新しい商品の開発

第299話 意外と強い彼女

「ミ、ミーニャ……?その、だいじょうぶ?

 なんだかボーッとしてるけど。」

 僕はなにやら考え込んでいるミーニャに声をかけた。ミーニャはハッとすると、


「あ、ごめんねアレックス、なんか、突然クエストが発生したものだから。」

 と笑顔で言った。


「クエスト?ミーニャ、それを受けるの?」

「んー、なんかね、受けないっていう選択肢がないみたいなの。失敗したからって何があるわけでもないみたいだけど……。」


 え、そうなんだ、英雄のクエストって、強制クエストなんだ!

 ペナルティがないのがせめてもの救いだけど。ミーニャ、受けるつもりなのかな?


 あんまりミーニャに危ないことはして欲しくはないけど……。

 というか、そうだ!キリカがミーニャは冒険者になったと言ってたけど、まさかね?


 だけど……。叔父さんが選んだ時より使い込まれた感じの石弓。少し土のついた肌。なにより、これ、よく見たら弓使いの革の防具だ。心臓を守る胸当てを身に付けてる。


 まるでクエスト帰りのヒルデみたいだ。

 ミ、ミーニャ、まさかほんとに、冒険者になったの!?


「ミーニャ、あの、その、なんか、変わったね……?まるで、その、ミーニャが冒険者みたいに見えると言うか……。」


 ミーニャはパアッと表情を明るくして、

「わかる!?私、冒険者になったの!!」

 と無邪気に言った。


「そ、そうなんだ、知らなかったな。

 ミーニャはいつ冒険者になろうと思ったの?この間会った時は、なにも言ってなかったよね?」


「あ、うん。アレックスの住んでるところは魔物が住んでる山が近いんでしょう?

 だから私もそこに住むのなら、魔物くらい倒せるようにならなきゃと思って。」


 ミーニャが恥ずかしそうに、上目遣いでそう言ってくる。

「ミーニャ……。」

 僕はちょっとドキドキした。


「ほんとは次に会った時に話すつもりでいたんだけど、その……。それどころじゃなくなっちゃったから、タイミングを逃したっていうか、伝えるのを忘れちゃって。」


 それどころじゃなかった???


【オニイチャンがミーニャさんの裸を見ちゃったからですよ。あの時既にミーニャさんは冒険者になっていたんです。】


 あ!あの時か!!

 た、確かに、それどころじゃないかも。水浴びしていたミーニャの裸を思い出して、僕は思わず赤面する。


 思わず照れて、お互い顔をそらしてしまった僕らを見て、

「なんなのじゃ!わらわをのけ者にして、2人でイチャつくでない!」


 ミルドレッドさんが、両手の拳を突き上げたポーズで講義してくる。そう言えばミルドレッドさんの存在を忘れてた!


「アレックス、この子は?」

「あ、その、彼女はミルドレッドさんって言って、僕の、」


「わらわはアレックスの1番目なのじゃ!

 よろしく頼むぞ!2番目!」

 胸に手を当ててドヤるミルドレッドさん。

 ちょおおお!ミーニャに何言ってるの!?


「そ!その!彼女こう見えて魔物なんだ!

 僕の使役した!パートナーって言うか、」

「公私ともにの!」

 余計なこと言わないでえ!


「魔物……?」

 ミーニャが不思議そうに首を傾げる。人間そのものに見えるものね、無理もないよ。


 ミーニャはミルドレッドさんをしげしげと眺めていた。ミルドレッドさんはフフンと鼻で笑って腕組みをしている。


 ミーニャは、僕の腕を取って自分の方に引き寄せると、ニッコリと微笑んで、

「アレックスの婚約者のミーニャです。

 よろしくね、ミルドレッドさん。」


 と言った。ミーニャ、つ、強い。まるで夜会の時の貴族の令嬢だ。動揺している僕に、

「使役してる、魔物なんでしょ?」

 と、またニッコリ。


「うん。ミルドレッドさんは、クリスタルドラゴンが人型になった姿なんだ。」

「ドラゴン!?」


「うん……。信じられない、かな?」

「ううん。信じるわ。アレックスはいつだって、まっすぐな人だから。」

「ミーニャ……。」


「ほお。わらわは2番目以降を気にせんが、そなたが2番目とは、なかなか面白い。

 このわらわに怯まぬおなごとはの。

 なかなかやりよるの、2番目。」


「アレックスに別の婚約者がいて、──それを眺めてるだけだった頃とは違うもの。アレックスは自分の意思で私を選んでくれた。だからもう誰にも譲らないって決めたの。」


 相手がドラゴンだろうともですよ?とミーニャはミルドレッドさんにニッコリと微笑んだ。そんなこと思っててくれたんだ。


 ミルドレッドさんはフフンと笑いながら、ムギュッ!と僕の腕にしがみついた。それを見たミーニャが、反対側からまた僕の腕をムギュッ!当たってる!当たってるから!


 そんな僕とミルドレッドさんを交互に眺めながら、ミーニャは何故かメラメラと闘志を燃やした表情で、僕の腕を掴むのだった。

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