第335話 貴族のやり取りの仕方
だから禁じられていないってことだね。
あくまでも貴族の為のものなんだ。だけどグランドール男爵令息の言う通り、相手が平民であっても、貴族が投げた手袋は有効だ。
手袋を拾ってしまえば、決闘を受けざるを得ない。決闘を成立させる為の法律と、その後に出来た貴族間の決闘を禁じる法律の間をついた、セコいやり方だと言える。
それを利用して、平民が貴族に逆らえないのをいいことに、今までもこうして決闘をしかけて、色んな無理難題を言ってきたんだろうか。あまりに手慣れている感じがしたよ。
「ええ。そうですね。
だからあなたはアレックスにお礼を言ったほうがいい。あなたの父親からも、正式な御礼状を添えてね。」
「はあ?何言ってんだ、お前。」
ここまで言われても叔父さんが何を言わんとしているのかわからないみたいだ。貴族の言い回しに慣れていなさ過ぎじゃないかな?
ひょっとして庶子だったりするのかな。
ちゃんと子どもの頃から貴族の教育を受けていれば、裏の意味を含んだ話し方に、もう少し慣れていても良さそうなものだよね。
父親、つまりグランドール男爵の正式な御礼状が必要ということは、それが必要となるだけの行為を男爵令息がしたということだ。
今息子が男爵家の顔に泥を塗る行為をしたが、それを救ってくれたことに対する、アレックス──つまり僕へのお礼が必要な状況ですよということだね。
今まさに僕に救われようとしているのがわかりませんか?と叔父さんは言っているというわけ。だから早くそれに気がついて、この場は引きなさいと諭している状況だ。
でももう、ここまで説明してわからないのであれば、それは貴族に対する説明の仕方じゃ通用しないということだ。
「貴族間での決闘は、しかけた相手が理由を問わず罰せられる。これは国際法ですべての国に定められているのはご存知ですよね?」
「それがなんだってんだよ。受けた場合は受けた相手も罰せられるが、しかけた方の罪が大きく設定されてる。だけど相手が貴族でない場合は、双方に咎がないはずだ。」
「下位貴族では外国の貴族の名前など聞いたことがないのも無理はありませんが、もう少し調べてからのほうが良かったですね。」
叔父さんが噛み砕いて説明する。
「アレックスはリシャーラ王国、キャベンディッシュ侯爵家令息です。」
僕は叔父さんの紹介にうなずく。
「アレックスに手袋が当たっていた場合、あなたはうむを言わせず死罪、または犯罪奴隷になっていたのですよ?」
「侯爵、家……?」
ようやく事態が飲み込めたらしいグランドール男爵令息が、真っ青になって汗を流している。
「も、申し訳ありません!
他国の上位貴族の方とは知らず……!」
グランドール男爵令息が、直立不動からの深々としたお辞儀で謝罪してくる。
「あなたはいつもこうしたことを平民にしているのですか?やけに手慣れていたように思いました。手袋は軽くて投げにくいものですが、あなたは的確に僕に手袋を当ててきた。
……とても初めてとは思えません。」
「そ、それは……その……。」
その通りなんだろう、グランドール男爵令息は、目をキョロキョロとさせたまま、何も答えることが出来ないでいる。
「……貴族籍を抜けるのに時間がかかっていてよかったな。まあ、抜けていたとしても、あの様子なら乗り切れたとは思うが。」
叔父さんが小声で僕に告げる。
「そうだね。でも、平民に同じことをまたしないとも限らないし、どうにかやめさせることが出来たらいいんだけど……。これで反省するとは正直思えないよ。」
「そうだな……。」
僕らがグランドール男爵令息への扱いを決めかねていた時だった。港にレグリオ王国の紋章をつけた馬車と護衛の兵士が到着した。
「我らはレグリオ王国第2騎士団。
こちらでリーグラ王国からの船を出迎える予定である。無関係な者は早急にここを立ち去って欲しい。」
「お、王宮!?
いや、俺は今、許可を得てここで漁をさせているんだ。冒険者に依頼も出しているし、そんなことを急に言われても困るぞ!?」
グランドール男爵令息が、レグリオ王国の第2騎士団からの立ち退き要請に反論している。もともとグランドール男爵令息がいる場所は、普段使われない船着き場の近くだ。
それ以外の場所は他の船が使っている。
貸船屋や漁師が定期的に使っている場所は決まっているから、借りられるのはそれ以外の場所ということになるんだ。
そして港の利用にはお金のかかるものだ。
貸船屋というのがこの国にはあるけど、それだって貸船屋が港の定期利用申請をして、お金を払っているものなんだよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます