第314話 パブリミ商会、商会頭の娘
「レンジア、どうにか出来るの?」
「ご命令いただければ。」
レンジアの話し方がいつもと違う。これが王家の影としての、任務の時の顔なんだ。
「わかった。レンジア。
あの女の人を救って。」
「御意。」
そう言った途端、レンジアがフッと姿を消したかと思うと、男の人の首に、デビルスネークに刺さっていたのと同じ、暗器がプスッとささり、男の人がグラリと倒れる。
バシャーン!
男の人が後ろの噴水に仰向けに倒れたと同時に、レンジアがまた僕の横に姿を現した。
「任務完了。」
「やった!そいつを捕まえろ!」
「オーナー!ご無事ですか!」
「ええ……。」
警備兵が無事女の人を保護した。
「凄いや、レンジア!」
「大したことない。」
レンジアがうっすら頬を染めている。
噴水に仰向けに浮かんでいる男の人は、大きなイビキをかいて眠っていた。暗器の先に強い眠り薬が塗ってあったんだね。
叔父さんは噴水の中に入って行って、男の人の首からレンジアが投げた暗器を抜いて、それをマジマジと見つめている。
襲われた時にデビルスネークに刺さった暗器を叔父さんも見てるから、あの時投げたのがレンジアだって、気が付いたんだろうな。
「──まずいの。アレックス、今のでそなたの叔父は認識阻害魔法から外れたぞよ。
あの武器、なにか特殊な仕様なのかの?」
ミルドレッドさんがコッソリと僕に告げてくる。え!?そうなの!?僕はレンジアを振り返った。レンジアがコクッとうなずく。
「対魔法武器。あれを持っていると魔法にかかりにくい。魔法を跳ね返すことも出来る。
状態異常に耐える。」
と言った。
認識阻害魔法は、範囲魔法かつ、対象者を指定する魔法ってことなんだね。僕が同じ武器を持って戦いつつ、認識阻害魔法をかけてもらうのは不可能ってことだ。
レンジアがこれを使っているのは、王家の影が殆ど持っていると噂される、隠密のスキルの持ち主だからなんだろう。
スキルは魔法と違って、魔法禁止の魔道具の対象にはならないから、魔法禁止の魔道具のある王宮なんかにも、潜入し放題なんだ。
「あんたが助けてくれたのか!凄い腕だな!
よくやってくれたよ!」
「いや、俺は……。」
噴水から出た叔父さんを人々が囲む。
「旅の冒険者か?見慣れない顔だな。」
「謙遜するなって!助かったよ!」
暗器を手にした叔父さんを見て、町の人たちは口々に叔父さんを褒めそやした。
「あの……。助けていただいて本当にありがとうございました。
何かお礼が出来ればよいのですが。」
人質になっていた女の人が、警備兵に支えられながら、叔父さんにそう言ってくる。怖い思いをしたばかりなのに、気丈な人だな。
「それより早く店に戻らなくてもよいのですか?警備兵がここにいるということは、あなたの店は危険なのでは?
この隙に泥棒でも出たらことだ。」
確かに。鍵もかけないで宝石店がもぬけの殻なんだものね。警備兵もここにいるし、その隙に盗ろうと思ったら盗り放題だよ。
女の人は叔父さんにそう言われて、あっ、という顔になる。警備兵に、私はもうだいじょうぶなので、先に戻って店を守って下さいと告げると、再び叔父さんに向き直った。
「改めまして、シャオラ・パブリミと申します。ナムチャベト王国パブリミ商会、商会頭の娘です。商会後継者たる、商会頭の娘を救っていただいたのです。商会をあげて恩に報いませんと、パブリミ商会の名折れです。」
僕と叔父さんは顔を見合わせる。
キリカ!ここって!?
【ナムチャベト王国で、間違いないですね。
彼女の言っていることは、すべて本当のことです。ようやく当たりが来ましたね。】
やった!ナムチャベト王国だ!
船を探さなくて良くなったね!
「それでは、もしもいつかお力が必要になった時にお貸しいただけますか?
俺はセオドア・ラウマン。リシャーラ王国のSランク冒険者をしている者です。」
「まあ、はるばるリシャーラ王国から。
あなたさまが偶然いらしていただけて、本当に助かりましたわ。」
「オーナー、いくら助けていただけたからって、素性の分からない方を簡単に信じるのはいかがなものかと……。あの元恋人の時だってそうだったじゃないですか。」
別の女性がシャオラ嬢に、心配そうにそう告げる。商会頭の娘で次期後継者なんていう狙われやすい立場なのに、あんまり人を疑わない人なのかな?確かにその心配もわかる。
「俺は以前にナムチャベト王国王太子、スレイン・アシット・エイシャオラ殿下の護衛をしたことがあり、俺の素性はそちらで保証していただけるかと。」
「おお、スレインさまの護衛を……。」
「こりゃ、本物の英雄だ。」
周囲の人が叔父さんの経歴を知ってまたザワザワしだす。
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