第313話 人質事件
「よかったら、叔父さんにあげるよ。
好きでしょ?ルビリオの家具。」
「いいのか!?」
「うん、僕別にこだわりないし。」
大事にしてくれる人が持ってたほうが、作った人も嬉しいだろうしね。それにルビリオの家具があると、狙われることがあるけど、叔父さんなら問題ないだろうし。
死んだ人の持ち物は、遺族が管理してない場合は、見つけた人に権利のあるものだからね。お墓の中の物も含めて。すでに僕の物ではあるんだよね、法的には、一応。
かと言って、リシャーラ王国の先代王のアイテムボックスの中身みたいに、下手に売ったり人に譲れないものもあるけど……。
とりあえず、後でゆっくり家具を見てもらうことにして、外に出てみた。
──あれ?
てっきり貴族の屋敷に出ると思ったのに、出たのは古ぼけた家具工房だった。大勢の職人さんたちがせわしなく働いている。
そして、みんなルビリオの家具と似たような家具を作ってるみたいだ。
まさか、ここって……。ていうか、あのアイテムボックスの持ち主って!?
キリカ!ここってどこ!?
【メルジェ王国、ルビリオ・ポートマン工房内です。半島と多くの島々からなる国です。
温暖で雨の多い冬と、涼しい夏が特徴で、風土が家具作りに適しており、良質の家具工房が多く存在する国となります。
ルビリオ・ポートマンはその代表的な家具職人の1人です。】
や、やっぱり……。
91番目の扉をいったん閉めた。
「ここ……、ルビリオ・ポートマンのアイテムボックスみたい……。」
と、僕は叔父さんにそう言った。
「ということは、メルジェ王国か。」
「うん、そうみたいだね。」
「位置は悪くないな、メルジェ王国は海に面した半島で、ナムチャベト王国の海を挟んだ反対側だ。ただ小国だからな……。」
「直通便がないかも知れない?」
「ああ。」
キリカ!ここからナムチャベト王国への直通便はある?
【回答、ありません。】
「ないって。けど、今のところ一番ナムチャベト王国に近い国でしょう?
最悪空を歩いて行くとか?」
「よせよせ、どれだけ遠いと思ってる。
人間の歩ける距離じゃないぞ。
それよりメルジェ王国で船を借りたほうが建設的だ。そこまでの距離を行くとなると、貸船屋が行けるかわからんが。」
「大きな船がいるよね?小国だと、貸船も大きなものは停泊出来ないかも……。」
「そうだな、おそらく難しいな。」
キリカ!メルジェ王国の貸船屋さんに、大きな船はある?
【回答、ありません。】
「ないみたい。やっぱり大国じゃないと、大きな船は借りられないよね……。
やっぱりもう少し探そうか。」
「ああ。」
92番目・細工師(小さな宝石、金属類、アクセサリー等多数)。
というわけで、次は92番目だ。
開けた扉から、たくさんの宝石や小さなアクセサリーなどが、いくつも並べられた店が現れた。店には誰もおらず、表通りも人っ子一人歩いていない。
あれ?どうなってるんだろう?宝石店に警備兵1人いないなんて……。よく見ると扉は開いていて、妙に外がザワザワしている。
人の姿が見えないのに、声だけは聞こえるってことは、離れた場所に人が集まってるってことだ。なにかあったのかな?
「変じゃの?嫌なニオイがするぞよ。」
ミルドレッドさんが鼻を動かす。
「みんな、外に出てみよう。
これ、ちょっとおかしいよ。」
「そうだな、何かあったのかも知れない。」
叔父さんもそう言ってうなずく。レンジアは声を出さずにコクッとうなずいた。
外に出ると、離れたところに人垣が出来ていた。そしてその1段高いところに人影が。
後ろに噴水があって、その前に、女の人の首にナイフを当てた男の人がいる!
「終わりだあ、俺はもう終わりなんだあ。
こいつを道連れに死んでやる!」
「やめろ!オーナーに手を出すな!」
警備兵らしき装備をした男の人が、泣いている女の人に手を伸ばして、オーナーと呼んだ。あの女の人が宝石店のオーナーで、男の人が店の警備兵ってとこかな?
「わかったからあ……。もう別れるなんて言わないからあ……。やめてよう……。」
女の人が消え入りそうな声でそう言った。
ようするに、あの宝石店のオーナーに別れ話をされた男の人が、オーナーを道連れに無理心中をはかろうとしてるってことかな?
痴情のもつれってやつ?
男の人はすっかり錯乱していて、とても話が耳に入っている風じゃない。
どうにかして、あの女の人を助けないと!
「──アレックスさま、ご命令を。」
ここまで静かにしていたレンジアが、正面を向いたまま僕にそう告げる。
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ミルドレッドさんが嗅いだニオイの原因は今回の件に関係あるけど、今は関係がない。
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