第328話 面倒くさくて可愛い姉

「──ん。」

 後ろ手に手を組んで、僕に体を突き出してくるディダ姉さま。えっと……。それが何?

 なんだかとっても可愛くはあるけど。


「ん!」

 更に体を突き出してくる。なんだろう、僕のことを抱きしめたいなら、そうすればいいのに、みんなと一緒に来ないでここにいる。


 それに意味があるってことなのかな?

 抱きしめに来ないで、僕に向かって両手を広げるわけでもなく、僕のことをここで待ってたの……?なんで?


 あ、ひょっとして?

 姉さまが僕を抱きしめるんじゃなく、僕に抱きしめて欲しいってことかな?

 僕の方から来てくれってそういうこと?


 ディダ姉さまが会いに来るんじゃなく、僕が会いに来たいと思ってる。

 ディダ姉さまが抱きしめたいんじゃなく、僕が抱きしめたいと思ってる。


 他の兄弟たちよりも誰よりも。

 ──ってことにする為には、僕のほうからディダ姉さまを抱きしめるんじゃないと、意味がないってことなのかな?


 こうして、言外にアピールした結果、僕に抱きしめさせるのなら、僕が自分からしたいと思ったことにはならないと思うんだけど、ディダ姉さま的にはこれで満足なのかな?


「会いたかったです、ディダ姉さま。」

 僕はディダ姉さまをギュッと抱きしめた。

「……ん。」

 ディダ姉さまは満足そうに目を閉じた。


 良かった。どうやら正解だったみたいだ。

 面倒くさくて可愛い人だな、ディダ姉さまって。小さい女の子がしてくる、察してタイプのワガママを言う人だってことだね。


 僕にはあんまりそういうのの正解がわからないから、どうしていいか困るけど……。

「あんまりオニイチャンを困らせないでください、ディダ姉さま。」


 そこにピシャリとキリカが文句を言う。

「いいよ、キリカ、僕はだいじょうぶだからさ。どうして欲しいかの正解がなかなかわからなくて、少し困っただけだから。」


「そんなこと言っていいんですか?

 神は他人の言葉を聞かない生き物なんですよ?ほっといたらいくらでも好きなようにされちゃいますからね?特にオニイチャンなんて、女の人に甘いんだから。」


「そ、そうなの?」

「オニイチャンなんて、兄さまや姉さまたちに比べたら、聞いてるほうですよ。

 神とはそういう生き物なんです。」


「ぼ、僕って、人の話聞いてないと、キリカに思われてたの?」

「ええ。ああ、やっぱりあの人たちの兄弟なんだなって思ってました。」


 ガーン……。ショック……。

 神さまとしてはそれが普通なのかも知れないけど、人間としては駄目じゃない?


「まあ、自分で責任を持って、何事も決めなくちゃならないからな。意見を聞いたり相談したり、基本しないな。」


「何をするにしても、己だけで考え、決め、行動しなくてはならぬのだ。

 他者の意見に惑わされるようでは、神などつとまらぬのだよ。」


「まあ、それがどんな結果を引き起こしたとしたって、そこは僕らが考えることじゃないからねえ。まず自分がやりたいと思った通りに動く。これが大切なんだよ。」


「人間としてはズレてると思われちゃうよ。

 うう……。それはちょっと嫌だなあ。」

 僕、気持ちとしては人間なんだもの。


「オニイチャンはこれから、神として力を増していかなくちゃならないんですから。

 人間らしさなんて、気にしてたら辛くなるだけですよ?」


「そうかも知れないけど……。半分人間なわけだし、人からはみ出て生きていきたくはないんだよ。人の心は残していたいよ。」


 僕が神さまとしてどんどん力が強くなっていったら、感覚が人と離れちゃうのかな?

 そうはならないよう気をつけなくちゃ。


「何をくだらない話をしているのだ。

 せっかくようやく直接弟と話せるようになったのだぞ?もっと姉を構え!

 私を可愛がるのだ!」


 空気を読まずに自分の要望と目的を突然言ってくるディダ姉さま。なるほど……。これが話を聞かない神さまらしさってものかあ。

 まあ、猫みたいだと思えば普通かなあ。


「ディダは兄弟たちからも、人間からも、構われたり褒められたりすることが少ないからねえ。兄弟の中じゃ、1番の構ってちゃんになっちゃったよね。」


「まあ実際、私がオニイチャンと念話している最中に、1番、後ろで喋らせろとうるさかったのは、ディダ姉さまでしたからね。」


 確かに美人だしスタイルいいのに、ディダ姉さまの容姿が褒めの形容詞に使われることって、まったくといっていいほどないかも?


「そうなんですね……。

 でも、ディダ姉さまはとってもキレイですし、僕から見たら可愛いですよ?」


 ディダ姉さまが、目をらんらんと輝かせて何かを期待するかのように僕を見てくる。

 なんだろう、頭にピコピコと、猫の耳が動いているような錯覚すら見えるよ?

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