第336話 馬車から降りてきた人
利用者はそれ込みの金額を支払って、船を借りるということになる。自分の船を持っていない漁師なんかは、定期借り上げをすることで、観光客よりも安く利用しているんだ。
だから貸船屋から船を借りて、その上で待機してマーマンから金塊の混じった岩盤を受け取る事も出来るだろうけど、かなりの量になるから、船に乗せられる量は限られる。
こうして港で受け取ったほうが、楽だしお得なのは想像出来る。それに冒険者を雇うにも、港を使うのにもお金がかかるからね。今日の分がもったいないんだろうね。
だけど、他国からの船をわざわざ王宮の兵士が出迎えるということは、当然王宮の客人だ。兵士のやり取りを見る限り、そこには優先権が存在するのだろう。
王族個人を指し示す紋章ではなく、レグリオ王国の紋章をつけた馬車であれば、中に乗っているのはレグリオ王国の王族ではない。
王宮の役職持ちの要人が、リーグラ王国の船に乗っている人たちを出迎える為に、港までやって来たということだね。
そうなると、荷下ろしの必要な船と同程度には、リーグラ王国の船から荷物と人が降りて、レグリオ王国に来るか、はたまたその逆で乗り込むかのどちらか。
どちらにしても時間がかかる。乗るほうであれば馬車は1台だからそこまで時間はかからないけど、降りる方だったら、今日はこのまま海に潜るのは不可能と見たほうがいい。
まあ、乗り込むにしては従者が少な過ぎるから、恐らく出迎えに来たんだろうね。リーグラ王国のお姫様たちが難破して到着した際に、失った従者の代わりってとこかな。
リーグラ王国からレグリオ王国までは、普通の船で最低でもひと月半はかかる。従者もなしに他国には行かれないから、レグリオ王国でその間お世話になっていたんだろう。
許可を得てこの場所で潜っていたのなら、言い分もわからなくもないけど、王宮の馬車を連れた兵士が、立ち去れって言っているのに食い下がるのは、かなりの不敬にあたる。
単なる船と同じ扱いをするのは、かなりまずいと思うんだけど、叔父さんの言い回しもわからないような人だからね。きっとわからないんだろうなあ。
かと言って僕や叔父さんがグランドール男爵令息にそれを教えたら、確実にグランドール男爵令息の関係者だと思われかねない。
そうしたらグランドール男爵令息が処罰を受ける場合、僕らも同じ扱いになってしまうんだ。だから僕らはだんまりを決め込んだ。
「さあどいたどいた、いつまでも居座るのであれば、最悪捕縛することになるぞ?」
王宮の兵士にグイと体を押されて、悔しそうにしながら下がるグランドール男爵令息。
ゆっくりと船が近付いて接岸し、錨をおろした。船から降ろされたタラップが、極力動いてはずれないように、兵士たちがくくりつけを手伝っている。
最新鋭の船だと、側面の低い位置から乗り降り出来る船もあるみたいだけど、従者の為の船がそこまでいいものな筈もなく。
普通に甲板から降りる仕組みみたいだ。
側面が開くってことは、その分側面の強度が弱いってことだからね。それを補う仕組みを取り付けているんだとしたら、当然高いんだろうから。
先に降りた船員たちが、乗ってきた従者たちが降りるのを手伝っている。荷物は船員たちに任せて身軽な筈だけど、それでも揺られるタラップを歩くのが大変そうだ。
錨を下ろしても、どうしても船は波に揺られるものだからね。荷物を運ぶのにも熟練さが求められるものだと聞いたことがあるよ。
その時、港につけられていた馬車の扉が開いて、中にいた女性がまず降りて、更に降りてくる人を、エスコートする騎士さながらに、恭しく手を差し出して降ろしている。
「あ。」
「あれ?」
僕と叔父さんが同時に声を出す。
エスコートされて降りてきた女性は、ウェービーなオレンジに近い金髪を肩に垂らし、青い目をしていた。リーグラ王国のザラ・アウラ・スティビア第一王女殿下だ!
「ザラさま!遅くなって申し訳ありません!
さぞご不安だったことでしょう!
直接お出迎えいただくなんて!」
「いいえ、ただあなたたちが到着するまで不安だったのよ。前回の旅では、多くの民が失われたわ。あなたたちの無事な姿を確認するまでは、どうしても怖くて……。」
「ザラさま……。」
ザラ王女の言葉を聞いて、従者たちが泣きそうになっている。
嵐にあって、クラーケンにも襲われて、従者が誰もいなくなっちゃったんだものね。とても怖い思いをした筈だ。クラーケンは遠くに追いやっただけだし、自国の船がまた遭遇しないか、不安だったのかも知れないな。
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