。しょせん塩のことがあるから、折れてくるであろうと思っているのでしょう。」


「レグリオ王国を切ってでも、かの人物を守るべきと考えます、陛下。」

 筆頭補佐官、デニス・アルグーイ公爵が進言する。


「そういう声が上がると思っておった。」

 国王、エディンシウム・ラハル・リシャーラはニヤリと笑った。

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